プロダクション・シェアリング

人口の動きは、出生・死亡による自然増減、転入・転出による社会増減、結婚・離婚による所属変化によって捉えることができます。このようにして捉えた人口を「人口動態」といいます。

人口動態は、新たな機会、新たな市場、新しい型の経済関係をつくり出します。その結果、新しい政策、特に新しい社会政策を必要とするようになります。

社会のいかなる変化も、人口動態と人口構造の変化の重大さには及びません。差し迫った問題は、先進国における労働力不足です。

先進国における労働力不足は、伝統的な生産労働のコストが上昇すると考えられます。しかし、賃金を引き上げても、その労働を担う労働力を確保できない可能性があります。高学歴化によって、そのような労働を好まないようになっているからです。

逆に、発展途上国では、伝統的な労働集約的労働にしか向かない余剰労働力が存在します。その人たちのために仕事をつくり出すことができなければ、社会的・政治的安定が大きく脅かされ、経済状態は悪化し、国民生産は減少していきます。

発展途上国には、自力で総合的産業を育てるだけの技術も資本も経営力もありません。このような産業が生産する製品の市場もありません。

そのため、プロダクション・シェアリングが、先進国にとっても、発展途上国にとっても、等しく必要とするもっとも重要な形の経済統合となり得ます。

プロダクション・シェアリングとは

「プロダクション・シェアリング」はドラッカーの造語です。発展途上国の資源(伝統的な労働に向いた豊富な労働力)と先進国の資源(経営、技術、人材、市場、購買力)とが合体した、グローバルな生産・販売体制です。

労働集約的な仕事はすべて発展途上国で担われ、資本集約的な仕事や高度な技術と経営手腕が必要な仕事は先進国で担われます。

設計、マーケティング、品質管理などについてかなり高いレベルを要求しますが、企画、組織、総合、調整などの経営技術についてはさらに高いレベルを要求します。

資本投資が重要であることには変わりありませんが、二義的となります。発展途上国への投資はそれほど必要ではありません。

先進国の有名な企業から安定した受注があるのであれば、下請けとなる発展途上国の企業でも、資金調達は難しくありません。

その方法以外に、先進国が工場と製品を設計し、発展途上国に工場を建設する方法もあります。製品の大部分は、資本集約的または技術集約的な最終製品として、先進国に輸出されます。

先進国における労働力不足を、若年労働力の豊富な発展途上国からの移民で賄うことができないのであれば、仕事自体を発展途上国にもっていくしかありません。

発展途上国にとっても、若者たちに職を与えるチャンスになり、先進市場に入り込む手段となります。

プロダクション・シェアリングは、国家を超えた統合ですので、これまでの国際貿易の範疇には収まりません。したがって、貿易統計で正確に捉えることはできません。

統合生産のなかでの原材料や部品や製品の移動は、ネットワーク内部での取引であり、社内取引に近いものですが、国家間を移動するために、それぞれ輸入や輸出として処理されてしまいます。

多国籍企業から国境を越えた連合へ

原料を採取する会社は原料のあるところに行かなければなりませんが、販売は市場のあるところで行わなければなりません。

事業を決め、商品を買ってくれるのは市場にいる顧客ですから、マーケティングを重視する会社は自ずと多国籍企業にならざるを得ません。

技術や設計を通じて経営をコントロールしているマネジメント会社も、多国籍企業にならざるを得ません。もっとも相応しい人材がいる場所で開発や設計を行うことになるからです。

技術とマーケティングという2つの核を中心に、生産と販売をグローバルに最適化して組織するようになります。国を超えたネットワークを組織する力が、プロダクション・シェアリングの成否を決めます。

プロダックション・シェアリングには大企業が相応しいと思いがちですが、ドラッカーは、大企業よりも中小企業のほうが柔軟に対応できるといいます。

大企業の利点は多額の資金を用意できることですが、今では、ネットワークの基盤は投資ではなく販売力にあります。

先進国での生産は、労働集約度のもっとも小さい工程に集中し、それ以外の工程は海外に出すようになりますが、資本によって海外子会社を支配するのではなく、独立の下請会社を組織するようになります。

したがって、大企業の資本力が必須ではありません。

むしろ、プロダクション・シェアリングでは、設計、生産、マーケティングを臨機応変に変更できる能力が必要になるため、大企業では規模の大きさと複雑さのために不利になりかねません。

したがって、ますます中堅企業が優位に立つといいます。

トップマネジメントは、ピラミッド構造の頂点にある指揮命令部門ではなく、統合部門になります。オーケストラの指揮者のようであり、市場ニーズに基づくマーケティングが統合の基盤になります。

各組織は従来以上に自律的であるために、自由と責任が与えられます。トップマネジメントは、部下のように扱うのではなく、パートナーとして世界各地の人と交わることが必要です。

経営管理戦略にとっての意味

プロダクション・シェアリングにおいて、発展途上国は、労働集約的な生産段階に向いた潜在的資源を有する国と見なします。市場はあくまで先進国が対象です。

発展途上国の側からすると、先進国の資本を重視するのではありません。重視するのは、グローバル企業の先進的な仕事であり、輸出所得です。

ですから、発展途上国への資本投資は最小限に留めるべきです。発展途上国が求めているのは、世界市場における競争力をつけることです。そのための仕事、経営能力、外貨の獲得を欲していると考えるべきです。

ただし、現地で全国市場が開発できる余地があるなら、それが望ましいことは言うまでもありません。

ドラッカーは、もっとも望ましい立地地点は「準先進国」ということになるかもしれないと指摘しています。外国人の経営者や専門家が、仕事のためそこで生活することを厭わないという意味でも、それが望ましいと言えます。

発展途上国における職場創出

発展途上国においては、大量の若者に対して職場を与えることに第一の優先順を与えなければなりません。特に、先進国向けの輸出を目指す製造業で雇用を増やすことです。これが、第一の政治的、社会的優先順位です。

この優先順位を認めようとしない国からは、先進国の企業は離れていたほうがよいと、ドラッカーは指摘します。

職場創出に優先順位を与える政策においては、その国の経営管理層や専門家層に対して、先進国と同一の生活水準と生活様式を許し、あるいはそれを奨励しなければなりません。

そのような企業人や専門家は、高度の教育を受けた有能な人たちであり、本来であれば、先進国で十分に仕事ができる人たちです。

そのような人たちを、発展途上国において惹きつけ、確保するためであれば、先進国の経営管理層の生活水準以上の報酬を提供せざるを得ません。さもないと、先進国への頭脳流出が起こります。

同時に、賃金や生産性に国際競争力をもたせなければならないため、賃金総額の伸びを生産性の向上以下に抑えなければなりません。

その結果、経営管理層や専門家層と肉体労働者層との間に、社会的不平等が発生することになってしまいます。それを少しでも緩和するために、生産性の高い職場を創出し、賃金をできるだけ高くできるようにします。

そのような職場を創出するための投資が、プロダクション・シェアリングです。発展途上国の製造業が、先進国の最終市場において国際競争力をもつことができるよう、労働集約的な工程に対する投資を行うことです。

先進国における職場創出

先進国では、高等教育を受けた人たちのための生産的な職場の創出が、重大な雇用問題になっていきます。彼らを肉体労働につけたとしても、発展途上国に太刀打ちすることはできません。

高度な教育を受けた労働者こそが、先進国における特有の資源であることを受け止め、その資源をもっとも生産的に使うことを考えなければなりません。

これによって生み出した富を再投資し続け、その指導的地位、教育水準、生活水準を維持していかなければなりません。

ですから、先進国においても、プロダクション・シェアリングに対して高い優先順位を与えることが必要です。

企画、組織、統合、管理の仕事こそが、先進国において担うべき仕事であり、知識労働者に対して高給を支払うことができる仕事です。

現在の肉体労働者は、再教育によって知識労働者に転換できるようにしなければなりません。

自動化できる設備はすべて自動化し、労働集約的な産業や生産工程は知識集約的な産業や生産工程に切り替えていかなければなりません。

知識労働者に転換できたとしても、知識は変化が激しいため、その変化によって生じる過剰雇用に対しては、定期的な再教育を行いつつ、職場の確保・移動を促進していくことが必要です。

保護主義的な政策によって、労働集約的な産業や生産工程を維持しようとしてはいけません。問題はコストではなく、肉体労働従事者がいなくなっていることだからです。

高等教育を受けた若者は、そのような仕事につかなくなっているのです。それでも肉体労働を維持しようとするなら、発展途上国からの移民を受け入れるしかなくなります。

過剰雇用は、従来型の方法では解決できません。従来型の方法には、次の3つがありました。

第一は、失業保険です。一定期間の経済的な保護は与えることができますが、心理的な安定感を与えることはできません。不安や恐怖心などの心理的な問題が大きいからです。

第二は、終身雇用です。心理的安定には効果的ですが、社会の構造に大きな硬直性をもたらします。転職のための労働市場が発達せず、失業者の再就職を著しく阻害します。

第三は、解雇規制です。解雇は減少しますが、企業が雇用そのものに消極的になり、結果的に、解雇を免れる人以上の就職困難者が生まれます。新規事業さえ生まれにくくなります。

やるべきことは、変化や労働移動を防ぐことではなく、それらを促進する方向での支援です。

政府、経営者、労働組合が協力して、過剰雇用の発生を予測し、速やかな再訓練と再配置・再就職が行われるようにしなければなりません。必要な経済的支援も行います。

しかし、リーダーシップを発揮すべきは経営者です。なぜなら、過剰雇用の発生をいち早く予知することができるのは、経営者を置いて他にないからです。