ターゲット、資源配分、新しい戦略プログラムおよび予算 - 「バランス・スコアカード」とは何か?⑨

バランス・スコアカードを、全社的にコミュニケーションし、部門やチームや個人の目標とリンクさせることは、人的資源を戦略に整合させることを意味します。

しかし、それだけでは不十分です。財務的資源や物理的資源も戦略に整合させなければなりません。

長期的な戦略は置いておいて、いつもの短期的(年度)な発想で予算編成をするようではいけません。長期的な戦略を達成するために本年度なすべきことに予算を配分しなければなりません。

背伸びした意欲的なターゲットの設定

バランス・スコアカードは、企業ないし組織の変革に利用するのがもっとも効果的です。

変革を成し遂げるには、3年から5年のうちに達成できるような業績評価指標のターゲットを設定すべきです。それは飛躍的な業績を意味するような、背伸びした意欲的なターゲットになるはずです。

従業員に対し、意欲的なターゲットを要求する経営トップは多いですが、それを達成するために必要な知識、ツール、手段などを提供していることは希です。

そのような不整合が起こる理由は、個別の独立した財務的指標で意欲的なターゲットを設定することが多いからです。

それに対して、バランス・スコアカードは、4つの視点における業績評価指標が因果関係に基づいて設定されているため、意欲的な財務的ターゲットを達成するために、具体的に何をすべきかが明らかにされます。

戦略的優先順位を明らかにする

多くの企業では、世を賑わす様々な戦略プログラムが導入され、場合によっては同時並行的に進行しています。例えば、総合的品質管理、タイムベース競争、従業員のエンパワーメント、リエンジニアリングなどです。

これらは独立して別々に推進されていることが多く、それぞれの推進者が企業内の稀少資源を取り合うという状況も生じています。

このような場合に、バランス・スコアカードがあると、個々の戦略プログラムの必要性や優先順位を明確に位置づけることができるようになります。また、その内容も、バランス・スコアカードの対応する業績評価指標に応じて調整することができます。

バランス・スコアカードを設定することによって、新たに必要な戦略プログラムが明らかになることもあります。

選ばれた業績評価指標について、通常、20%くらいはデータを入手できないことが多いといいます。データが入手できなければ、その業績評価指標を測定・評価できないということになり、当然、それを管理することはできません。

そのような場合、その業績評価指標のデータを収集するプロセスを確立する必要があります。そのプロセスを、社内ビジネス・プロセスの視点のなかで、バランス・スコアカードに追加することになるでしょう。

意欲的なターゲットを設定した場合に、総合的品質管理のような改善プログラムの継続によって達成するか、それとも、リエンジニアリングのような抜本的改革プログラムを必要とするかを決定しなければなりません。

改善プログラムによって達成しようとする場合、改善が正しい方向に進んでいることを確認するための改善率基準を利用すべきです。よく利用されるのが、すでに述べた「50%削減管理図表」です。

意欲的なターゲットの達成が、既存プロセスの改善の積み重ねでは難しい場合、まったく新しい方法を開発する必要があります。

いくつかの投資案件の選択肢についても、バランス・スコアカードに基づいて優先順位を決定しなければなりません。投資の意思決定は、回収期間法やDCF法などの財務的業績評価指標のみによって行うのではなく、非財務的業績評価指標への貢献度も考慮したうえで行わなければなりません。

ある企業では、投資案件の選択肢を4つの視点で点数づけし、ウェイトづけして合計点を出して、優先順位を決定しています。

ビジネス・ユニットおよび企業横断的な新しい戦略プログラムを明らかにする

計画立案プロセスで重要なことは、複数の戦略的ビジネス・ユニットの連携と、戦略的ビジネス・ユニットと企業レベルで行われる機能的活動との連携を明らかにすることです。

これらの連携によって、相互に行動を補完し合い、ベスト・プラクティスを共有し合うこともできます。互いの強みを生かし合ったり、共通の顧客に対するマーケティングを調整したり、生産資源や物流資源を共有し合うこともできます。

本社機能として求められる重要な機能の一つは、戦略的ビジネス・ユニットを横断するシナジー効果のチャンスを明らかにし、活用する方法を提供することです。バランス・スコアカードが、その役割を果たすことができます。

バランス・スコアカードを作成する過程で、シナジー効果を発揮するために必要な新たな機能を見出し、その機能を担当するスタッフ部門を本社機能として創設する例もあります。

ある企業では、全社的バランス・スコアカードにおいて、傘下の戦略的ビジネス・ユニットに共通するテーマとその優先順位を明らかにします。それぞれのテーマを担当する本社のスタッフ部門は、自身の顧客に相当する戦略的ビジネス・ユニットを支援するために、担当テーマのバランス・スコアカードを構築します。次に、各戦略的ビジネス・ユニットは、自身の戦略とバランス・スコアカードを開発します。

年度の資源配分と予算にリンクする

中長期の戦略計画と単年度の予算編成を別の部署がバラバラに担当している企業が少なくありません。前者は経営企画部門が行い、後者は財務部門が行うといったようなことです。

このようなやり方をする場合、単年度の予算編成が戦略計画とはリンクしていないこともしばしばです。当然、事業年度の途中で進捗管理されるのは単年度予算であり、戦略計画が議論されることはほとんどありません。

本来、戦略計画の立案プロセスと単年度の予算編成プロセスは、独立したプロセスとして扱うことはできません。中長期の戦略計画は、単年度の計画を数年間かけて実行した結果、達成されるものだからです。

したがって、単年度の予算編成においては、バランス・スコアカードにおける4つの視点の業績評価指標の短期的ターゲットを設定するものであるべきです。