ドラッカーは、事業機会はやって来るものではなく見つけるものであると言います。
日常的なものの見方をしていては、発見することも活用することもできません。体系的な方法によって意図的に発見し、開拓することが必要です。
視点を変え、通常は機会に見えないものの中にこそ機会が存在することを意識しておく必要があります。
機会の存在を教えてくれる典型的なものは、次のものです。
- 危険や脅威
- 弱み
- 問題
これらを機会に転化できないかを問うことが必要です。
機会のうち、活用され実現されるものは常にわずかです。機会は実現されるものを常に上回ります。
弱み
事業を脆弱なものにし、成果を阻害し、業績を抑えているものです。
通常、すでに産業内や社内ではよく知られているか、容易に確認できることがほとんどです。企業や産業の内部の人には、イノベーションは不可能に見えています。現状は変えようがないと考えており、「できるものなら昔にそうしている」と言いがちです。
しかし、内部の人たちがそう言っている間に、イノベーションの準備が整いつつあります。企業や産業の外でイノベーションが起こり、予想もしなかった競合が突如出現します。
内部の誰もが変えようがないと思っているため、弱みや制約が克服されたときの経済的成果は大きなものになります。
弱みや制約を克服するには、体系的なイノベーションが必要です。新しい能力や知識を分析し、それらを開発するために体系的に取り組む必要があります。
弱みや制約は、次のような領域で見つかります。
生産工程の経済性
損益分岐点が高い生産工程は、生産や価格が弾力性を欠くことになります。
そのような工程に限って、経済性より過大な設計による規模が求められがちです。小さな需要の変化が、生産工程全体を不経済なものにしてしまいます。
予防措置として、設計の段階において、経済と技術のバランスを図ることが必要です。特にオートメーション工程に当てはまります。柔軟性と多様性が発揮できるよう、大量生産の経済性に配慮するだけでなく、少量生産や生産量の変化への対応についての経済性も考慮します。
産業の経済性
産業そのものが抱える経済性の問題もあります。
ドラッカーは、製紙業の例をあげています。製紙業では、原材料は原木の1/4しか利用しないにもかかわらず、原木全体のコストを負担していると言います。
市場の経済性
顧客の不合理に見える行動が、これに当たります。
企業から見ると不合理に見えるものですが、顧客にとっては合理的な行動ですので、まずはそれを理解することが必要です。
そのうえで、可能であれば顧客の合理性を変えることも必要ですが、それができないのであれば、顧客の合理性に合わせることが必要です。
それ以外にも、顧客の利益を供給者の事業や利益に結びつけることを妨げるよう技術的・経済的なシステムがある場合もあります。
ドラッカーは、例として銀行の資金管理サービスをあげています。現在では徐々に変更されていますが、少額な預金でも管理は無料になっており、高額な預金のインセンティブが働きにくくなっていました。
事業内のアンバランス
コスト構造
コスト構造は、成果の大小ではなく、使用される最大の資源、資源の活動量によって規定されます。
業績は売上(付加価値)に比例しますが、総コストは最大の活動のコストに比例します。
コストは、その種類に応じて対策を講じます。
補助的コスト(経済価値は生み出しませんが、経済活動の一環として避けられないと考えられるコスト)や監視的コスト(何か悪いことが起こらないようにするための活動のコスト)は、最小化します。
特に補助的コストについて、高い水準の努力と能力を必要とするために増大している場合は、機会を探すことが重要です。独立事業にし、自社を含めた他の企業を顧客として獲得することがよく行われます。
浪費的コスト(成果を生まない活動のためのコスト)は全廃を原則とします。
生産的活動
生産的活動とは、事業の成果に関わる活動であり、顧客が必要とし、喜んで代価を支払ってくれる価値を提供するための活動のことです。
事業の規模に対して過大な能力を持ったためにアンバランスになっている場合があります。
例えば、マーケティングのアンバランスとして、過大な営業部門を持っている場合があります。機会として活用する方法としては、流通業(営業代行)に進出し、他企業も顧客にする例があります。
研究開発のアンバランスもあります。過大な研究開発コストが生じている場合などです。機会として活用する方法としては、技術の変化をとらえた新事業開拓や新製品開発があります。ガラスメーカーが部品生産に進出した例があります。
流通
自社内だけでなく、社外の流通チャネルも含みます。
製品や顧客に適合しない流通チャネルを使用している場合などが、典型的なアンバランスです。
規模
市場の要求に対して、企業の規模が小さすぎる場合があります。この場合、単に規模を大きくすればよいというものではありません。通常は、企業構造の基本的な改革を行い、合併、買収、パートナーシップ、合弁などを行うことが必要になります。
企業の規模に対して、マネジメントが高価すぎる場合もあります。最新流行を追いすぎ、高すぎる教育訓練をしたり、次々と新しい仕組みを導入したり、様々な専門家を採用しすぎたりする場合です。相応しい規模までマネジメントを小さくしなければなりません。
さらに、その産業において求められる適正規模に比べて小さすぎるか、または大きすぎる場合があります。
企業の適正規模は、産業における技術の成熟度や市場とその構造によって違います。小さいか大きいかのどちらかで、中間が存続できない場合もあります。成功したために中途半端な規模に成長し、存続できなくなることもあります。
通常は、適正規模に縮小することが必要になります。小さすぎる場合は、適正規模まで一足飛びに飛躍するしかありません。徐々に成長するという対応はできません。
脅威
事業に対する脅威として恐れているものは何か、いかにすれば機会として利用できるかを問います。
不可避なことなら、それを受け入れて利用しなければなりません。そもそもそれは本当に有害なのか、本当に役に立てられないのかを考え抜きます。
潜在機会
企業や業界の中では起こり得ないと思っていても、内心は脅威と見ているため起こり得ないと思い込んでいる場合もあります。
ドラッカーは、そのような脅威を「潜在機会」と呼んでいます。
潜在機会は、市場、顧客、知識など環境の変化を予告するものです。変化こそが機会であり、変化に抵抗するなら破滅しかありません。
しかしながら、大抵の場合、内部の抵抗にあい、機会として利用できません。確立された慣習の破壊や能力の放棄につながるからです。そのため、業界外や周縁部の企業によって機会が実現されることがほとんどです。
ですから、潜在機会は、最も力を入れ、重要性を強調し続けなければ、発見し、利用できない機会であると言えます。