その他の分野の目標

マーケティングとイノベーションの領域以外にも、事業の目標は必要です。マーケティングとイノベーションの目標達成に貢献できるものとして設定しなければなりません。

人的資源および社会的責任の目標については、定量的には測定できないことを明らかにしておく必要があります。定性的な基準、データではなく判断、測定ではなく評価が必要です。

事業の目標は多数に及びます。全体のバランスと予算による優先順位づけが重要になります。

経営資源の目標

経営資源に関わる目標は、2つの方向から見て検討し、設定します。

  • 事業に必要なものが、現在の市場において確保できるか
  • 現在の市場で確保できるものを、事業の構造、方向、計画にどのように組み込めるか

これら双方の視点から様々な可能性を検討し、摺り合わせていきます。すなわち、事業そのもののあり方、方向、構造、計画についての目標になります。

代表的な経営資源は、次の3つです。マーケティングやイノベーションに関わる目標の達成に必要な資源の確保です。

人的資源

マネジメントとスペシャリストの確保と育成、労働組合との関係などです。

人的資源については、提供者を顧客と見立て、マーケティングの考え方を取り入れることが重要です。多様な期待と価値観、ニーズを持つ顧客を抱える立派な市場が存在するからです。

  • 必要とする人材を惹きつけ、とどめておくには、どのような仕事としなければならないか
  • 市場にはどのような人材がいるか。彼らを惹きつけるにはどうしらたよいか

労働組合との関係における目標は、主導権をマネジメントの側に取り戻すことでなければなりません。労働組合の行動と要求、それらの理由を知る必要があります。それらの要求を飲むことになったとき、企業にとって好ましいものとなるように、少なくとも害のないものとなるようにしなければなりません。また、マネジメントは、自らも要求を出すことを学ぶ必要があります。

資金

社内留保からの自己金融、長期または短期の借り入れ、株式の発行など、慎重に検討する必要があります。価格、配当、償却、税務の政策にも影響します。

資金にも同様に市場が存在しますから、提供者を顧客と見立て、マーケティングの考え方を取り入れる必要があります。

融資、社債、株式など、わが社への投資機会をいかに魅力あるものにするかを検討する必要があります。

物的資源

原材料、店舗、設備、機材などです。特に、減価償却済みの設備の使用に伴うコストが隠れやすいので注意を要します。

生産性の目標

経営資源を生産的なものにするための目標を設定します。目標を設定すべき代表的な経営資源は、次のものです。

  1. 人的資源
  2. 資金
  3. 物的資源

また、個々の経営資源の目標だけでなく、生産性全体の目標も設定します。

独占といった稀な状況が生じていない限り、入手できる経営資源に大差はありません。個々の経営資源が企業間の差をつけるわけではありません。

必要なことは資源に変化をもたらすことであり、それを行うのがマネジメントです。企業間の差をつけるのはマネジメントの質の違いであり、その質を測定する最良の尺度が「生産性」です。マネジメントにとって最も困難な仕事の一つでもあります。

通常、一般従業員はマネジメントと区別され、自分や他の人の仕事についての決定に責任もなければ関与もせず、支持されたとおりに働く者として定義されています。物的資源と同じように見ているということです。

しかし、実際は、一般従業員が行うことの多くがマネジメント的な要素を含んでいます。彼らもまたマネジメントとして位置づけられるなら、きわめて大きな生産性をもたらすことになるでしょう。

生産性は各種の要因のバランスですから、一つの完全な尺度を見つけようとするのではなく、いくつもの尺度を使う必要があります。

複数ある生産性の尺度のうち、事業全体の生産性を図る尺度には、付加価値(製品とサービスから得られた収入と、生産のための材料とサービスに支払った支出との差)を使います。

  • 総収入に対する付加価値の割合
  • 付加価値における利益の割合

付加価値は、コストの内訳となる数字が経済的に意味ある形で配分されていることが必要です。

なお、資源の組み合わせや事業の構造に起因する生産性の差は、付加価値では測定できません。それらは定性的な要因だからです。しかし、それらの定性的な要因こそ生産性のもっとも重要な要因です。

社会的責任の目標

企業は社会の機関です。企業が有用かつ生産的な仕事をしているということを、社会と経済が見なす限りにおいて、存続を許されています。

社会的責任の目標は、単なる掛け声や良き意図の表明にとどまってはいけません。戦略に組み込み、実際の行動計画へと落とし込まれなければなりません。

社会的責任に目標が必要なのは、マネジメントが社会に対して責任を負っているからではありません。企業に対して責任を負っているからです。企業が社会の機関として存続を許されるためであり、働く人たちへの責任を果たすためです。

費用としての利益

以上の目標は、どれも達成のためにリスクやコストを伴います。それらを賄うために「どれだけの利益が必要か」を決めることになります。

つまり、利益は極大化すればよいというものではなく、企業が存続していくために必要な条件として設定されるものです。設定した目標を達成するために必要な未来の費用であり、事業を続けるための費用です。

ですから、利益計画は、利益の必要額についての計画でなければなりません。

最低限必要な利益率は、必要とする種類の資金調達のための市場金利です。これ以下の利益率しか確保できなければ、資金調達のための金利すら払えないことになり、企業として存在する意味はありません。

利益額には時間的な要素を加味する必要があります。何年間にわたっての利益であるかを明らかにし、その期間について現在価値に換算する必要があります。

業績の波も考慮する必要があります。必要とする平均利益率を得るために、現実にどれだけの利益をあげる必要があるかを知らなければなりません。そのための手法として、損益分岐点分析があります。リスクを考慮に入れれば、さらに最低限の利益率は高くなります。

ただし、利益が必要条件であるからといって、達成不可能なほどに高く積み上がっては意味がありません。その場合は、他の目標を切り詰める必要があります。つまり、目標間のバランスが重要になります。

なお、ドラッカーは『現代の経営』において、理論的には不備であると前置きしつつ、利益を測定する尺度として「当初の投資額に対する税引き前利益の割合」を推奨しています。