経営科学は、正確には経営工学とは別の学問であると考えられますが、その線引きはそれほど明確であるとは思えません。
ここでは、『入門ガイダンス 経営科学・経営工学 第2版』(古殿幸雄、株式会社中央経済社)に基づいて、経営工学とは区別される経営科学について説明しています。
経営科学はOR(オペレーションズ・リサーチ)から進展したと言われていますが、そのはしりとも言うべきものは、ランチェスターの理論です。
ランチェスターは、イギリスの自動車エンジニアであり、第一次世界大戦における空軍戦をもとに、後にランチェスターの法則と呼ばれる法則を発見しました。
ランチェスターの法則は、2つの軍が戦ったときの損耗の状態を定式化したもので。
ランチェスターの法則
経営科学はORから進展しましたが、そのはしりとも言うべきものは、ランチェスターの理論です。
ランチェスターは、イギリスの自動車エンジニアであり、第一次世界大戦における空軍戦をもとに、後にランチェスターの法則と呼ばれる法則を発見しました。
ランチェスターの法則は、2つの軍が戦ったときの損耗の状態を定式化したもので、2つの法則があります。
第一の法則は、一騎討ちの法則、接近戰の法則、線形法則などとも呼ばれています。武器が刀のように、戦闘者の直接手の届く範囲の兵員のみを殺傷できるようなものに限られている場合に成り立つ法則です。
式で表すと、次のようになります。
N – n = E ( M – m )
- M, N: 戦いの初めの両軍それぞれの兵員数
- m, n: ある時点での両軍それぞれの残存兵員数
- E: 両軍の強弱関係(交換率)(0≦E≦1)
第二の法則は、確率戦の法則、集中効果の法則、2乗則などとも呼ばれています。武器が銃などのように、戦闘者が離れた広い範囲の兵員を殺傷することが可能な場合に成り立つ法則です。
N2 – n2 = E ( M2 – m2 )
経営においては、一般的に、第一法則の適用は弱者の戦略、第二法則の適用は強者の戦略とされています。弱者が強者と闘うときは、エリアやターゲットを限定して、集中的に資源を投入することが望ましいとされています。
第二法則を活用して、弱者が強者に勝つ戦略もあります。実際に、1805年のトラファルガーの戦い(イギリス艦隊40隻とフランス・スペイン連合艦隊46隻との戦い)で活用され、成果をあげたと言われています。当初の作戦は、連合艦隊を23隻と23隻に分断し、それぞれに対してイギリス艦隊を32隻と8隻に2分して闘うというものでした。
連合艦隊23隻とイギリス艦隊8隻の闘いではイギリス艦隊が全滅し、連合艦隊が残ります。連合艦隊23隻とイギリス艦隊32隻の闘いでは連合艦隊が全滅し、イギリス艦隊が残ります。次に、残った艦隊同士が闘いますが、より多く残っているのはイギリス艦隊ですので、最終的に約5隻のイギリス艦隊を残して連合艦隊は全滅するシナリオです。
実際の闘いでは、艦隊数が想定と異なりましたが、基本的な法則は当てはまり、イギリス艦隊が勝利しました。
産業界への浸透
第二次世界大戦後、民需の拡大と企業組織の複雑化によって企業における意思決定が困難になり、ORを活用する動きが出てきました。
特に工場における生産性の向上に大きく貢献したのはテイラーの科学的管理法です。作業方法の改善と標準化を行い、一日の公正な仕事量である標準作業量を設定することで、計画による管理が行われるようになりました。これが後にインダストリアル・エンジニアリング(IE)に引き継がれています。
経営科学の代表的手法
経営科学には様々な手法がありますが、代表的なものをあげると、次のようなものがあります。
線形計画法
利用可能量が限られている資源(人、機械、電力、原材料など)をどのように配分すれば最も効果的(最大の利益)であるかを評価する方法です。
資源に限りがあること、資源にいくつもの用途があることが条件です。
例えば、共通の原材料や機械を使う製品AとBがあり、それぞれの資源消費量と一個当たり利益が分かっているとします。条件として、原材料の全体量や機械の総稼働時間は決まっています。これらをもとに計算式を立てると、連立方程式と不等式が一次式として導き出されるため、「線形」計画と呼ばれます。
グラフを使いながら、それらの計算式を解き、利益が最大になる製品AとBの生産量の組み合わせを求めます。
日程計画法
効率的な作業日程計画を導き出すための方法です。
一連の作業を限られた資源を用いて行わなければならない場合に用いられるものに、「順序づけ問題」があります。時間と費用は比例関係にあるとみなし、総所要時間を最小にする順序づけを行います。「ジョブ・スケジューリング」とも言います。
複数の作業が輻輳し、いくつかの作業が完了しなければ別の作業に入れないような場合、「アロー・ダイアグラム」が用いられます。作業(アクティビティ)を矢印で表現し、作業の結合点を丸印で表現します。これらによって、ある作業の前に別の複数の作業が終了していなければならないことを表現します。
アロー・ダイアグラムを活用して、各作業の所要時間をもとに、プロジェクトが予定の期間内で完了するように日程の計画と管理を行う方法を、「PERT(Program Evaluation and Review Technique)」と言います。
在庫問題
在庫は欠品を防ぐために必要なものですが、在庫が多いと保管コストがかかります。場所や管理のための作業時間を消費するだけでなく、紛失、破損、陳腐化といった損失も生じます。
製品であれば製造コストが余計にかかり、原材料や部品であれば購買コストが余計にかかります。
ですから、適正在庫量をいかに管理するかが重要です。通常は、在庫する品目の重要度に応じた管理方法を導入することによって、欠品防止とコストのバランスをとります。
よく使われる方法として、「ABC分析」があります。
商品在庫を例に説明すると、まず、在庫すべき品目を売上高の高い順に並べ、度数分布と累積比率を求めます。
次に、累積比率にしたがって品目を3グループに分けます。
- 累積比率が全体の70%水準の品目: Aグループ
- 累積比率が全体の70%から90%水準の品目: Bグループ
- 累積比率がそれ以上の品目: Cグループ
Aグループは重点管理対象です。欠品しないことを重視し、定期発注を行います。発注量は、その時の残数と調達期間を考慮して決定します。
Bグループは在庫を頻繁にチェックしつつも、管理費用はなるべく低く抑えるため、一定の在庫量まで減った時点で、一定量を発注します。
Cグループは簡易な管理として、ダブルピン法を用います。在庫を2つの入れ物に入れておき、1つが空になった時点で発注して、空の入れ物を満たします。
ゲーム理論
2人のプレイヤーがゲームを行うときのプレイヤーの行動について数学的基礎を与える理論です。
プレイヤーが自分の利益を守るために、たった一つの戦略をとり続ければよい場合を「純粋戦略」と言います。一方、複数戦略をある確率でとり続けなければならない場合を「混合戦略」と言います。
意思決定法
客観的データを活用する方法と主観的データを活用する方法があります。前者は、線形計画法など上記で述べた様々な手法です。
後者には、代表的なものとして、「一対比較法」があります。
- 代替案の評価基準としていくつかの評価項目を決める
- 評価項目の重要度(ウェイト)を決めるために、評価項目を一つずつ比較してスコアを付ける(例えば、2つの評価項目を比較して重要だと思う方を1点、他方を0点とする)
- 評価項目ごとにスコアを合計する
- すべての評価項目のスコア合計が1になるようにスコアを調整し、それをウェイトとする
- 各代替案について、評価項目ごとに10点満点で採点する
- 各代替案の評価項目ごとの点数にウェイトを掛け、代替案ごとの合計点を算出する
- 合計点が最も高い代替案を選択する
一対比較法を活用したものとして、「AHP(Analytic Hierarchy Process:階層化意思決定法)」があります。代替案を評価するための評価基準を階層化し、ウェイト付けするものです。
- 階層ごとに一対比較して比較表をつくり、ウェイトを計算する
- ウェイトを合成する
- 評価項目ごとに、代替案を一対比較する
- 代替案を全評価項目で総合評価する