成果をあげる行動の習慣

組織の主要なメンバーは知識労働者です。知識労働者は監督することができません。自らをマネジメントするしかありません。マネジメントは育てるのではなく、自ら育つべきものです。

上司の役割は、模範を示し、サポートすること、すなわちリーダーとしてのマネジメントです。

マネジメントは、組織の成果に責任を持ちます。マネジメントの成果とは、組織を通じてあげる成果です。

ドラッカーは自らの経験から、成果をあげるために特別の才能、適性、訓練は必要ないと断言します。成果をあげるとは実行することです。つまり、成果をあげるための行動があり、それは努力によって習慣化し、修得することができるものです。

ドラッカーは、成果をあげてきた人たちが習慣化していたことを8つあげています。

  • なすべきことを考える
  • 組織のことを考える
  • アクションプランをつくる
  • 意思決定を行う
  • コミュニケーションを行う
  • 機会に焦点を合わせる
  • 会議の生産性をあげる
  • 「私は」でなく「われわれは」を考える

さらにもう一つ重要な習慣として、

聞け、話すな

と言っています。これらを繰り返しながら改善し続けることが成果をあげる能力を高めます。

なすべきことを考える

なすべきこと、しなければならないことを考える習慣が必要です。自分がしたいことではありません。

この習慣が、有能な人材と有用な人材を分けます。いくら有能であっても、その有能さを自分がやりたいことだけに使う人は、組織にとって有用ではなく、成果をあげることはできません。

「私はこの組織において何をしなければならないか。何が求められているか。」を考え続けなければなりません。

なすべきことは、常に複数ありますから、優先順位をつけ、実行は一つに集中することが必要です。

複数を同時にやらなければならないときは、自分が得意なものに集中し、残りは他の人に任せなければなりません。決して、手を広げすぎてはいけません。

最優先の事項が完了したら、自動的に次の事項に移るのではなく、改めて残りの優先順位を考え直します。新しい課題が出てくることが常だからです。

組織のことを考える

組織にとって良いことは何かを考えます。特定のステークホルダーにとって良いことではありません。組織にとって良いことでなければ、そもそもステークホルダーにとってもよいことにはなり得ないからです。

同族企業の人事が典型です。同族の者は、同族以外の者より仕事ぶりで明らかに勝る者のみを昇進させなければなりません。さもないと、組織にとっても、当人以外のすべてのステークホルダーにとっても良くないことは明らかです。

組織にとって何がいちばん良いことかを考えるのは、決して簡単ではありません。間違うこともあります。間違いに気づいたら、直ちに修正することが大切です。しかし、間違うからといって考えないということになれば、最初から明らかな間違いを犯すことになります。

アクションプランをつくる

成果は行動からしか得られません。だからといって、闇雲な行動が成果につながることはありません。行動の前には計画が必要です。

望むべき結果

今後1年半~2年間に自分は何によって貢献すべきか、いつ迄にいかなる成果をもたらすべきかを明かにします。

予想される障害

行動への制約条件を明かにします。

  • 倫理的に正しいか
  • 組織内で理解を得られるか
  • 法律的に問題ないか
  • 組織としてのミッション、価値観、方針に合っているか

などが考慮すべき条件として考えられます。

必要となる修正

アクションプランは意図であって拘束ではありませんから、柔軟であることは当然のこととすべきです。いい加減な計画でよいということではありません。実行に伴って、あるいは時間の経過に伴って、様々な変化が生じるからです。

変化は機会をもたらし、計画の頻繁な修正を要求します。成功や失敗だけでなく、事業環境、市場、組織の内部における様々な変化が機会をもたらします。

チェックポイント

成果と期待を照合するためのポイントを設定します。少なくとも、中間点に当たる時期と、終わり近く(次のアクションプランの策定前)の2回は設定します。

時間管理上の意味合い

アクションプランは時間管理の基準になります。時間の使い方の目途です。アクションプランがなければ成り行き任せになってしまいます。

意思決定を行う

アクションプランを実行するためには、まず意思決定を行う必要があります。

決定すべき事項

アクションプランが実行されるには、少なくとも次の内容を決定しておく必要があります。

  • 実行の責任者
  • 日程
  • 影響を受けるがゆえに、決定の内容を知らされ、理解し、納得すべき人
  • 影響を受けなくても、決定の内容を知らされるべき人

定期的な見直し

決定した内容は、実行過程において、意思決定を行うときと同じ慎重さで定期的に見直します。害をもたらす前に修正することが必要です。アクションプランで定めたチェックポイントで行います。

見直しは、特に人材の採用と昇進の人事で重要になります。人事がうまく行かなかったときは、本人が無能だったからではなく、人事を行った者の間違いと受け止めます。ですから、いつまでもうまく行かない場所に置いておくのではなく、動かしてやることが組織と本人に対する責任です。

前職に匹敵する地位と報酬に戻すことを慣例化すべきです。そうしないと、失敗した者のほとんどは辞めてしまうことになりかねません。

これを慣例化すれば、うまく行っているポストから、リスクのあるポストへの異動に意欲が生まれます。この意欲が組織の仕事ぶりを左右することになります。

見直しは、結果を期待に照合することによって行いますが、これが有意義な自己開発の手段になります。強み、改善すべきもの、知識や情報の欠けているもの、自らの偏りなどを明らかにできるからです。

さらに、弱みや苦手なことも分かります。弱みや苦手は、改善すべきものとは違います。改善が困難なものです。改善しようとするのではなく、人に任せるべきものです。弱みや苦手を改善しようとすると、強みが発揮できなくなり、成果があがりません。成果をあげるには、強みを生かさなければなりません。

意思決定はトップだけの仕事ではない

意思決定は、トップだけでなく、スペシャリストから現場管理者まであらゆるレベルで行われています。

知識を基盤とする組織では、それぞれの意思決定が重要な意味をもちます。知識労働者とは自らの専門分野について誰よりも知っているべき者であり、その意思決定は組織全体に大きな影響を与えるからです。

意思決定は、組織のいかなるレベルにおいても致命的に重要なスキルであることを周知させておくことが必要です。

コミュニケーションを行う

上司、部下、同僚に、アクションプランを理解してもらうことが必要です。アクションプランの作成時から意見を聴いておくべきです。

アクションプランを実行するために、自分が必要とする情報を理解しておいてもらうことも必要です。部下からの情報に注目しがちですが、上司や同僚からの情報についても注意を払わなければなりません。

組織では、いまだに情報はスペシャリストが扱えばよいという考え方が残っていると言います。特定の部門が情報を収集し、関係部署に提供すればよいという考え方です。

その結果、使いもしない余計なデータを膨大に収集しつつ、本当に必要な情報は手にしていないと言います。ですから、情報を必要とする側が、自ら必要な情報を明らかにし、求め続ける姿勢が大切です。

機会に焦点を合わせる

組織では、常に既存事業の問題が重視されます。しかし、問題の処理は損害を防ぐだけであって、成果を生み出すものではありません。

成果は機会から生まれます。常に、イノベーションの機会を精査しなければなりません。

月例報告では問題が優先的に議論されることが通例ですが、機会を優先的に議論することが必要です。ドラッカーは、日時を分けて問題と機会を別に議論することが望ましいと言います。

さらに、半年に一回、機会のリストと仕事のできる者のリストを持ち寄り、最大の機会を最高の人材に担当させるように割り振ることを提案しています。

会議の生産性をあげる

会議は必要悪です。会議を行わなくても仕事が進んでいくのが理想であり、日常的な仕事の遂行過程におけるコミュニケーションによって必要な情報がやりとりされるのが本来です。ですから、会議が必要であるということは、組織に欠陥があることを意味します。

現状では、会議を完全になくすことは難しいですが、できる限り効率的にすることは可能です。

会議は懇談ではなく仕事です。仕事は目的をもって遂行され、成果をあげなければなりません。終了後に成果が出ていないような会議は無駄です。

ですから、会議でまず重要なことは、事前に目的を明かにすることです。目的に合致したメンバーを招集し、あらかじめ目的をメンバーに周知させ、目的に必要な準備をしておきます。事前に検討案を作成し、できれば配布しておきます。

会議での発言は、目的に関わるものに限らなければなりません。報告目的の会議であれば、質問は行ってもよいですが、意見を言ってはいけません。報告者が多い場合は、報告時間を制限することも必要です。

目的に達したら直ちに閉会します。別の問題を持ち出してはいけません。

会議後は、成文あるいは成果物を配布します。報告に基づく何らかの指示が必要な場合も、会議後に文書で行います。

トップマネジメントなどで、どうしても懇談としての会議が必要な場合は、食事の場を活用するのが効率的です。

「私は」でなく「われわれは」を考える

マネジメントは組織の成果に責任を持ちます。組織全体の成果に貢献することが、マネジメントの成果です。特にトップは組織の最終責任をもちます。誰とも分担できず、委譲できない責任です。

マネジメントの権威は、自らのニーズと機会ではなく、組織のニーズと機会を考えることからもたらされます。

常に「われわれは」と考え、「われわれは」と言うことが、組織のことを第一に考える姿勢であり、自らの責任感を示すことです。その姿勢が、模範として組織のメンバー全員に責任感をもたらすことにつながります。