取締役会

ドラッカーは、あらゆる国の企業で、取締役会は衰退していると指摘します。

特定の企業や取締役会メンバーの資質などの問題ではなく、取締役会という機関自体の問題であると言います。

トップマネジメントは、取締役会を自らに対する脅威として受け取っているため、意味のある取締役会を望んでいません。社内取締役会を設けることで、完全に支配している場合もあります。

そのような状態が続くならば、社会がそれを放置しないと言います。法的な規制によって利害当事者を強制的に参加させなければならなくなる可能性があります。

一方で、乗っ取りに合う可能性もあります。

トップマネジメントは、自ら健全な取締役会を育て、企業の永続的な発展、利害当事者の理解と協力を得られるようにすべきです。

取締役会は機能していない

ドラッカーによると、取締役会の衰退はあらゆる国で見られると言います。その証拠に、企業の破局に際して、問題の発生を常に最後に知らされる集団であることをあげています。

同じような問題が繰り返し起こることから、取締役会という機関自体の問題を指摘します。

正統性の喪失

先進国の大企業の所有権は、大衆が持ちます。もはや、取締役会は所有権どころか、誰も代表していません。だから、すでに正統性が失われています。

統治機関たりえない

非常勤では統治の機能を果たすことができません。

トップマネジメントが意味ある取締役会を望まない

トップマネジメントにとって、取締役会は、束縛、制約、大権の侵害と受け取られています。脅威とされています。

かといって、完全な社内取締役会になっているなら、取締役会はすでに消滅したと言ってよいと、ドラッカーは言います。トップマネジメントが完全に支配しているからです。

わが国でも、取締役会を経営の最高意思決定機関と位置づけている企業が少なくありません。だからこそ、トップマネジメントの支配下に置かれるのです。これは正しくありません。

取締役会の最大の責任は、文字どおり経営の「取締」であり、経営者に経営をさせること、経営者の経営を監視することです。

もちろん、取締役が業務管理者を兼務していることはありますが、取締役が業務管理者であるという意味ではありません。

両者は別の仕事ですから、別の顔をして行わなければなりません。それができないのであれば、兼務すべきではありません。

取締役会という名の機関は、経営機関ではなく、経営監視機関です。経営機関を設けるのであれば、「取締役」ではなく、業務管理者の職務によって参加しなければなりません。

取締役会に対する社会の要求

トップマネジメントが意味ある取締役会を育てないなら、社会から不適切な取締役会を押し付けられることになると、ドラッカーは警告します。

現にアメリカでは、あらゆる種類の利害集団の代表を任命せよとの強い圧力があると言います。

ドイツでは労働者代表が取締役会に参画し、労使紛争の場となってしまいました。

利害代表は、取締役会のメンバーとして機能しません。彼らは、自ら属する利害集団に関心があるのであって、企業には関心がないからです。

取締役会の機能

審査のための機関

トップマネジメントに助言し、忠告し、相談相手となる機関です。危機にあって英知と決断をもって行動する機関です。

  • トップマネジメントに、「事業は何か、何であるべきか」、「いかなる事業を手がけてはいけないか、いかなる事業から撤退すべきか」を考えさせること
  • 目標と戦略を確認すること
  • 計画、投資、予算を批判的に検討すること
  • トップマネジメントの仕事ぶりを評価するための基準(資本収益率、投資、人事、イノベーション、計画に関する期待)を設定させ、それに基づいて成果を評価させること
  • 人事と組織について、最高裁の役割を果たすこと

目標に関しては、資源の生産性の向上を必ず含めなければなりません。これこそが、トップマネジメントを雇っている最大の目的です。

投資資金の生産性、労働生産性(職種別など)、物的資源の生産性を管理させなければなりません。

人事に関しては、特にトップマネジメントの人事が何にもまして重要です。

トップマネジメントに対し、自らの後継者問題について慎重に検討させ、後継者育成のためのプログラムをつくらせなければなりません。

成果のあげられないトップマネジメントを交代させる機関

社会は、大企業のトップマネジメントの無能に寛容であるわけにはいきません。

無能なトップマネジメントを交代させられる取締役会をトップマネジメント自身がつくらなければ、政府がつくることになります。

あるいは、乗っ取りが起こります。乗っ取り屋が狙うのは、苦境にある企業ではなく、潜在能力を生かし切っていない企業です。

対社会関係のための機関

利害当事者と直接接触する役割を果たす機関です。

企業は、株主、従業員、地域社会、消費者、取引先、流通チャネルなど、様々な利害当事者に囲まれています。

利害当事者のすべてが、企業の現状、問題、方針、計画を知らなければなりません。企業は、彼らに理解してもらわなければなりません。

トップマネジメントは、彼ら利害関係者が何を欲し、理解し、誤解し、目にし、問題視しているのかを知らなければなりません。

そのうえで、トップマネジメントに、法律問題を含め、対社会関係のための方針と活動の評価基準を設定させなければなりません。

利害当事者と対峙しなければ、取締役会への参加を強制されることになります。

なお、株主に関し、特に年金基金(あるいは投資信託)を注視する必要があります。年金基金の受益者であり、株式の事実上の所有者は従業員ですが、通常の株主とは違い、直接の所有権を行使することはありません。

実際に資金を運用しているのは年金基金の担当者であり、実際の所有者ではないため、株主の権利の行使という点で非常に曖昧な立場にあります。

取締役会が年金基金を直接管理することはできませんが、従業員の将来の生活資金の重要な部分を担う資産を運用していることから、年金基金への拠出状況や拠出された資金の管理運用について目を光らせるべきです。

必要とされる取締役会

取締役会が成果をあげるためには、トップマネジメントの役割と取締役会自身の役割を考え抜くことが必要です。

上にあげた取締役会の機能に関し、自ら目標と作業計画を策定し、役割分担を決めなければなりません。取締役会もまた、その目標に照らして、仕事ぶりを評価されなければなりません。

結局のところ、次の2つの取締役会が必要とされると、ドラッカーは言います。

  • 経営会議としての取締役会
    • トップマネジメントの相談相手、評価機関、良識、顧問、助言者としての取締役会です。
    • トップマネジメントが失敗したときは、後継者探しと代行も行います。
  • 利害関係者との接触を役割とする対社会関係会議としての取締役会

取締役会のメンバー

取引銀行や証券発行の幹事会社などは、メンバーとして加えるべきであると言います。重要な利害関係者であり、互いに理解し合うことが重要だからです。企業にとっての利害は、彼らにとっての利害と一致します。

一方、マネジメントのOBは相応しくないと言います。彼らの経験等が有用であれば、日本での例をあげ、顧問として活用することが望ましいと言います。

また、取引先、顧問弁護士、コンサルタントなど、企業との間に財・サービスの取引関係がある者も相応しくありません。企業と利害が対立したり、企業の支配を受ける可能性があるからです。

経営会議のメンバーとしては、次の条件が必要です。

  • 能力のある者
    • トップマネジメントとしての能力を実証した者です。50代の半ばで現業の仕事から離れ、進んで助言者、先導役、良識となる意志を持つ人物です。
  • 職務を果たすだけの時間がある者
    • 取締役は、専門、常勤の職業でなければなりません。
  • トップマネジメントから独立していること
    • 会社のトップマネジメント・メンバーからの参加は、最高責任者である会長または社長の一名とすべきです。社長の部下である業務管理者が名を連ねてはいけません。
    • トップマネジメントとの親密な関係になりすぎないよう、場合によっては、再選を認めないことも必要です。