われわれの成果は何か

組織の成果とは、ドラッカーの定義によると、組織のボトムライン(最低到達基準)です。企業では「最終利益」であり、非営利組織では「生活の改善」です。

成果を考えるうえで前提とすべき重要なことは、「成果は常に組織の外部において達成される」ということです。顧客の満足に関わり、前の質問である「顧客にとっての価値」から導き出されるものです。

組織の使命は、通常、顧客のニーズを反映した長期的で永続的なものですから、使命を確実に遂行していることを評価するために、期待される「成果」を設定しなければなりません。

量的・質的に測定可能な尺度としての成果を設定し、評価して、活動を改善していくことが、社会から資源を負託された組織の責任でもあります。

成果とは何か

ドラッカーは、組織の「成果」を「ボトムライン」(最低到達基準)と定義しています。企業であれば損益計算書の最終利益、社会セクタの非営利組織であれば「生活の改善」です。

成果の重要な特徴は、常に組織の外部で達成されるということです。組織の活動そのものに関わる指標ではなく、組織の活動によって顧客の中に生じるものです。

企業における最終利益についても、顧客の満足によって支払われた対価という理解です。

組織の活動は、組織の外にいる顧客のニーズによって内容が規定され、顧客の中に生じた満足によって成果が測られることになります。組織は常に外部によって規定されます。

非営利組織の成果

非営利組織の成果は、組織の外において変化した生活や状況によって測られます。例えば、人々の行動、状態、健康、希望、資産、能力や適性などの変化です。

組織に特有の使命を推進するため、何を評価し、判定すべきかを決定し、成果をあげる活動に資源を集中しなければなりません。

ところが、非営利組織には、利益のような標準的な成功基準が存在しないため、組織自身がよしとする活動を行うだけになってしまい、結果的に、活動すること自体が目的になったり、組織の存在そのものが目的になったりしがちです。

結局、ニーズの存在や意図だけでは不十分であり、測定できる成果を得るという姿勢が大事です。利益という単純明快な基準がないからこそ、意識的に成果を設定し、測定することによって、計画がうまく行っているかどうかを知ることが重要になります。

計画は、未来に向けて今日行うべき内容を定めるものですから、未来に対する仮説を前提としています。ですから、計画を完成したもの、満足いくものとみなすべきではありません。成果の測定を計画に組み込んでおき、成果に基づいて中間軌道修正することを前提とした計画としておかなければなりません。

計画に至る取り組みは次のとおりです。

  • 顧客を識別する
  • 顧客が価値ありとするものを学ぶ
  • 意味のある評価尺度を設定する
  • 実際に生活が変化しているかどうかを誠実に判定する

やってしまいがちなことは、「達成しやすいから」あるいは「測定しやすいから」という理由で成果を設定し、そのための仕事を選ぶことです。それでは意味がありません。

なすべきことは使命の遂行ですから、使命にとって最も重要な成果を設定し、その達成のための仕事を選ばなければなりません。

成果の具体例

『非営利組織の成果重視マネジメント』(ダイヤモンド社)によると、ある非営利組織は次のような使命を設定しました。

使命:
乳幼児の肉体的・精神的健康を維持、増進する

これに対し、期待すべき成果として、次の3つを設定しました。

成果:
1. 参加者は妊娠中の喫煙量を減らす
2. 参加者に間接喫煙の危険性を自覚させる
3. 参加者の子どもはゼロ歳児を対象とする定期健診と予防注射を受ける

使命は長期的で永続的な内容ですが、成果は、使命を遂行する過程でのマイルストーン的な位置づけであると理解できます。調査を行えば定量的な評価も可能です。活動が進めば成果としての役割を終え、別の成果に入れ替わっていく可能性もあります。

理解すべきことは、使命も成果も、組織の外にいる顧客の中で生じる変化であるということです。

使命は、第一の顧客である乳幼児の健康の変化(改善)です。成果は、支援顧客である乳幼児の母親(またはその予定者)の生活の変化(改善)です。

乳幼児の健康改善という使命が、母親の生活改善という成果をあげることによって遂行できるという考え方になっています。

「これらの成果をあげるために組織はどのような活動を行うべきか」という議論が、この後に続きます。組織の目標と計画に具体化されるということです。

成果は組織の外にあるのに対して、組織の活動は組織の中にありますから、目標と計画は組織が実行できる内容に翻訳される必要があります。

ところが、成果と組織目標が混同され、成果と呼ぶべきものをそのまま目標にしている例は少なくありません。それでは組織のコントロールが及ばず、絵に描いた餅になりかねません。(参考:「『目的』と『目標』の違い」「『成果』とは何か」

ちなみに、上に例をあげた非営利組織では、成果をあげるための目標を次のとおり設定しました。

目標:
1. 妊婦が喫煙量を減らせるような条件づくり
2. 若い母親が子どもたちを間接喫煙の危険から守ることのできる環境づくり
3. 予防的な小児科治療を実践できるような関係づくり
4. 必要なサービスをきちんと提供できるパートナーシップづくり

それぞれの目標は更に個々の活動に具体化される必要がありますが、組織の外にある成果が、組織内で行うべき活動に翻訳されていることが読み取れます。

成果は組織の外にいる顧客の中で生じるものですから、最終的には顧客の意思が働き、実際に行動してくれなければなりません。組織ができることは、顧客が行動してくれるように働きかけ、動機づけることです。それが組織の目標と計画であり、個々の活動です。

量的尺度と質的尺度の組み合わせ

成果は測定できることが必要ですので、量的な尺度を設定することが重要です。量的な尺度には、信頼のおける正確な基準を用います。

データの分類と期待値の設定をあらかじめ行っておき、資源が適切に成果に集中しているか、進捗しているか、生活やコミュニティが良い方向に変わっているかを、客観的な事実として評価します。

一方で、質的な尺度も軽視してはいけません。質的な尺度は、個別の事象に関わる特定の状況での変化の程度と影響の度合いを表すことができます。

個別の事象の綿密な観察から始め、共通のパターンを見出し、個別の事象に特有な要因を調べます。主観的で把握することが難しいこともありますが、リアルで重要な情報を体系的に収集できます。

際立った成果

限られた資源を特定の成果をあげるために集中させますから、資源の投資が正当化されるだけの際立った成果をあげることが必要です。

ニーズがあるというだけの理由や、これまでやってきたからという慣習的な理由で、継続を正当化してはいけません。

使命や資源配分に適合するような成果を見出す必要があります。最も効果的なのは、成果が大きく、現に成功しているところに資源を更に投資することです。

先だって行うべきは、成果があがらない活動の廃棄です。廃棄ができるまで、その他いかなることも達成できません。廃棄によって投入している資源を解放しなければいけません。

組織の人々は、いつも廃れてしまったものに執着します。ドラッカーが特に強調するのは、経営者のエゴによる投資です。

ドラッカーによると、廃棄には感情的な議論が伴いますが、ほんの短い間にしか過ぎないと言います。半年も経てば、「どうしていつまでもしがみついていたのか」と不思議に思うようになると言います。

リーダーシップの責任

組織は、成果があがらない現実に直面するときが必ず来ます。いかなる事業も、いずれ成果があがらなくなりますから、体系的な分析の実施を計画の一部としてあらかじめ組み込んでおかなければなりません。

社会から貴重な資源を負託されている組織は、自己評価プロセスにおいて、組織の成果とは何か、未来の成功のためにどこに資源を集中させるかを決める責任を負っているということを理解しなければなりません。

それは同時に、組織を資源の浪費から守り、意義ある成果を確実なものにするために、何を評価し、判定すべきかを決定する責任でもあります。

責任の範囲を規定する基準は、組織の使命です。

更なる質問

成果に関する質問は、更に次のような質問によって深めることができます。

成果をどのように定義しているか

現在、どのような成果を定義しているか、進捗状況と業績をどのようにモニタリングしているか、その結果、どのような成果があがりつつあるかを明らかにします。

成功しているか

成功とは、現在定義されている成果が達成できていることです。成功しているとすれば、成果の達成を助けた主な活動またはプログラムは何かを確認します。成功していないとすれば、成功を妨げているものを確認します。

資源の活用状況も確認します。よく分からないとすれば、どうすればそれが分かるかを検討します。資源には、人的資源(ボランティア、理事会、スタッフ)、資金源(金、建物、投資、寄贈品)などがあります。

ブランド価値やポジショニングにも注意を払っているかどうか、それが効果的あるかどうかも評価しなければいけません。

寄附者を引きつけ、維持するために払っている努力について評価します。その成果は出ているでしょうか。そもそも、寄附者に関する成果をどのように定義し、どのように共有しているでしょうか。成果が出ていない、あるいは、成果の定義に問題があれば、どのように変えるべきでしょうか。理由を含めて評価し、検討します。

他に同じような組織があるなら、そこはどのように人的資源や財源を使っており、どのような成果をあげているかを調査します。寄附者を引きつけ満足させる仕事、理事会を使う仕事についても同様です。理由を含めて評価し、学ぶべきを学びます。

どのように成果を定義すべきか

先の3つの質問(使命、顧客、顧客にとっての価値)を考え抜いた結果、成果の定義を変える必要があるでしょうか、理由を含めて検討します。

変える必要があるとすれば、未来における成果をどのように定義し、質的・量的の両面でどのように測定するとよいかを検討します。

何を強化し、何を捨てるか

測定の結果、成果が大きく、成功できると評価される活動は強化し、成果があがらないと評価される活動は捨てます。