戦略計画

事業目標は、実行されなければなりません。仕事に具体化し、担当者と期限を割り当てる必要があります。

計画は未来のためのものですが、未来において実行すべきことではありません。未来を築くために、現在において決定を行う必要があります。未来のために今、リスクを負い、行動すべきものです。

計画には、長期と短期のバランスが必要です。長期は短期の決定によってつくられます。短期計画に組み込まれず、短期計画を基礎にしていない長期計画は、実行されない無駄な計画です。逆に、長期計画に位置づけられない短期計画は、その場しのぎの当てずっぽうです。

そもそも、短期と長期という言葉は時間の長さでは決められません。実行期間ではなく、影響を与える期間の問題です。

イノベーションのための事業(事業は何であるべきか)は、既存の事業(事業は何か、何になるか)とは無関係に考える必要があります。イノベーションは、既存の事業とは違う事業を前提としているからです。

しかし、これらの計画は統合しなければなりません。そのうえで影響する時間軸によって短期と長期に分かれます。いずれも、現在の具体的な仕事として割り当てられます。現在必要な資源を配分しなければなりません。

あくまで現在において行うべき計画として統合されているものであって、短期計画と長期計画を別々につくるということではありません。

単なる長期計画ではなく、トップマネジメントによる戦略的な意思決定が求められる計画、すなわち「戦略計画」です。

なお、企業は社会のなかに存在している以上、社会環境の影響を受けざる得ません。社会環境を無視しては、事業は成り立ちません。戦略の前提として考慮すべき社会の変化について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

戦略計画が意味するもの

戦略計画は、データやプログラム、事実の寄せ集めではありません。

経営資源を行動に結びつけるための考えであり、責任を伴った判断です。

ツールや手法が計画ではありません。それらが役立つこともありますが、政治や社会、人間といった定量化できない領域での事象も条件として考慮しなければなりません。

思考や分析、想像、判断を適用することによる意思決定を行う必要があります。

戦略計画は、未来予測ではありません。

経済、社会、政治の不確実性はますます高まっているため、未来を予測することは不可能です。

不確実な未来に対応するため、最も起こる確率が高い出来事に基づいて計画を立てようとしがちです。あるいは、起こりそうな出来事を複数想定し、対応する複数の計画を準備する場合もあります。

しかし、計画は未来予測ではありません。可能性や確率に基づいて起こるかもしれないことを表明しても意味がありません。計画は実行するためのものだからです。

計画は、可能性を変えるためのイノベーションです。起こりそうなことに基づくのではなく、すでに起こった変化を利用します。変化の中にわが社の強みを適用できる機会を見出し、わが社が優位に立てる未来の市場を創造するものです。

戦略計画は、未来の意思決定や未来の行動を定めるものではなりません。

未来の成果のために、現在行うべき意思決定であり、行動です。

現在の思考と行動に、どのような未来、どこまでの未来を織り込んでおくかを今決めることです。

戦略計画は、リスクをなくすこと、最小にすることではありません。

戦略計画は、未来の成果に関わることですから、リスクをなくすことはできません。得るべき成果に対して、冒すべきリスク、冒すに値するリスクを明らかにすることです。

リスクをなくしたり、最小にしようとする努力は、「何もしないこと」につながりかねません。「何もしないこと」は「硬直化」というリスクを生みます。

戦略計画のプロセス

戦略計画とは、次のような連続したプロセスにつながります。

  1. リスクを伴う企業家的な意思決定を体系的に行う。
  2. その実行に必要な活動を体系的に組織する。
  3. それらの活動の成果を体系的にフィードバックする。

企業家的な意思決定

企業家的な意思決定は、事業の定義と目標についての意思決定であり、自らの卓越性、優先順位、戦略についての意思決定です。

これらの意思決定が、通常、業績をあげるための統合された全社的計画である戦略計画となり、特定の人が責任をもつべき仕事として割り振られます。

昨日の廃棄

真っ先に行うべき意思決定は、「何を捨てるか」、すなわち体系的な廃棄です。重要な目標に経営資源を振り向けるため、まず不要な仕事を廃棄することが必要です。

あらゆる種類の活動、製品、プロセス、市場について、

  • もし今日これを行っていなかったとしたら、改めて行おうとするか

と問います。答えが否であるならば、

  • いかにして早くやめるか

を考えます。そうして初めて、「何を、いつ行うか」を問うことができます。

何をいつ行うか

戦略計画は、意思決定を未来に先延ばしすることでもなければ、未来に行うべきことを決めることでもありません。未来の成果のために、今日なすべきことを、今日意思決定しなければなりません。

活動の組織化

組織の中の優秀な人材を割り当てることができるかどうかで、事業の成果は決まります。

戦略計画を仕事に具体化し、優秀な人材を割り当てる必要があります。将来において成果を生むべき活動に、優良な資源を今、割り当てなければなりません。

仕事の割り当てが意味を持つためには、期限を定めなければなりません。

知識労働の割り当て

知識労働には、分析や方向づけ、焦点のはっきりした行動計画が必要です。 特に研究活動に関しては、事業の目的と目標に焦点を合わせた仕事の計画が必要です。

しかしながら、一般に見られる多くの定義はあまりに曖昧です。「マーケティング全般の助言および支援」、「あらゆるレベルにおける人材活用の改善」などです。これでは、何も決めていないのと同じです。

知識労働に関しては、大きな成果を生まない仕事は行わないことを原則にします。生産的でなくなったものを廃棄し、成果をあげられるものに稀少な人材を集中することが必要です。

新事業、投資、新製品などの提案は、すべて業績をあげるための計画に沿って行います。企業全体の成果に焦点を合わせたものでなければなりません。企業全体の経済的能力と成果に対し、何を加えるかが問題です。

個別ではなくまとめて検討します。

そのようにして初めて、事業の定義の実現を目指して企業の目標に沿ったものであるか、資源の最適利用を実現するか、正しい機会とニーズに焦点を合わせているかを知ることができます。

あらゆる提案は、目的とする期待を明記します。

  • 起こると想定していること
  • 起こる可能性のある最悪の事態
  • 成功した場合に負うべきこと(耐えられることか)
  • その想定と、戦略計画の基礎となっている想定との関係
  • 提案を実行しなかった場合に起こること

さらに、必要な資源、特に人材を明らかにし、どこから調達するかを明らかにします。その人材は、現在の仕事の廃棄、または利益を出すだけの存在(育成しない存在)にさせることによって手に入れます。

フィードバック

仕事には、責任、締め切り、成果の尺度が必要です。成果の尺度が、目標の達成を判断する基準です。何を見て、その後何をするかを決める重要な指標です。

計画の段階で明らかにした期待すべき成果と実績を比較します。

実行段階において、活動の成果をフィードバックできる仕組みを組み込んでおきます。