不適切な規模への対応

規模そのものが公共の利益に反する理由はほとんどありません。規模が大きこと自体が独占につながるとは限らず、社会的、経済的な柔軟性を妨げるとも限りません。

意図的に行動しない限り、大企業が必ず新事業や中小企業の成長を妨げるわけではありません。大企業が存在することで、部品の供給業者や製品の流通業者としての中小企業を数多く育てることもあります。大企業によって市場が拡大することで、新事業としてのニッチが生まれることもあります。

不適切な規模は、マネジメントが機能しなくなるという点が問題です。多くの企業が、マネジメントの誤りによって不適切な規模になっていると言います。規模の誤りは、組織にとって体力を消耗させ、組織の存続を危険に晒します。

規模の限界

マネジメントが不可能になるとき、規模の限界に達していると言えます。

階層の増加

事業部長とトップマネジメントとの間に階層が増えると、次のような状態になり、現場の考えがトップマネジメントに伝わらなくなります。

  • 事業部長が企業全体のトップマネジメントと直接働くことができなくなり、手続きを踏まなければならなくなります。
  • 事業全体の目標設定を担当するマネジメントがトップマネジメントのメンバーではなくなります。

組織階層が増加しすぎると、次のような状態になり、トップマネジメントになるべき有能な人材を確保・育成できなくなります。

  • 有能な人間がマネジメントの階層すべてを経験して仕事ぶりを試されることが不可能になります。
  • 最下層からトップまで昇進していくことが不可能になります。

ドラッカーは、一般従業員とトップマネジメントの間に6~7つ以上の階層を持つ企業は大きすぎると言います。

事業の著しい分散

事業が分散しすぎると、マネジメントの間に共同体意識を醸成できなくなります。共通の目標をもつことができなくなり、一体としてのマネジメントができなくなります。

化学や電気など、一つの共通技術から多角化した企業に生じることがあります。技術の発展に伴い、市場が異なり、イノベーションの目標が異なり、さらには技術さえ異なるような多様な製品が生まれてきます。

不適切な規模の兆候

組織が不適切な規模になっているかどうかを診断することは、難しくないと言います。

その兆候は、肥大化した分野、活動、機能があることです。著しく努力を必要とし、多額の費用も必要としながら、成果をあげられない分野があります。

そのような場合のマネジメントの反応は、肥大化した分野、活動、機能を支えるべく、売上を増やそうとします。均衡を図るために成長を図ろうとします。

しかし、これは最後の手段です。

問題に取り組むための戦略

ドラッカーは、不適切な規模の問題に取り組むための戦略を3つ提案しています。

事業の性格を変える

実りは大きいですが、実行は困難です。失敗する危険があるだけでなく、成功しても何も変わらない危険があると言います。

やるとすれば、何らかの特徴を身につけ、存続と繁栄に必要なニッチを持たなければなりません。

必要な問いは、次のとおりです。

  • 成功の見込みはどのくらいか。
  • 成功は答えになるか。
    • 事態を悪化させるだけか。
    • 真に永続的な特徴を与えてくれるか。

合併と買収

規模の不適切さは、合併と買収の検討が必要となる数少ないケースの一つであると言います。量を狙うのではなく、合併によって完全な全体となるような相手を見つけ出します。

そのためには、規模の不適切さの原因を知る必要があります。

売却と整理

最も成功しやすい戦略です。リーダー的な地位から多くの分野へ進出した結果、規模の不適切さに悩んでいるなら、採用すべきです。

規模の不適切さは、自然には解決しません。トップマネジメントが直面する最も困難な問題です。勇気、真摯さ、熟慮、行動が必要になります。

最大規模と最適規模

通常、最適規模は、最大規模よりずっと小さいレベルにあります。

最適規模を超えたら分割すべきです。タイミングは、収益逓増が収益低減に転ずる点です。

規模と地域社会

ドラッカーによれば、規模についての最大の問題は、組織内部にあるのではなく、地域社会に比較して大きすぎることにあります。

単一企業、単一雇用主は、企業そのものにとっても、地域社会にとっても不健全です。したがって、企業城下町は不健全です。

地域社会に対して規模が大きすると判断すべき基準として、ドラッカーは、次の2点をあげています。

  • 地域社会との関係において行動の自由が制約されるために、事業上あるいはマネジメント上必要な意思決定が行えないとき
  • 地域社会に対する懸念から、自らとその事業に害を与えることが明白なことを行わなければならなくなったとき

このような場合は、その地域で事業を拡大すべきではありません。

ただし、例外はあります。資源開発の場合です。資源開発は、資源のあるところでしか事業が行えないからです。