知識労働とサービス労働における生産性向上

ドラッカーによると、知識労働者とサービス労働者は、先進国における就業人口の4分の3に達していると言います。

ところが、知識労働とサービス労働の生産性は、工場等で行われる従来の生産労働に比べて大きく劣っている言わざるを得ません。

従来の生産労働は、やるべき仕事が決められ、基本的に内容が一定であるため、IEの徹底による仕事の最適化が可能です。多くの場合、専門的機能をもつ機械が導入され、機械が仕事のペースとやり方を決めてくれます。

機械の稼働率を高めることが生産性の鍵です。あらかじめ最適化された仕事を行い、かつ、改善を続ける限り、無駄な雑務が生じるということは通常ありません。

他方、知識労働やサービス労働の多くは、やるべき仕事が一定ではないため、機械を人間に仕えさせなければなりません。典型的な機械はコンピュータです。機械をどう使うかは人間の力量にかかっており、それによって生産性は全く異なり、無駄な雑務が生じる余地が十分にあります。

知識労働とサービス労働の生産性向上には、これらの違いに留意して、特に次の取り組みを徹底することが必要であると、ドラッカーは言います。

  1. 仕事の成果(仕事から期待すべきもの)を明確化する
  2. 仕事の適切な流れを決定する
  3. 仕事とその流れに最適な型のチームを組織する
  4. 仕事と成果に集中させる

なお、ここでは、生産労働(ブルーカラー)に対比されるものとして、知識労働とサービス労働の共通項に焦点を当てて、生産性の向上を提案しています。

生産性向上の考え方

知識労働とサービス労働の境界は曖昧です。サービス労働にも知識を仕事に適用する面があります。

サービス労働はホワイトカラーに分類されることが多いですが、仕事の性質としては「生産労働」に近いと言えます。仕事の場所は主に事務所や顧客サービスの現場ですが、工場などで物を作ったり運んだりする仕事に類似しています。

サービス労働の具体例としては、定型的な事務処理、データ処理、請求事務、消費者対応、保険支払い業務、自動車免許更新事務、ビルメンテナンス、病院やホテルのベッドメイキングなどがあります。

工場などで行われる従来の生産労働と、知識労働・サービス労働との大きな違いは、前者の仕事の内容が基本的に一定であるのに対し、後者の仕事の内容は一定でないことです。

したがって、従来の生産労働は、IE(インダストリアル・エンジニアリング)によって仕事の手順や方法を最適化し、専門機械の導入によって、生産性を向上させることができます。機械が要求する仕事の内容やペースに人間の側が合わせることによって機械の稼働率を最大限に高めることが、生産性向上の鍵になります。

しかしながら、知識労働・サービス労働は、やるべき仕事が一定でないため、人間の側が機械を使いこなすことによって、主体的に仕事を組み立て、進めていかなければなりません。

仕事によっては、従来の生産労働と同様、一部の定型的な作業を専門機械で行える場合もあるでしょうが、全体の仕事のなかで機械をどう使うかは人間の力量にかかっていると言えます。そのため、人によって生産性は大きく異なり、無駄な雑務が生じる余地が十分にあります。典型的な機械はコンピュータです。

したがって、知識労働・サービス労働の生産性の向上を図るには、従来とは異なる考え方が必要です。定められた内容に従ってやり方や順番を決めるという意味での仕事の設定とは違う方法で、仕事の分析と再設計が必要です。

最も重要なことは、仕事の目的や成果です。「この仕事から期待すべきものは何か」を明らかにするところからスタートしなければなりません。仕事の内容が一定でないがゆえに、この意思決定が生産性に決定的な影響を与えます。

次に、仕事の流れを最適に設計することです。

さらに、仕事とその流れに適した組織を決定することが必要になります。通常は、最適なチームの型を決定することです。

最後に、仕事への集中が必要です。つまり、仕事の目的や成果に集中することであり、目的や成果に貢献しない雑事は意識的に排除することです。

従来の生産労働では、仕事が明確であり、最適化された機械や作業工程が労働者の注意を集中させてくれました。しかし、知識労働やサービス労働では、人間が機械を使いこなす必要があるため、成果に貢献しない雑事を意識的に排除しない限り、いくらでも雑事が増えていきます。

雑事の増加は、当然、目的や成果に貢献する仕事の時間を物理的に減らしていきますので、仕事への動機づけや誇りを著しく損なうことにもなります。

  • この仕事は本来の仕事に必要か
  • 本来の仕事に役立つか
  • 本来の仕事がやりやすくなるか

を常に問う必要があります。

情報型組織への転換

オーケストラ型チーム

組織の構造も根本的に変える必要があります。階層を減らし、理想的にはオーケストラのような組織にすることです。

オーケストラでは、1名の指揮者が全体を統括します。楽器のパートごとにリーダーに当たる人がいる場合もあるでしょうが、実際に演奏するときには、全員が対等です。譜面を基に、指揮者の指揮にのみ従います。

これが、ドラッカーの言う「情報型組織」のモデルになります。情報型組織では、地位に意味はありません。地位より任務が重要です。チーム内の事実上のリーダーは、仕事の進行に応じて中心となる任務に従って変化します。

ジャズバンド型チーム

経営幹部(トップマネジメント)の組織には、テニスのダブルス型またはジャズバンド型のチームが理想的であると言います。

このチームには、各メンバーが優先すべきポジションはあっても、固定的ではありません。互いに強みと弱みを知り尽くし、条件反射的に互いの仕事を調整し合うことが求められます。

チームとしては最強ですが、機能させるにはもっとも難易度が高くなります。小さな規模(7人ないし9人が最大)でしか機能することはできません。きわめて強い自己規律と、長期にわたってともに働く経験が必要です。

アウトソーシングの重要性

サービス労働の生産性向上には、多くの場合、アウトソーシング(外部委託)が効果的です。

本業(現業)に対する支援的業務の場合、トップ経営陣への昇進が事実上不可能です。必要な仕事であっても本業ではないため、トップ経営陣の関心領域ではないからです(例えば、病院における清掃やベッドメイキングその他の保守管理)。

昇進に制限があり、トップの関心も低いということになれば、サービス労働者の動機づけを阻害することになります。

しかし、その支援的業務を本業とする組織なら、その仕事を通じてトップ経営陣に昇進できます。

その仕事の生産性向上に取り組むことがトップ経営陣の中心的な関心領域になりますので、労働者に昇進の機会と収入と尊厳が与えられることになります。