ニッチ戦略は、目標を限定する戦略です。
限定された領域で実質的な独占を目指します。競争に免疫になることを目指し、挑戦を受けることさえないようにすることを目指します。
ポイントは、製品としては決定的に重要でありながら、ほとんど目立たず誰も競争しに来ない点にあります。
ただし、条件や限界には厳しいものがあります。体系的な分析によって変化を的確にとらえなければなりませんが、ひとたびニッチを占領したとしても、環境の変化によって、一夜にして陳腐化する危険にさらされています。
ドラッカーは、ニッチ戦略として、次の3つを示しています。
- 関所戦略
- 専門技術戦略
- 専門市場戦略
関所戦略
何らかのプロセスにおいて、関所に当たる地位を確保する戦略です。
関所の地位は最も望ましい場所です。通常は何らかのギャップの中にあります。ギャップの存在を機会としてとらえ、イノベーションによって適切な製品やサービスを提供できれば、市場を独占することができます。
まさに難攻不落の地位ですが、守備範囲は狭い領域です。
成功の条件
関所戦略には厳しい条件があります。
製品が必要不可欠なものでなければなりません。関所であることの大前提です。言い替えると、製品がないことによるコストが、製品価格よりも圧倒的に大きくなければなりません。
さらに、市場の規模は、最初にその場を占めた者一人だけが占拠できる大きさでなければなりません。あまりに小さく目立たないために、競争相手が現れようのない生態学的なニッチ、つまり2社以上は共存できないニッチでなければなりません。
戦略の限界
限界とリスクにも厳しいものがあります。
ひとたび適所を占めてしまえば、それ以上大きな成長は見込めません。一社分の生存領域しかありませんので、目標の達成が成熟期の入口です。関所ではありますが、何らかのプロセスの一部ですので、最終需要者の成長と同じ速さでしか成長できません。
それは同時に、関所の地位を占めた企業が勝手に事業を拡大したり変えたりすることができないことを意味します。いかに優れ、いかに安くても、需要はその製品が組み込まれているプロセスや製品への組み込みによって決まります。
さらに同時に、需要を満たす他の方法が発見されたら、ほとんど一夜で陳腐化することも意味します。
関所の地位を独占しているからといって、その地位を濫用することはできません。濫用すれば、ユーザーは別のメーカーを招き入れることになります。
専門技術戦略
専門技術によって、生態学的なニッチにおける支配的地位を獲得する戦略です。
優れた技術を開発することによって、かなり早い時期に市場を獲得します。専門技術によって先行することで、他の企業にとっては挑戦する価値がなくなる状態をつくり出します。技術の基準となる状態です。
専門技術と言っても、製造業に限定されるわけではありません。
成功の条件
タイミングが重要です。産業、習慣、市場などで何か新しい動きやイノベーションが起こり、その発展の初期の段階でスタートしなければ間に合いません。専門技術の開発に時間を要するからです。
そのようなタイミングは、イノベーションの機会を体系的に探すことによって初めて見つけることができます。その中で、支配的地位を得られそうな専門技術が開発できる分野を探します。
その専門分野では、独自かつ異質の技術をもたなければなりません。顧客や取引先が、技術的、気質的に異質なものにあえて入り込んでこようとしないほどのものである必要があります。
ニッチ確保に成功した企業は、たえずその技術の向上に努めなければなりません。独自かつ異質である状態を維持し続けなければならないからです。常に一歩先んじて、自らの手によって自らを陳腐化していかなければなりません。
戦略の限界
焦点を絞らざるを得ません。狭い領域、専門分野だけを見ていかなければ、独自かつ異質の技術を維持し続けることは困難です。
専門技術である以上、提供できる製品やサービスは最終製品の部品です。最終製品の提供は、他の者に依存しなければなりません。
時間的にも領域的にも限界があります。外部環境のわずかな変化にも適応できません。最終製品の供給者が別のものを使い始めたら、なすすべはありません。専門技術が一般化してしまうと、もはやニッチではなくなります。
ただし、限界の枠内では、専門技術による地位を維持できる限り、きわめて有利であると言えます。
専門市場戦略
市場についての専門知識によって生態学的なニッチにおける支配的地位を獲得する戦略です。専門技術を専門市場に置き換えれば、専門技術戦略とほとんど同じと言えます。
成功の条件
新しい傾向、産業、市場について、常に体系的に分析を行っていかなければなりません。
- この変化には、ニッチ市場をもたらすいかなる機会があるか。
- 他に先駆けてそれを手に入れるには何をすべきか。
を徹底的に問います。
小さな工夫にすぎなくても、何らかのイノベーションを加える必要があります。
手に入れた地位を維持するには、製品とサービスの向上、特にサービスの向上のために休まず働かなければなりません。
戦略の限界
最大の敵は自らの成功です。成功するということは、需要が拡大し、専門市場が大衆市場になることを意味するからです。もはやニッチ市場ではなくなり、多くの競争相手を呼び込むことになります。