トップマネジメントの仕事と組織

トップマネジメントの仕事が他のマネジメントと違うところは、多元的であることです。しばしば相反するような異なる能力と資質を同時に必要とします。

そのため、トップマネジメントの仕事は、チーム型組織によって複数の人間が分担しなければなりません。チームにはリーダーが存在し、全体の最終責任を負いますが、分担した仕事の権限と責任は、各トップマネジメントが負います。

トップマネジメントには独自のニーズがあるため、専門の企画部門を設置して、必要な情報を供給する必要があります。

トップマネジメントの仕事

多元的な仕事

トップマネジメントと他のマネジメントとの大きな違いは、仕事の種類です。他のマネジメントは一つの仕事に専念しますが、トップマネジメントの仕事は多元的です。

ドラッカーは、次の6つの仕事を例示します。

  • 組織としてのミッションを考える。
    • 「われわれの事業は何か、何であるべきか」という問いに答えます。
      • 目標の設定
      • 戦略計画の作成
      • 明日のための意思決定
  • 基準を設定する。
    • 組織全体の規範を定めます。主たる活動分野においてビジョンと価値基準を設定する仕事です。良識活動に当たります。
    • 目的と実績との乖離を明らかにし、対処しなければなりません。
  • 組織を作り上げ、それを維持する。
    • 明日のための人材、特にトップマネジメントを育成する仕事です。
    • 組織の精神をつくり上げます。トップマネジメントの行動、価値観、信条が組織の基準となります。
    • 組織構造を設計する必要もあります。
  • 渉外
    • 顧客、取引先、金融機関、労働組合、政府機関との関係を維持するための役割です。
    • 環境問題、社会的責任、雇用、立法に対する姿勢についての決定や行動に影響を与えます。
  • 儀礼
    • 行事や夕食会への出席などの儀礼的な役割があります。
  • 重大な危機に際して、自ら出動する。
    • 著しく悪化した問題など、重大な危機に際しては、最も経験があり、最も賢明なトップマネジメントが率先して取り組む必要があります。

現業の仕事

トップマネジメントが取り組むべき仕事の具体的な内容は、組織によって異なります。

重要な問題は、

  • 組織の成功と存続に致命的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが行いうる仕事は何か

です。

この問いへの答えによって、トップマネジメントが現業の仕事を受け持つべきかどうかも決まります。

トップマネジメント以外の誰かができるなら、トップマネジメントの仕事ではありません。活動分析によってふるいにかける必要があります。

トップマネジメントのメンバーとなった者は、それまで担当していた職能別の仕事や現業の仕事からは完全に手を引かなければなりません。今までやっていたからやり続けるということであれば、どちらもおろそかになります。

イノベーションの仕事は、トップマネジメントの仕事となり得ます。

仕事の特徴

トップマネジメントの仕事は多元的ですから、多様な能力や資質を要求します。

ドラッカーは、トップマネジメントに必要な資質を4つあげていますが、これらをすべて兼ね備える人材はほとんどいないとも言っています。

  • 考える人
  • 行動する人
  • 人間的な人
  • 表に立つ人

トップマネジメントの仕事は常に存在するわけではありません。断続的に発生する仕事です。

ですから、トップマネジメントの仕事は、複数の人間に割り当てる必要があります。トップマネジメントも、自らにとっての基幹的な仕事を明らかにしなければなりません。

特に小企業においては、トップマネジメント用の工程表が必要であると言います。

  • 誰が何に責任を持つか
  • 目的と目標は何か
  • 締め切りはいつか

トップマネジメントの仕事は、他の仕事と異質であるからこそ、それが何であり、誰が担当するのかを明らかにしておかなければなりません。

トップマネジメントの構造

一人体制の危険

要求される様々な資質を一人で合わせ持つことがほとんどできません。その人の資質や能力が組織の限界になり、成長できません。

トップマネジメントの継承が、一種の賭けになってしまいます。後継者を指名した後に間違いが明らかになっても、辞めさせたり棚上げしたりすることはできません。実際は、後継者を計画的に定めることは難しく、争いの種になります。

腹心、補佐、分析スタッフ、統括役といった多くの側近に囲まれます。彼らは責任は持たないのに、トップマネジメントと直接のつながりを持つために、不当に権力を増大させます。ライン管理者の権限と仕事を奪い、トップマネジメントとの直接のコミュニケーションを妨げます。

チーム型組織の適用

トップマネジメントの仕事は複数の人間に割り当て、チーム型組織を適用します。

ドラッカーは、3人以上が望ましいと言います。2人しかいないと、小さな意見の違いが危機につながりますが、もう1人いれば、2人が互いに口をきかなくても機能できます。

チームで担当すると、互いに補い合うことができます。全面的な交代が起こることはほとんどなく、一人を代える場合の間違いが致命傷になることはありません。

連邦分権組織を採用している場合は、事業部門ごとにトップマネジメント・チームが必要になります。

複雑な大企業では、複数のトップマネジメント・チームを持ちます。

リーダーの存在

トップマネジメント・チームには、キャプテンがいます。ボスではなく、リーダーです。原則、権限と責任は分担されますが、危機に陥った時は、他のメンバーの責任を一手に引き受けます。

それだけの資質と能力を持っていることが必要です。

役割の分担

トップマネジメントの仕事の分析からスタートし、役割を明らかにします。役割の一つひとつをメンバーに直接かつ優先的に割り当てます。 割り当は、メンバーの専門や資質を考慮します。

分担した役割については、直接かつ全面的に責任を負います。最終的な決定権を持ちます。担当以外の分野で意思決定をしてはいけません。

組織の条件

  • トップマネジメント以外の仕事をしてはならない。
    • シンプルな小企業を除き、トップマネジメント以外の仕事をしてはいけません。事業部門を併任してはいけません。
    • トップマネジメントが現業の仕事をしてはいけないという意味ではありません。イノベーションの仕事など、現業の仕事の一部を担当することはあり得ます。それでも、トップマネジメントしかできない仕事であることが前提です。
  • 互いに攻撃し合ってはならない。
  • チームとしてのみ判断しうる問題は、意思決定を留保する。
    • そのような仕事があるなら、あらかじめ決めておかなければなりません。ドラッカーは、次のような仕事を例示します。
      • われわれの事業は何か、何であるべきか。
      • 既存の製品ラインの廃止
      • 新たな製品ラインへの進出
      • 巨額の資本支出を伴う決定
      • 主要な人事
  • 意思の疎通に精力的に取り組む。
    • 担当する分野で最大限の自立性を持って行動するために、自らの考えと行動を互いに周知徹底させることが必要です。

セクレタリアート(企画部)の設置

トップマネジメント・チームに、思考、刺激、疑問、知識、情報を提供する機関です。

トップマネジメントの役割に必要な情報ですから、現業の情報では役に立ちません。現在の目標、組織、課題、情報とは異なる視覚から事業を眺める必要があります。

事業にとって重要なこと、すなわち「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」に関することです。

トップマネジメントが適切な意思決定を行えるようにするには、いかなる情報が必要かを考えなければなりません。イノベーションのための情報でもあります。

明日を担う人材の選択に関する情報も必要です。それは、今日を担うべく昨日選ばれた者とは異なる基準に関わるものです。

セクレタリアートの組織にも条件があります。

  • 現業で成果を上げた者のみを配属すること
    • 若いうちに現業の仕事の能力があると認められた者に経験を積ませるための部局とします。
  • 短期滞在のポストとすること
    • 長くて5年、せいぜい8年までとします。
  • 小規模なままにすること
    • 重要な活動だけを手がけさせます。