総力戦略とは、ただ一つの野心的な目標に全エネルギーを集中する戦略です。
ギャンブル性がきわめて高い戦略のため、新たな産業や市場を創造し、そこでトップの座をねらえるだけの大きな成果が期待できる目標でなければなりません。
総力戦略とは
総力戦略とは、一つの目標に全エネルギーを集中する戦略です。目標は、きわめて野心的である必要があります。
市場や産業においてトップの座を得ることを目指します。新しい産業や市場、あるいは新しいシステムを創造し、最初から永続的なトップの地位と市場の支配を目指します。
その意味で、最高の企業家戦略とされているものです。例えば、ナイロンを開発したデュポン、アップル・コンピュータなどがあげられます。
最もギャンブル性が強い戦略
全エネルギーを集中させ、大量の資源を投入する必要があるため、いっさいの失敗が許されず、チャンスが2度はない戦略です。成功すれば成果は大きいものになります。
逆に、それだけ見返りが大きなイノベーションにしか使うべきではないと言えます。必要なコスト、努力、資源に見合うほど大きなイノベーションでなければ意味がありません。
そのような機会はそれほどありませんので、通常は、他の戦略を優先すべきです。
総力戦略の条件
ただ一つの野心的な目標
一つの目標に総力、すなわち全エネルギーを集中させますから、その目標は野心的なものでなければなりません。
全エネルギーの集中
ドラッカーは、総力戦略について、月を狙うのに似ていると言います。遥かに遠い月に向かうために、フルパワーでロケットを打ち上げるようなものです。
綿密で徹底した思考と分析
遥かに遠い目標を目指すため、月に向かうロケットのように、わずかに狂うだけで宇宙の彼方に消え去ってしまいます。一旦発射してしまえば、修正や調整は利きません。
当てずっぽうや根拠のないアイデアでは意味がありません。イノベーションの7つ機会についての綿密で徹底した思考と分析が不可欠です。
継続的な資源の大量投入
成果が出始めたら、さらに資源を大量投入しなければならないと言います。むしろ、成功したあとにこそ、本当の仕事が始まると言います。
トップの地位を獲得したら、それを維持していくための継続的な努力が必要となります。さらに大きなエネルギーが必要になります。
イノベーションの努力をさらに大規模に続けなければなりません。開発費の増額も必要です。
新しい製品の利用法を開発し、新しい顧客を発掘し、新しい製品を試してもらうことが必要です。自分たちの手で、自分たちの製品やプロセスを陳腐化させていかない限り、トップを維持することはできません。
価格を計画的に下げる
製品やサービスの価格は、計画的に下げていくことが必要です。高価格を維持し続けると、必ず競争相手がそこにつけ込んで参入し、市場を奪います。
門外漢が有利
総力戦略では、真に新しいものをつくり出すことを目指しているため、外部の素人でも専門家と同じ、あるいはそれ以上の働きをすると言います。
新たな産業や市場をつくるほどの大きなイノベーションには、業界の通念や常識はむしろ邪魔になる場合が多いからでしょう。
新しい理論は、昔ながらのパラダイムがまったく無効となるまでは見向きもされないと言われていますので、その間は、新しい理論を受け入れ、利用する者がその分野を独り占めすることになります。