中小企業の成長危険

一般的に、企業にとって成長は望ましいと考えられていますが、中小企業にとって、成長が危機をもたらすことを十分に理解しておかなければなりません。

急成長によって管理不能になり、深刻な経営危機に陥ることがとても多いからです。

しかし、成長に伴う危機には、一定のパターンがありますから、それをあらかじめ知ったうえで、早い時期から準備しておくことは可能です。

成長は結果ではなく、計画的に管理しなければなりません。

キャッシュフローの管理

成長によって売上が増えれば、自動的に利益も増えると考えがちです。

実態は、売上と利益が必ずしも連動しないことを知らなければなりません。成長の結果、コストがかさみ、最終的な利益がほとんど残らないということはよく起こります。

さらに重要なことは、成長するるということは、売上が増えることであり、売上が増えるということは、販売する商品やサービスが増えていくということです。

つまり、商品やサービスを増やしていくための資金(キャッシュフロー)が必要になるということです。通常、その資金は、利益によって賄うことはできません。

成長しているときは、利益が現金として手元に入ってくるよりも早く、しかも大量に現金が必要になるからです。

それが成長しているということの意味です。成長してる企業には、あらかじめ大量の資金が必要になるのです。その資金が用意できないまま、成長の軌道に乗ってしまうと、いわゆる黒字倒産に陥ります。

資金の確保は、足りなくなったときに手配しようとしても遅いことがほとんどです。ですから、あらかじめ成長を見越して、早いうちから確保に動くなり、あらかじめ十分な資金を準備しておかなければなりません。

資金需要の予測

成長する中小企業は、特に、資金が不足しがちですから、少なくとも2年後、できれば3年後の財務構造や資金調達源を予測しておかなければなりません。

資金需要は、売上と比例的に増加することはほとんどありません。大抵の場合、売上と不釣り合いなほどに資金を必要とすることがほとんどです。

急激な成長にしたがって、財務構造、すなわち資金調達先や資金の種類が変化します。当初は創業者個人の自己資金で始めたものが、多額の融資や出資が必要となってきます。

このため、数年後に必要となる財務構造を今のうちに準備しておかなければなりません。必要になったときに急ぎ調達しようとすると、必ず借入コストが高くつきます。

将来、多額の資金が必要であれば、早いうちに、比較的少額の融資や出資を受けておき、信用を築いて置くことも必要です。

情報の管理

将来必要となる情報についても、あからじめ予測しておく必要があります。

成長は、企業の外部に存在する市場によってもたらされます。内部の情報によって変化を予測し、対応することはできません。

自らの直接の顧客が企業の場合であっても、その顧客企業ばかりを見ていては、変化をとらえることができません。常に、最終消費者の動きを把握しなければなりません。

さらに、最終消費者の変化を予測するためには、人口構造や人口動態、技術、社会環境などの変化も観察し、市場にどのような影響を与えるかを考えなければなりません。

集中

成長する企業は、その都度必要な対応をとっていると、いつのまにか商品や事業が広がっていることがあります。

成長を欲する企業こそ、技術や製品や市場を集中しなければなりません。常に、不必要なものを捨てていかなければなりません。

成長にはきわめて大きなエネルギーが必要です。将来性があるように見えるために、つい手を伸ばしてしまいがちですが、その結果、エネルギーが著しく分散してしまい、どれも頭打ちになってしまうことになりかねません。

したがって、労多くして功少ないことが明らかになってきたら、速やかに徹底しなければなりません。

トップマネジメント・チームの準備

中小企業の場合、始まりは一人の創業者がトップマネジメントであることがほとんどです。数人の友人で始める場合でも、誰もがトップマネジメントの役割を担えるとは限りません。

有能なトップマネジメントであったとしても、やはり強みと弱みがあります。

しかし、企業が急激に成長すると、管理の仕事も急激に増加します。あらゆる問題が一度に押し寄せてくるようになり、すべてが手に負えなくなってきます。

したがって、成長を望む企業は、かなり早いうちから、トップマネジメント・チームを編成するための準備を始める必要があります。

まず、人事、財務、商品開発、マーケティング、流通など、自社が成長していくためにもっとも重要な活動が何かを明らかにしなければなりません。

次に、それらの活動にもっとも相応しいと思われる人材が誰かを明らかにします。

その人材が本当に相応しいかどうかは、その仕事につけてみなければ分かりません。したがって、まず、肩書や報酬は変えずに、少しずつその仕事を任せ、実質的な責任をもたせていきます。

ドラッカーは、このようにしてトップマネジメント・チームをつくりあげていくには、少なくとも3~5年は必要であるといいます。

トップマネジメント・チームについてさらに詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。