組織の第三様式「補助的責任」 − ブラウンの経営組織論⑩

この記事では、かつてアメリカの組織論における独特な一角を占めたアルヴィン・ブラウン(Alvin Brown)の『経営組織』(Organization of Industry, Prentice-Hall Inc., 1947)を紹介します。

企業には、経営活動の主流と呼ぶべき業務の流れがあります。これは、当該企業の諸目的を達成するのに直接的に貢献するすべての努力を含みます。一般的に「ライン」と呼ばれる業務です。

これに加えて、経営活動の主流の業務を援助し、補足することによって、目的の達成に間接的に寄与する業務もあります。このような間接的な寄与を「補助的(auxiliary)」と呼ぶことができます。

【原則】
  • 組織は、経営活動の第一次的な対象と補助的な対象とを区別しなければならない。

この区別は企業の目的に対する関係に基づいたものであり、相対的な重要性に基づいたものではありません。

企業目的に直接的に貢献する経営活動を「第一次責任」と呼び、第一次的対象に奉仕(サービス)することによって企業目的に間接的に貢献する経営活動を「補助的責任」と呼びます。

補助的責任とは

【原則】
  • 経営活動の補助的な諸対象について、諸責任が構成されることがある。

補助的な経営活動を独立した別個の責任として構成するのが、組織の「第三様式」です。補助的責任を別個の委譲とする動機は3つあります。

第一に、経営活動の主流に従事している成員たちを、付随的かつ随伴的な事柄に煩わされないようにすることによって、彼らの努力を主流に集中させることです。

第二に、補助的責任を専門化することによって、特に技術的な知識または熟練を要する課業を遂行する能力を増大させることです。

第三に、経営活動の主流に関わる責任と補助的責任とを同一人に委譲すると、利害関係の矛盾が起こる可能性があるので、これを避けることです。

ただし、小規模企業においては、補助的責任の範囲が一人分の責任に満たないことがあり得るために、別個の責任にできないことがあります。

責任の規定

経営活動の主流に当たる第一次責任と、これを支援する補助的責任について、理念的には区別できますが、実際上は必ずしも明確でないこともあります。

例えば、財務や人事は、あらゆる仕事に関わるので、一律に補助的責任(いわゆるスタッフ部門)として分類されることがありますが、それは正しくありません。

財務と人事(お金と人)は、一方で、企業の目的にかかわらず前提として直接的に必要なものです。他方で、専門的なスキルが求められ、業務の幅も広いので、補助的な業務も含まれます。

ですから、財務や人事は、第一次責任に直接関わる部分については、その責任に含ませ、それらの責任を専門的にサポートする機能を、補助的責任として分離するという二段構えにするのが一般的です。

ただし、このような不確かさが組織の目的にとって致命的になることはないはずです。補助的責任の本質的な性格を認めることにより、第一次責任との関係を明らかにすることができます。

第一次責任に対して明瞭に補助的とは言い難いものは、補助的責任として分離して規定することが難しいでしょう。

補助的責任の分離および規定については、第一次責任と同様の基準並びに原則が適用されますが、特に、利害関係が対立するような責任とは一緒にしてはならないという原則が重要です。

 

補助的責任は、そのサービスを受ける他の責任とは分離することが健全であり、他の諸条件がこれを許す限りは、これを守るべきです。

補助的責任の判断基準

補助的責任の分離については、必要かどうかというよりも、望ましいかどうかによって判断するのがよいといいます。

大抵の補助的活動は、経営活動の主流にある諸責任を持つ人たちに委ねることができないわけではないからです。

別個の責任に分離すれば、それだけ人員と経費が余分にかかりますから、それを補って余りある効用が得られる必要があります。

考えられる効用は、第一に、責任の分離による専門化の利益です。第一次責任の受任者が、必要ではあっても主要ではない業務に時間を取られ、しかも不慣れな分野であるために効率が悪いとすれば、専門家が代わって遂行することによって効率的かつ効果的になるはずです。

考えられる効用の第二は、主要業務への努力の増大による利益です。専門家への代替によって第一次責任における努力が節約でき、その節約分の努力をさらに主要業務に投入することによって、一層効果が高まるはずです。

例えば、「法務」はすべての責任に奉仕し、高度な専門性が求められますから、他の責任とは連結困難です。よって、法務責任を企業内部に設けるときは、一個の独立した委譲とするのが一般的です。

「人事」もすべての経営活動に必要ですが、特定の責任に関わる人員配置や教育などのほかに、評価、団体交渉、苦情処理、福利厚生など、企業と従業員との間の種々雑多な内容を含むので、内容に応じて分離するかどうかを分けたほうがよいでしょう。