産業における欲求阻止(フラストレーション) − 「人間関係論」とは何か?㉘

人がある目標に向かって動機づけられているにもかかわらず、何かによってその目標に至るのを妨げられているとき、「欲求阻止されている」と言われます。

労働者にとって、仕事は自己発揮や自己実現の重要な手段ともなっていることから、欲求阻止もまた頻繁に起こっています。

欲求阻止の態度の存在を最も明瞭に反映する産業界での領域は、次のとおりです。

  1. 産出 質、量、および経済性
  2. 労働災害と産業疾病
  3. 欠勤とストライキ
  4. 神経症、疾病および産業疲労
  5. 労働移動

目 次

災害

労働災害は、多くの因子と関係しています。健康状態、年齢、経験、疲労、換気、温度などです。ここでは、災害頻発度として一般に知られているものを規定する心理的・社会的要因を取り扱います。

M・グリーンウッドとH・M・ウッズは、産業疲労研究所における1919年の研究において、研究対象の集団で、災害の80%が僅か20%の労働者に起こったことを観察しました。この比は、産業災害と交通事故の両方について確かめられました。

ロナルド・マックケイスは、産業災害を分析した米国保険会社の統計において、機械の故障によるものは全体の9%未満、肉体的・精神的欠陥によるものは約3%、技術の不足によるものは8%未満であり、残りの80%は災害頻発の形をとるパーソナリティの結果のためであったことを確認しました。

フランダース・ダンバーは、災害を引き起こした患者について特に研究した結果、次の結論に至りました。

  1. 一つの重大な災害の起こした人のうちの80%は、さらに災害を起こしやすい特別のパーソナリティを持つ。
  2. 多くの小災害を起こしたことのある人は、そうでない人よりも重大な災害を引き起こしやすい。
  3. 災害頻発者は、並々ならぬ健康の持ち主で、特に風邪や消化不良にならない。
  4. 災害頻発者は、不器用でも愚鈍でもなく、思索人よりもむしろ機敏な行動人である。
  5. 災害頻発者は、一般に、日々の愉悦に精力を集中し、長期の目標にはほとんど関心をもたない衝動的な人である。しばしば権威に対し憤慨し、非行少年のパーソナリティ型と等しい。災害頻発度と自発的欠勤との間に強度の正相関が見い出された。

ダンパーは、不良記録を持つ人々を他の仕事に移すという簡単な方法によって、災害率を5分の4減少させた事例を紹介しています。

かつて、災害頻発は、その会社に来るずっと前からあった神経症から起こるとみなされていました。その後、T・T・バターソンの研究によって、社会的・文化的因子の重要性が示されるようになってきました。要するに、欲求阻止による志気の低下に帰することができます。

バターソンは、ある英空軍飛行中隊の集団的欲求阻止がいかに航空機衝突数の増加となったかを示しました。衝突数は、欲求阻止の源を除くことによって実質的に減少しました。

疾病

医学の分野において、人間を機械であるとみなす仮説はすでに崩壊しています。肉体と精神との関係は非常に密接ですから、両者が一つになった一元的な有機体として人間を考えなければなりません。

快適の欠如や順応の失敗という最も広い意味で疾病をとらえると、肉体と精神の保全に対する脅威に向けた人間の全反応を指すということができます。

その徴候として知られているのは、概ね、次のような脅威に直面した時の防衛的反応です。

  1. バクテリア、ウィルス、菌類による伝染
  2. 昆虫の横行
  3. 毒物
  4. 器官的損傷
  5. 過少食、過多食、栄養失調
  6. 極度の寒署、肉体の露出など
  7. アレルギー
  8. 疲労
  9. 生理的随伴現象としての恐怖、激怒、不安などを伴う感情的緊張

感情的緊張は、自律神経系統を通じて人間に影響を与えます。それが肉体構造に固着されるか、または凍結されるようになってきた危急時における反応が、精神身体病(原因が主として感情に存する身体の病気であり、精神身体的に治療が行われるもの)です。

感情的緊張に起因する疾病は数多く知られています。その他の疾病も、伝染や多種の器官的原因によるとはいえ、大きな心理的要素を含んでいます。

精神病学のジェームズ・A・C・ブラウンは、「疾病は罪悪による」という昔の見解に戻っていると指摘します。特殊的な精神身体病は、①環境に対するその人の反応の仕方、②その人のパーソナリティ特性、③罪や不安、恐怖、憎しみ、憤懣といったマイナスの感情に関わっているからです。

心理的および精神肉体的疾病は、緊張による疾病であり、特に英国、アメリカ、西欧の工業諸国において増加しました。インドや西アフリカなどにも、工業化の導入に伴って現れました。

R・ドルとF・アヴァリ・ジョーンズが1951年に行った報告によって、胃潰瘍および十二指腸潰瘍と職業的な不安の関係、特定の職業における発症率の高さなどが明らかになりました。

産業界の緊張と循環系統の疾病の関係についても明らかになりました。

産業性皮膚病をパーソナリティの疾患であるとする見解も出ており、職場の低い志気、家庭での心配事によって生じ、政府の方針によって重くなった神経症の一つであるといいます。

皮膚病学者であるマーク・ヒューウィットによると、皮膚に傷害を与える物質が直接の原因であった場合に、物質の効果が消失した後、数週間から数ヶ月も症状が続くことがあるといいます。

物質による産業性皮膚炎の事例は約5%であり、それ以外の根本原因は感情的なものであるといいます。職場の志気と一般的な不満との因子に関係することが分かっています。

ヒューウィットは、「自己の職務に対して高すぎる、または低すぎる能力や知能をもつ人々は、潜在意識的に自己の地位に反逆している」と指摘しました。

政府の方針は、産業性皮膚病をつくり出すのにしばしば大きな役割を演じました。J・H・トウィストン・ディヴィスは、皮膚病を悪化させた少数の労働者の福祉を心配するあまり、当局は、皮膚病の恐怖を高め、合理的な治療に差し障りがあるほどに警告過多に陥ったと指摘しました。

神経症は「第二次利得に対する欲望」を示す傾向があるといいます。

根本的に人生を恐れている神経症患者は、より原始的な順応形式をとったままで病気になっている傾向が強いため、より効果的な順応形式をとらなければ症状を改善することができません。

ところが、神経症によって扶助金を受け取れるため、現在の不順応の状態にとどまるインセンティブが働くことになります。

産業での傷害後のこのような神経症は、例外というよりも原則であり、工場の志気が良好であればあるほど、災害による神経症の数は少なくなるといいます。

G・R・ハーグリーヴスは、英国陸軍の事例として、神経症的故障や精神身体病は、大隊の増強や新兵募集期、すなわち、兵士が新しい緊張に直面させられ、集団の中にまだ受け入れられないときに、最も頻繁に起こることを認めました。

D・S・F・ロバートソンは、産業における経験に基づくと、新しい職務の仕事を始めるか、または新しい監督の下で仕事を始めるかして、昇進後に新しい責任を引き受けるか、または長期欠勤の後で職場に戻ったかした後の順応期間内に、心理的故障に罹りやすくなると指摘しました。

ラッセル・フレィザーによってバーミンガム内外にある軽中機械工業労働者3000人を対象に行われた研究によると、神経症は、次の状況下で働く労働者の間で重大な増加を示しました。

  1. 週72時間以上働いた。
  2. 最近しきりに仕事を変えた。
  3. ただ一人で暮らしていたか、または多数混み合って暮らしていた。
  4. 別居またはやもめ暮らしをしていた。
  5. 家庭上の重い責任または圧力を受けていた。
  6. ほとんど他人と交際しなかった。
  7. 自分の仕事が嫌いか、または退屈と感じていた。
  8. 知能の割に高すぎた、または低すぎた仕事に従事していた。

これらの条件の大部分は、社会的適応上の欠陥、集団への所属または適合ができないことと関連していることが分かります。

神経症は社会の解体とともに増加し、個人が第一次集団内に統合し直されるようになるにつれて減少するということが分かっています。現に、集団生活によって神経症の人々を治療する集団精神治療が効果をあげています。

疲労

ハワード・E・コリアーによると、疲れた労働者は、まず、仕事への興味の減退を感じ、次に、ますます興味を失うか、または退屈を感じます。

その後も同じ仕事が強制し続けられるならば、続けようともがけばもがくほど、ますます煩わしさと苛立たしさを体験します。産業疲労が産業不安を引き起こしがちなのは、この段階においてです。

仕事が依然強制され続けると、意志を最高度に発揮しても、また注意を最強度に集中しても、仕事を続けることができなくなります。

生産はもちろん低下しますが、重要なのは、産業疲労が疾病の素因となるという事実です。コリアーによると、産業疲労は健康と病気との間の過渡的状態であるといいます。

ボックとディルは、疲労には二通りの型があり、一つは中枢神経系統(脳と脊髄からなり、全身から集まってくる情報を処理し、指令を発信している)の中で発生し、もう一つは神経系統(末梢神経のことで、運動神経、感覚神経、自律神経の3つがある)と活動筋肉の中で生じると指摘しました。

このうち、前者の中枢神経系統で発生する疲労が普通の出来事であり、産業疲労もこれが普通であるといいます。つまり、産業疲労の起源は心理的であるということです。

つまり、長引いた肉体重労働による肉体的消耗というきわめて少数の事例を除いて、産業疲労のほとんどすべては、退屈、心配、および憤懣という純粋に心理的な状態によって生じるということです。

心理的条件の中でも、コリアーが最も重要であると指摘したのは、次のものです。

  1. 単調
  2. 規律の欠如と、欠点の多い監督
  3. 雇用の不安定
  4. 社会の、または集団内の調和の欠如
  5. 正しくない労働刺戟
  6. 人員選択と昇進との誤った方法