成果をあげている公的・サービス機関が稀にでも存在することが重要な意味をもちます。公的・サービス機関も成果をあげられることを教えるからです。
成功例が示す教訓は、公的・サービス機関であっても「われわれの事業は何か。何になるか。何であるべきか。」という事業の目的を正面から取り上げることが重要であるということです。
目的を定義し、優先順位を定め、集中することです。
予算型組織である以上、市場原理に任せるかどうかは関係ありません。もちろん、非営利にするかどうかも関係ありません。問題は、マネジメントに自立性があるかどうかです。
目的と優先順位に従って、成果中心に資源が配分できることが重要です。
例外的存在
ドラッカーは、次の4つの例をあげています。いずれも、自立したトップマネジメントが、事業の目的を定義し、それに徹底してこだわり、資源を集中させました。
結局のところ、公的・サービス機関に必要なのは、次の2つです。
- 成果に向けて自らを方向づけるもの
- 主体的な陳腐化と廃棄のシステム
AT&T
「われわれの事業は何であり、何であるべきか」を徹底的に検討し、「われわれの事業はサービスである」という定義に至りました。
定義に従って目的と目標を設定し、業績と成果の尺度である「顧客満足度」と「サービス充足度」を開発しました。
その結果、事業の独占的な性格にもかかわらず、成果に向けて方向づけられました。
さらに、規制機関の目標は何であり、何であるべきかも考え、規制機関が正統な機関として機能を果たせるようにするための電話会社の役目を考えました。
その結果、AT&Tは国有化を免れました。
アメリカの大学
新しい大学をつくりあげた学長たちは、新たな高等教育機関としての大学の再創造を目的としました。
それぞれの大学の目的とミッションは、それぞれに違っていました。しかし、それぞれの目的の実現において、時に妥協が必要であることを認識し、利害関係者と世論を満足させようとしました。
TVA
ニューディール時代に、あまりに多くの期待をかけられたTVA(電力会社)は、事業の目的を「低コストの電力を豊富に供給すること」と定義しました。
他のあらゆることがこの目的の達成にかかっていると位置づけました。
日本の明治維新
ドラッカーは、公的・サービス機関にとって最も重要な手本が、明治維新以降の日本の発展であると言っています。
この発展をもたらしたのは、ごくわずかの政治家と実業家であり、あらゆる仕事が、ごく普通の有能な働き手によって行われたと言います。
成功の秘密は、目的を考え、優先事項を定め、集中したことです。
明治維新の目的は「西洋の帝国主義が支配する世界にあって、日本の独立と文化と伝統を守ること」と定義されました。いわゆる「富国強兵」です。
軍事力増強、経済発展、識字率向上、地方自治、裁判制度の5つの分野に力が入れられました。
6つの規律
公的・サービス機関に欠けているのは成果であり、なすべきことをしていないことにあります。
公的・サービス機関にとって、そもそも成果とは何なのかを明らかにしなければなりません。
成果は目的への貢献度です。企業と同様、自らに特有の使命、目的、機能について徹底的に検討するところから始める必要があるということです。
- 「事業は何か、何であるべきか」を定義する。
- 定義を公にし、徹底的に検討します。
- 異なる定義、一見矛盾する定義を採用し、そのバランスを計る必要もあります。すべての利害関係者に理解、協力を求めるためです。
- 事業の定義に従い、明確な目標を設定する。
- 活動の優先順位を定める。
- 活動領域を定め、成果の基準(最低限必要な成果)を規定し、期限を設定し、担当者を明らかにし、成果を上げるべく仕事をします。
- 成果の尺度を定める。
- それらの尺度を用いて、自らの成果についてフィードバックを行う。
- 成果による自己管理を確立します。
- 目標と成果を照合する。
- 目的に合致しなくなった目標や、実現不可能になった目標を明らかにします。
- 不十分な成果や非生産的な活動を明らかにします。
- システムとして非生産的な活動を廃棄できるようにします。
公的・サービス機関にとっては、最後の規律が最も重要です。企業の場合、廃棄できなければ最終的には倒産しますが、公的・サービス機関の場合は倒産のメカニズムがないからです。
目的、ミッション、目標、重点項目、成果の見直しを仕組み化することが必要です。
公的・サービス機関の種類
自然的独占企業
地域内において排他的な権利を持たざるを得ない事業を行う企業です。予算による支払いではありませんが、独占であるがゆえに成果に対して支払いを受けるのではありません。
電話事業、電力事業などが代表的ですが、現在では競争が取り入れられつつあります。
企業内研究所なども、同じような位置づけになります。独占であることによって公的・サービス機関に位置づけられますが、他の公的機関に比べると、成果に最も近いところにあります。
なすべきことは、組織構造を単純化して、企業が行っていることをすべて意識的に、体系的に行うことです。
国有化するより、民間として規制のもとに置く方がよい理由が、そこにあります。規制機関を通じて表明される世論の力に従わざるをえないため、顧客の不満やニーズに敏感にならざるを得なくなるからです。規制機関による規制は、仕事の質の向上をもたらすことができます。
規制の下にないと、成果も効率もあがりません。競争がないため、顧客を搾取することさえあります。
国有化すると、顧客に対して、効率やサービスの悪さ、料金の高さ、ニーズの無視からの救済手段が与えられません。
予算から支払いを受けて事業を行う公的・サービス機関
公営の学校や病院、企業内サービス部門などがこれに当たります。
これらの顧客は、純粋な消費者というよりも、拠出者に当たります。必要の有無にかかわらず、支払いを求められます。
公営の機関であれば、税金や保険料で賄われます。
企業内サービス機関であれば、企業の現業部門が受けた支払いの一部が予算として配分されます。顧客であり拠出者は企業の現業部門です。
受けるべき財やサービスは、欲求の充足ではありません。必要の充足、つまり、誰もが持つべきもの、持たなければならないものを供給することです。
なすべきことは、成果について最低限の基準を設けることです。監督や規制は必要でも、成果の基準を高く保つためには、マネジメントは独立した機関が行わなければなりません。
しかも、水準以上の成果をあげさせるには競争が必要です。顧客は、複数のサービス機関から選択できるようにすべきです。企業でも同様に、自社内のサービス機関を利用するか、外部からサービスを購入するかを選択できるようにすべきです。
目的と同じように手段が意味を持ち、手段の統一性が不可欠な公的・サービス機関
国防、司法、行政組織のほとんどが該当します。
公共財を提供するというよりは、統治を提供する機関です。手段としての手続きが、目的と同じくらい重要です。
このような公的機関は、独立したマネジメントはあり得ません。競争も望ましくありません。政府の下に置き、政府の直接の運営に委ねる必要があります。議会を通して国民が監視しなければなりません。
ただし、成果をあげるためには、次のことがどうしても必要です。
- 目的を決定する。
- 優先順位を定める。
- 成果を測定する。
- これら存在の目的と仮定と成果について、独立した監査を行う。
成果からのフィードバックを行う手立てがないため、次の視点で、独立した機関による監査が不可欠です。
- 目的は現実的か。達成可能か。それとも言葉だけか。
- ニーズに応えようとしているか。
- 目標は正しいか。
- 優先順位は設定しているか。
- 成果は公約や期待に合致しているか。
さらに重要なこととしては、
- 事業は恒久たりえないことを前提とする
ことが必要です。
新しい活動、機関、計画は、期間を限ることが前提です。その間の成果によって目的と手段の健全さが証明された場合のみ、延長を認めます。
政府の役割がなくなることはありませんが、大事なことは限界を見きわめることです。そこから先は害をなすといえる限界を見きわめなければなりません。