人事管理論の問題

人事管理論と人間関係論で起こりがちな問題は、人事を事業活動の付属物のように扱っていることです。

事業のマネジメントとは別に人事管理が存在し、事業のマネジメントに関わりなく人事管理の手法が適用できるかのような考え方です。

組織にとって求められるのは、事業の成果です。組織のいかなる活動も、事業の成果に貢献できなければ存在する意味はありません。

人事管理論と人間関係論に科学的管理法を加えた3つの理論が、人と仕事のマネジメントを支える必要があります。

重要な人事管理

人事管理とは、働く人、すなわち事業の成果に必要な仕事をする人のマネジメントです。

中でも、重要な人事管理は、

  • 経営管理者のマネジメント
  • 仕事の組織(業務プロセス)
  • その仕事をする人の組織

です。

しかしながら、人事管理部門がこれらの問題を正面から扱っていることはほとんどありません。これらの仕事を行っているのは、トップマネジメント、あるいはライン(現業)部門です。

人事管理部門の問題

人事管理部門は、これら重要な人事管理を避け、それ以外の人に関わる仕事を寄せ集めて組織されています。仕事以外の満足に重点を置いているかのようです。

事業のマネジメント以外の、人に関するあらゆる手法の集合体のようで、総務部門との仕切りさえよく分かりません。

部門としての独立性、必然性も疑われます。仕事の段階、事業プロセスにおける特定の段階に位置づけられる機能でもなければ、共通の技能によってまとめられたものでもありません。

最大の仕事は、紛争の処理です。問題社員への対応や組合交渉です。

問題は、独立した部門とすることで、人事管理を専門スタッフの仕事と位置づけてしまっていることです。その結果、ラインマネジメントの主人となってしまいます。現業の仕事とは無関係に、唯一無二なる普遍の人事管理プログラムを考案し、現業部門に導入を強制します。

人間関係論の限界

人間関係論では、人は個々バラバラに行動するのではなく、集団の一員として、集団規範を守って行動する存在であると考えます。そのように行動することで集団の成員であることを自覚し、集団への所属感と心理的安定感を持つことができると考えます。

組織では、フォーマルな部門組織ではなく、自然発生的に形成されるインフォーマル集団の意義が強調されます。その集団を基礎として展開される協働が、自成的な協働として持続力を持つと考えます。

人間関係論は、人事管理を補完する理論として重視され、広く取り入れられてきました。人間組織にとっては、マネジメントの土台として重要です。

しかし、いくつかの限界が認められます。

仕事そのものを軽視

最大の問題は、インフォーマル集団を基礎とした自成的協働を信奉し過ぎたことです。自然に仕事への動機づけが生まれ、生産性が高まると考えました。

そのようなことは起こりません。

良好な人間関係が生産性を高め、成果を生み出すことはありません。成果を生み出すものは仕事ですから、仕事そのものに焦点を合わせる必要があります。仕事そのものの中にしか、積極的な動機づけはありません。

幸せなインフォーマル集団の幻想

フォーマル組織ではなく、自然発生的なインフォーマル集団を重視し、その成員であることが幸せの元であるかのように考えている点も問題です。

フォーマル、インフォーマルにかかわらず、人の集団である以上、必ず利害の衝突が発生し、階層構造や権力構造が生まれます。

フォーマル組織の権力構造は、仕事としての権限を背景に持ち、客観的な制限を持ち得ますが、インフォーマル集団ではむしろ無限界の権力に発展しかねません。フォーマルな制約がない分、余計に人を束縛する可能性さえあります。

言い訳の道具

人間関係論は、仕事そのものに言及せず、自然発生的なインフォーマル集団を重視しますから、下手をすると、仕事そのもののマネジメントを軽視する考え方に行き着きます。

仕事以外のアメを与えておけば、それで万事うまく行くという発想になりかねません。福利厚生重視の人事です。働き方改革や健康経営も、その亜流に位置づけられるかもしれません。

科学的管理法の盲点

人事部門が通常関心を持っているのは、人事管理論と人間関係論ですが、実際に人と仕事のマネジメントの基礎になっているのは、テイラーの「科学的管理法」(インダストリアル・エンジニアリング=IE)です。

これを置いて他に、企業の生産性を飛躍的に高めたものは事実上ありません。アメリカの産業発展の本質そのものです。

人事管理論と人間関係論に科学的管理法を加えた3つの理論が、人と仕事のマネジメントを支えています。

科学的管理法は、仕事そのものに焦点を合わせます。その中核は、

  1. 仕事の分析
  2. 要素動作への分割
  3. 要素動作の体系的な改善

です。

科学的管理法にも盲点があります。

本質の誤解

仕事の本質が要素動作のみにあると誤解しました。

分解された要素動作を改善した後、できる限り、一人の人間が一つの要素動作を担当するように仕事を組織化しようとしました。ここに、科学的管理法が敵視された理由の一つがあります。

このような仕事の組織化は、人の特質を無視し、人を機械と同等とみなす考え方です。一要素動作を一仕事として有効に組織化できるのであれば、機械化を図るべきであり、機械の代わりに人を配置することは逆に非効率です。

人には感情があり、個性があります。多様な動作を行い、統合し、均衡をとり、コントロールし、評価測定し、判断することこそ、人間特有の能力です。

人の仕事においては、人の特性に配慮し、生かす方向で、要素動作を統合しなければなりません。

実行と計画の分離

仕事において実行と計画の違いを発見したことは、テイラーの最も価値ある洞察でした。事前の計画の如何が仕事の成果を変えることを指摘したことは、大きな貢献でした。

問題は、実行と計画を担当する者を分けたことでした。計画し、命令する少数の者と、命令されるままに実行する多数の者に分けられました。それは社会的な階級とさえなりました。計画者は選ばれし者であり、支配階級、特権階級となり、「経営特権」と呼ばれました。

実行と計画を区別することは、仕事を生産的なものにするうえで重要です。改善し、コントロールすることが可能になります。

しかし、それらは2つの仕事ではありません。1つの仕事の2つの側面です。

人は自分の仕事の計画に責任を持つとき、生産性が大幅に向上します。人間の特質を生かすことができるからであり、それが人を動機づけるからです。

変化への抵抗

命令されるままに実行することだけを求められ、しかも、一つの要素動作のみをやり続けることになった結果、変化が理解不能になり、変化に対する抵抗を増大させることになりました。

今や変化は不可避であり、変化こそが本質です。技術は進化し、オートメーション化が進展しています。知識労働が支配的になりました。

人の特質に配慮した仕事の統合が必要です。多様な部分から総体をつくり上げ、判断し、計画し、変化することができる仕事です。知識、責任、意思決定能力が求められるものです。

計画し実行するからこそ、変化を知り、自ら変化する必要性を理解することができます。新たな知識や技能を積極的に学ぼうとします。