公的・サービス機関は、一般的に、企業に比べて生産性が低いと言われます。逆に、生産性云々を言うこと自体が公的・サービス機関に相応しくないという考え方もあるようです。
しかし、そう言いながら、サービスが悪い、延々と待たされた挙句にほんの数分で終わり、という問題があるとしたら、改善の余地は多いはずです。
公的・サービス機関が不振である原因としていくつか理由があげられますが、その中には誤解も多いとドラッカーは言います。
公的・サービス機関は企業とは違いますが、まさにその点に着目することが、生産性を高める鍵になるようです。
誤解1:企業のようにマネジメントしていないから
企業のようにマネジメントしたら成果が上がるという意見です。
企業のようにマネジメントできるのは、コストの管理のみで、効率に関わる部分です。コストを下げれば、見た目の利益は上がりますから、成果が上がったように見えるかもしれません。
病院などでも、製造業の工程管理の仕組みを取り入れて、バックオフィスの作業を効率化できます。ミスが減って効率は上がり、コストは下がります。これ自体は、大変良いことです。
ただ、ドラッカーの意見は手厳しいです。
- 公的・サービス機関に欠けているものは、成果であって効率ではない。効率によって成果を手にすることはできない。
- 公的・サービス機関の問題は、なすべきことをしていないところにある。
企業の真似ではなく、自らに特有の使命、目的、機能について徹底的に検討するところから始める必要があります。このプロセス自体は、組織である以上、企業と同じです。
誤解2:人材がいないから
企業だから優秀な人材が集まるということはありません。公的・サービス機関だからこそ、強い使命感を持ったやる気のある人材が集まるということもあります。
同じ理由で、公的・サービス機関のマネジャーが劣っているということもありません。
だとすれば、人の能力や才能の問題ではなく、任命されたら直ちに官僚に変えてしまうような働きが、公的・サービス機関の中に存在するということです。
ドラッカーは言います。
問題はシステムにある。人にあるのではない。
誤解3:目的や成果が具体的でないから
企業であっても目的は具体的でないことがほとんどです。業績の良い企業でも、目的は抽象的なところが多いです。
ただし、目的を具体化した目標は、できる限り数値化すべきです。測定でき、評価できなければならないからです。
公的・サービス機関であっても、目標は具体化でき、測定できるはずです。一つの目標では不十分です。複数の目標を設定し、抽象的な目的をできる限り具体化し、多面的に評価する努力が必要です。
具体的な目標があって初めて、資源を配分し、優先順位と期限を定め、成果をあげるべき主体を明らかにすることができます。
とはいえ、まずは目的とミッションが定義されていなければ、具体的な目標も作れません。「われわれの事業は何か」に答えなければなりません。公的・サービス機関には多くの利害関係者がいるため、一段と難しい問いになります。
結局のところ、公的・サービス機関不振の原因は、ドラッカーの次の指摘に集約されます。
公的・サービス機関が企業でないところに原因がある
公的・サービス機関に欠けているのは成果であり、なすべきことをしていないことにあります。
最大の理由は、支払いの受け方の違いです。
企業は顧客を満足させることによって支払いを受けます。
公的・サービス機関は予算によって運営されており、成果によって支払いを受けていません。企業内のサービス部門も同様です。ですから、成果をあげるという責任が仕組みとして働きません。多くの場合、サービスを受ける側に選択権が与えられていないことが、それに輪をかけます。
公的・サービス機関にとっての成果は、結局、より多くの予算を獲得すること
これが公的・サービス機関を支配している仕組みです。結果は、次のようなことになります。
- 予算はすべて使い切る。足りない理由を作り、来年度はもっと多くの予算を確保しなければならない。
- 業務を効率化しても何のメリットもない。コスト削減は予算の削減につながるから。
- 優先順位をつけてはいけない。すべてをやって予算が足りないくらいがよい。
- 陳腐化した事業の廃棄などもってのほか。仕事を増やすことはあっても、決して減らしてはならない。
- 成果があがっていない。だからこそ、予算を増やさなければならない。
企業では評価に値するような取組みが、公的・サービス機関にとっては存続を危うくしてしまいかねないわけです。