アメリカ社会は、繁栄の見返りとして、中核企業の合法性と永続性を受け入れるようになりました。
政府は反トラスト法の厳格かつ熱心な適用を差し控えるようになり、巨大会社間の寡占協調は、大量生産計画を実行に移す民間部門の特徴として受け入れられたかのようでした。
政府の役人は、アメリカの中核企業の収益性が維持されることを第一義的な責任とさえ考えるようになりました。
とはいえ、どの程度までインフレを容認すべきかについては議論がありました。共和党は実質的な失業の危険が生じてもインフレ退治のほうに舵を取ることを望み、民主党はインフレの危険を冒してでも雇用率が高いほうを望みました。
大量生産に見合った教育
アメリカの子供たちが、将来所得が得られるような仕事に就ける準備をするために、中・高等教育は大量生産システムを反映していました。
子供たちは、あたかも工場のベルト・コンベアに乗っているかのように、あらかじめ定められた順序で標準科目をこなし、一学年ずつ階段を昇っていきました。
教育でも標準化が規模の経済を創り出しました。工場生産のように大きいことが良いことだとされ、小さな学区は大きな学区に統合されていきました。
高等学校の生徒の上位15%は一番早い課程で最も迅速に教育され、4年制の大学に進学しました。大学は、企業組織の頂点を目指す上級課程でした。
残りの高校卒業者と中退者には、待遇の良い工場の仕事が用意されていました。
次いで国防も中核企業が担った
冷戦における国防の任務は、政府の公共部門への投資を正当化することでした。
軍事分野の注文は、航空機および通信関連の中核企業の特定のグループが獲得しました。その最高経営者の多くが、国防省の高官出身であったことも影響しました。
国防契約企業によって、高給与の職が国中の製造業の中に数多く創り出されました。
ソ連封じ込めには多国籍企業化
戦後の経済荒廃によって、ほとんどの国はアメリカ人に何も売ることができず、アメリカの製品をほとんど何も購入できませんでした。
それにもかかわらず、アメリカはソヴィエト社会主義の拡大を防ぐために、資本主義の成功をアメリカ以外の世界に拡げようとしました。
IMF、世界銀行、GATTの推進役となり、西欧と日本に向けて、工場、鉄道、学校を再建するために何十億ドルもの援助を行いました。途上国には、目標を示した援助と技術を提供しました。外国からの輸入品に対する関税を徐々に引き下げました。
この努力によって、1945年から1970年までの間、人類史上最も劇的かつ広範囲にわたる経済成長が見られました。
世界の先進国経済の復興を助け、共産主義を寄せ付けないようにするための新しい貿易と援助のシステムが構築されました。圧倒的に巨大で、技術的にも先進的なアメリカの中核企業は、このシステムによって、発展と繁栄を続けるための絶好の機会を得ました。
固定為替レート制を支える基軸通貨としてのドルを使用することによって、アメリカの銀行と中核企業は最小のリスクで勢力範囲を拡大できました。
アメリカの支配下にあった世界銀行は、アメリカの中核企業が最有望だと判断した場所に開発援助を集中しました。アメリカの体外援助の受け手がそれを使い、アメリカの輸出品を購入する限り、中核企業はその市場の発展性を確信して海外貿易に入り込むことができました。
アメリカの中核企業が天然資源を所有しているか、所有したがっている、あるいはすでに実質的な所有者となっている地域で、CIAが共産主義者の陰謀を見つけ出しました。
世界企業
規模と技術において優越するアメリカの中核企業は、アメリカ資本主義の勢力範囲を、国防総省やCIAよりもずっと効率的に拡大しました。
コカ・コーラ、フォード、GM、ハインツ、NCR、シアーズ、IBMなど何十というアメリカの中核企業が、世界中に製造設備を作り、流通販路を張り巡らし、広告を流すという方法で、製品と製造・販売技術を輸出しました。
アメリカ企業は現地の外国人に対して狭量ではありませんでしたが、厳格な管理が保たれました。中間管理職に就いた外国人には、通常アメリカ人の同僚が行使しているほどの自由裁量権は与えられませんでした。
現地の会社は、アメリカの経済利益に従属しているだけでなく、アメリカの冷戦戦略にも従属していました。ワシントンが、現地の会社に対してソ連圏との交易を行わないよう指示していたからです。
アメリカ企業は、高度に組織化され、国家から資金と情報を供与された巨大経済システムであり、国家権力と企業権力の戦略的な結合でした。
共通の原理となった暗黙の了解
アメリカの中核企業は大量生産方式で商品を生産する計画を立て、実行し、規模の経済によって単位当たりの生産コストを削減しました。他の中核企業と調整することによって、かなりの収益が得られるほど価格を高く設定できました。
収益は、新規の設備・機械に再投資されるほか、かなりの分け前が中間管理者と生産労働者に与えられたので、大量生産を妨げるようなストライキと職場放棄を避けることができました。労使とも、インフレになるほどに、価格と賃金を高く設定することはしませんでした。
政府は企業の意思決定に介入することはせず、中核企業が秘かに価格と生産の足並みを揃えて、自分たちの計画に着手することを黙認しました。
政府は、中核企業の大量生産をさらに支援するため、景気循環の振幅をならす、新しい住宅を購入したり国家的な高速道路網を建設したりするのに補助金を出す、国防のためにアメリカの中核企業と契約を結ぶ(新しい商業技術の研究開発基金の間接的提供)、アメリカ企業が海外に投資するのを促進してその権益を守る、といったことを行いました。
このように、巨大企業、巨大労働組合および大衆が協力して大量生産を促進することによって、大きな規模の効率性を得ることができました。これにより、量的に拡大された生産物を購入できる中間層のアメリカ人をさらに多く雇用できるようになりました。
アメリカの多国籍企業の海外投資は、この循環を促進し、拡張させる手段であり、世界の共産主義の拡大を防ぐ手段としても理解されました。
このような国民的な約束事の背景には、企業経営者と投資家、労働者階級、政府を通じて代表された大衆という各グループの間に、後により多くの利益を得るために目先の利益を犠牲にすべきという暗黙の了解があったといいます。
ただし、この約束事は、黒人や女性に拡大されることはなく、原材料をアメリカの中核企業に供給する貧しい国に対しても拡大されることはありませんでした。