リチャード・ルメルト(Richard P. Rumelt)は、戦略論と経営理論の世界的権威で、ストラテジストの中のストラテジストと評されています。
この記事では、『良い戦略、悪い戦略』(GOOD STRATEGY, BAD STRATEGY)および『戦略の要諦』(The Crux: How Leaders Become Strategists)を基に、ルメルトの戦略論を概説します。
問題の核心を見抜くには、問題を構成する様々な要素の関係性を理解しなければなりません。正確な診断を行うには、アナロジーとリフレーミングという2つのツールが役に立ちます。
「アナロジー」とは、直面する問題とよく似た状況を探し、両者の類似性や共通性を手がかりに現在の問題を理解する手法です。
よく知っているフレームワーク、セオリー、モデルとの類似性を手がかりにすることもできます。
ただし、人間は無意識のうちにアナロジーを使っていることがあり、その場合、正確な状況診断を妨げる障害物になり得ます。人間は、自分にとって好ましい見方や都合のいい意見ばかり選んで聞き、自己強化する傾向があるからです。
「リフレーミング」の「フレーム」とは、ものの見方のことを指し、状況を見渡すときの視点と理解することができます。
誰しも自分にとって心地よい視点があります。組織にとってもそうです。診断のときに重要なのは、使われているフレームをテストし、必要に応じてリフレーミング (調整あるいは修正)することです。
視点を変える
組織の内部では視点が偏ったり固定したりしがちで、暗黙の前提が根を下ろしているケースも珍しくありません。
このことに気づいたら、問題の別の側面や因果関係に光を当てるようなアナロジーやフレームを提案すると、それによって診断がスムーズになることがあります。
診断に必要なのは、厳しい現実、辛い真実を直視することです。診断に基づいてこそ解決策が決まり、具体的で一貫性のある行動に落とし込むことができます。これが戦略を立てるということです。
診断すべきは、必ずしも自社が直面している問題とは限らず、消費者やサプライヤーが直面している問題かもしれません。例えば、消費者が確実に欲しがっているものが製品化されていない場合(「未実現の価値」)です。
間違った因果モデル
アナロジーをうまく使うコツは、よく似ていると思われる状況を2つ以上探し、それらの状況の経過や因果関係を理解したうえで、現在の課題との関連性を考えることです。
見当違いのアナロジーを持ち出すと、見当違いの診断を行って、見当違いの戦略を導き出すことになってしまいます。