新しい知識の活用

発明・発見によって得られた新しい知識を活用したイノベーションが、 一般にイノベーションと理解されているものです。

発明・発見というと、科学技術的な知識と思われがちですが、社会的な知識も含みます。

ドラッカーが示しているイノベーションの7つの機会の最後に位置づけられ、リスクも大きく、難易度も高いものになります。

新しい知識によるイノベーションとは

新しい知識とは、いわゆる発明・発見による知識のことです。

一般にイノベーションと理解されているものは、発明・発見によって得られた新しい知識を活用したイノベーションのことを指しています。

発明・発見というと、科学技術的な知識と思われがちですが、社会的な知識も含みます。新たな社会的仕組み、さらに幅広く、新たなビジネス・モデルとみなされるような知識も含まれると考えてよいでしょう。

イノベーションの特徴

ドラッカーが示すイノベーションの機会の最後に位置しており、もっともリスクが高く、活用することが難しい機会になります。

実を結ぶためのリードタイムが長い

過去の例から見て、新しい知識の出現から技術として応用できるまで、さらに市場において製品やサービスとするまで、25年から35年程度が必要になります。

ドラッカーによると、このリードタイムは以前に比べて短くなっている証拠はありません。この期間が例外的に短縮できた例は、外部から危機がやってきたときだけです。つまり、戦争です。

実際にスピードアップしたのは新しい技術に対する認識の早さ、変化した技術が世界に浸透する速さでした。

認識や浸透が早くなっているということは、市場に出てから競合が追随するスピードも速まっているということであり、製品やサービスが陳腐化するまでの期間が短くなっているということです。

いくつかの異なる知識の結合が必要

発明・発見された知識が単独でイノベーションを実現できた例はありません。必要な知識は複数あり、それらのすべてが既知となり、利用でき、使われるようになって初めて、イノベーションの出発点に立つことができます。そこから長いリードタイムの始まりです。

イノベーションを行おうとする者が、足りない知識を自ら生み出すこともあります。

必要な異なる知識は、技術だけとは限りません。技術的知識と社会的知識の組み合わせであることもあります。

不確実性が高い

知識が出揃っても、リードタイムは長く、イノベーションが起こりそうで起こらない期間が長く続くことになります。

あるとき、突然のように爆発が起こり、開放期が始まります。興奮が高まり、世の脚光を浴び始め、参入者が乱立し始めます。

開放期から5年程が経つと整理期に突入し、生き残るのはわずかです。失敗の確率が非常に高いと言えます。ドラッカーによると、過去の例から見て、初期のブーム期に参入できなければ生き残れないと言います。

また、生き残りに規模の大きさは関係ないと言います。規模が大きければ、失敗が致命的な被害にならないことはあり得ても、成功を保証するものにはなりません。

爆発期から整理期までの期間は、過去から特に変化がないと言いますが、グローバルな参入が起こるため、競争自体は激烈になっていると言います。特にハイテクは脚光を浴びやすく、多くの新規参入と投資を引き付けるため、競争は一層激しいものとなります。

調査、技術開発、技術サービスに多額の資金が必要なため、他のイノベーションに比べても、利益があがらない期間が非常に長くなります。そのため、整理期を乗り切るのに必要な資金的余裕が残らないという事態が起こりやすくなります。

なお、整理期の後、再び開放期が繰り返される場合もあります。コンピュータがよい例です。

イノベーションの条件

要因の分析

知識、社会、経済、認識の変化など、あらゆる要因の分析が必要です。欠落している要因を見落とさないようにし、それを確実に手に入れなければなりません。

ドラッカーによると、科学者や技術者は自分がすべて知っていると思い込むため、分析を行うことは稀であると言います。その結果、むしろ素人の方が分析を怠らず、イノベーションを成功させることが多いと言います。

緻密な分析には、イノベーションを実現する強い意思と、厳しい自己規律が必要です。

戦略

新たな知識によるイノベーションは、注目を集めやすく、多くの者が参入するため、一度つまずくとそのまま押しつぶされる場合がほとんどです。ですから、チャンスは一度限りだと考え、明確な戦略に基づく実行が不可欠です。

ドラッカーは、3つの戦略を示しています。

  1. システム全体を自ら開発し、手に入れる戦略
  2. 市場だけを確保しようとする戦略
  3. 戦略的に重要な能力に力を集中し、重点を占拠する戦略

デュポンがナイロンを開発した際にとったのは2番目の戦略です。ナイロンの市場(ストッキング、下着、タイヤなどの最終用途)を創造し、各製品の開発・販売は他のメーカーに委ねました。デュポンは、それらのメーカーにナイロンを供給しました。

3番目の戦略について、何が重要な能力かは、その知識によります。例えば、ペニシリンは培養技術、旅客機はマーケティング(設計と融資に対するニーズ)、コンピュータはCPUなどです。

マネジメント

先見的なマネジメントが必要です。戦略の策定と実行が必要だからです。長期的に多額の資金が必要になりますから、特に財務についての先見性も不可欠です。

特定の知識の専門家がイノベーションに取り組む場合、専門領域以外に関心をもたずに失敗することが多いため、必要な専門知識を網羅したマネジメントチームをつくることが重要になります。

戦略の実行には、

  • 体系的な組織構造
  • 長期計画
  • 情報システム(市場からのフィードバックの仕組み)

なども必要です。

イノベーションが成功したと言えるためには、市場に受け入れられることが必要です。市場中心、市場志向でなければなりません。顧客にとっての価値よりも、技術的な高度さを重視してしまうと失敗します。

機が熟していること

世の中に受け入れられる必要があるということです。

他の機会を利用するイノベーションは、すでに起こった変化を利用しますが、新たな知識によるイノベーションは、イノベーション自体が変化を起こし、ニーズを創造します。ですから、顧客に受け入れられるかどうかは未知です。現在存在しないものについて市場調査をしても無意味です。

結局、受け入れられるかどうかは、掛けてみるしかないということになります。

ただし、リスクを大幅に下げる方法はあります。これまでに述べてきた他の機会と、新たな知識を結合させることによるイノベーションです。

予期せぬ成功や失敗、ギャップやニーズの存在を機会として利用しようとする場合、欠けている知識が見つかる場合も多いと言えます。その知識を新たに発明・発見し、イノベーションにつなげます。

新たな知識を純粋に動機とするようなイノベーションとは違い、目的やビジョンが明確です。組織的かつ合目的的な開発研究になります。

それ自体が画期的で熱狂的なものではないかもしれませんが、システム的、仕組みとしてのイノベーションであり、厳しい自己規律を求められる着実で地道なイノベーションです。