未来への構想を有利に展開する競争 − コア・コンピタンス経営⑦

未来に一番乗りすることができれば、その新製品のシェアを事実上独占することができます。自ら競争ルールをつくり上げ、他社もそれに従わざるを得なくなります。

しかし、それに伴うリスクを管理しなければなりません。

また、未来に向けた競争は長距離走ですから、一番乗りするためには、常に最短距離を見つけ出す努力をしなければなりません。

リスク管理

不確定な未来に向けた競争には大きなリスクが伴いますから、リスクの管理はしっかりと行う必要があります。

もっとも深刻なリスクは、大規模な投資が回収できないという財務リスクです。注意すべきことは、未来に一番乗りするために、必ずしも会社の命運を賭けるような大規模投資をしなければならないわけではないということです。大事なのは、限りある経営資源をレバレッジすることです。

先駆者になろうと焦るあまり、事業機会の本質を正確に理解しきらないうちに資金を投下してしまうと、失敗の可能性が高まります。顧客需要の正確な性質、新製品やサービス・コンセプトの妥当性、市場戦略の調整の必要性などを、素早く、低コストで学ぼうとすることが大切です。

例えば、次のような方法があります。

・開発の早期段階から顧客を参加させる
・従業員や顧客を使って小規模な市場実験を行って、新製品のコンセプトやプロトタイプを定期的に試験する
・提携パートナーと投資リスクを負担し合う
・未知の顧客層や技術群について、新しい展望を得るためにパートナーを利用する

これらは経営資源のレバレッジそのものです。

このような工夫をせず、最初から大規模な投資をし、画期的で完璧な製品を大々的に売り出そうとして、失敗することがよくあります。

最短距離を見つけ出す

未来に一番乗りするためには、最短距離を見つけ出さなければなりません。根本的に変わった産業が構想されてから現実に相当規模の市場が台頭してくるまでには、通常、長い年月を必要とするからです。

すでに述べたとおり、未来の競争には3段階があります。第一段階は未来をイメージする競争、第二段階は新たな市場や業界構造に向けて最短の道を切り開く競争、第三段階はシェアと市場ポジションをめぐる競争です。多くの人が注目するのは、第三段階の競争ですが、この時点では、すでに業界構造が確定しており、ほとんどラストスパートの状態です。長い年月をかけてコア・コンピタンスを磨き、準備を重ねてきた成果が現れるところです。

未来に一番乗りするための競争は、業界発展の道筋に与える影響力をできるだけ大きくしようとする競争でもあります。影響力を決定する要素には、提携の構築とその管理能力、新規事業分野で顧客価値観の中心となるコア・コンピタンスの構築に成功すること、市場から素早く学習する能力、グローバルな心理上のシェア(ブランド力、流通力)、規制環境を形成する能力、標準規格となる技術への影響力、知的所有権のコントロールなどがあります。

影響力を大きくするためには、まず、提携の構築とその管理能力が重要です。未来のための競争は、個々の企業間だけでなく、企業連合間にも生じることが少なくありません。幅広いさまざまな企業のスキルや能力を統合しなければならないことが多いからです。海外の企業と提携することで、その国の規制動向に関与し、政治的な不安を緩和することができることもあります。もちろん、リスクを共有することによって、個々の企業の負担を減らすことができます。

強力なライバルとなり得る競合他社とあらじめ提携することにより、代替品の脅威を封じることもできます。ただし、競合他社との企業連合は、最終段階においては激しい競争関係に入ることもしばしばです。したがって、企業提携の管理では、時間の経過とともに、競争すべき点と共同すべき点のバランスを注意してとらなければなりません。

企業連合で重要なポジションは、結節企業となることです。そのためには、自社のコア・コンピタンスが他の企業と比べてユニークで重要であるかどうかにかかっています。結節企業は、すべての提携パートナー間には関与の程度に差があることをわきまえておかなければなりません。関心の幅がさまざまだからです。単なる情報収集源としか見ていない場合もありますので、注意が必要です。