キュロス軍は、アッシリアの強大な主力部隊と激突します。圧倒的な戦力を誇るアッシリア軍は、規模で劣るキュロス軍を三方面から方位殲滅するための隊形で攻めてきました。
しかし、改良された戦車や圧倒的に勇敢で訓練された兵士たちによるキュロス軍は、激しい戦闘のうえ勝利しました。
敵の残党はサルディスに敗走しましたが、それを追撃して都城を制圧し、総司令官であったクロイソスを投降させました。
さらにキュロス軍はバビュロンに向かい、陥落し難い堅固な都城に直面しますが、バビュロンで慣例的に行われていた、すべての人が夜通し飲んで乱痴気騒ぎをする祭りに乗じて都城内に進撃し、ついにアッシリア王を倒して、バビュロンを征圧しました。
包囲戦での激烈な戦闘
いよいよ、クロイソス率いるアッシリア軍の主力部隊との戦いに出陣します。
敵は、すでにアラスパスから得ていた情報のとおり、両翼でキュロス軍より遥かに広い戦列を組み、キュロス軍を包囲しようとしていました。どの方向からでも同時に戦えるように、両翼を鍵型の隊列(3面でキュロス軍に向き合う凹型の隊列)に転換しました。
キュロスは指揮官たちに細かい指示を出した後、自らは戦いを始めるのに適した場所に移動しながら軍の状況をつぶさに観察し、兵士たちを励ましていきました。
やがて敵軍がキュロス軍を完全に包囲する形になり、キュロス軍もまた同様の隊形(凹型)で迎え撃つ形になったところで、キュロスは戦闘歌を歌い始め、全軍がこれに唱和しました。そして、鬨の声を一斉にあげ、キュロスの前進によって戦闘が開始されました。
アブラダタスも躊躇せず、すぐ側に配置されていた戦車兵たちと一緒に、エジプト軍の戦列に真正面から突入しました。しかし、他の戦車兵たちはエジプト軍が大密集隊形で迎撃しようとしているの見て、アブラダタスを護らず逃走したのでした。
アブラダタスたちは敵をなぎ倒していきましたが、激しい混乱の中であらゆる物が堆く積もり、それに引っかかった戦車の車輪が跳ね上がったため、アブラダタスは戦車から放り出され、敵の剣に破れてしまいました。
アブラダタスについて行ったペルシア兵たちは、エジプト兵を攻撃したものの、数と武器で勝っていた敵に圧倒され、後退して戦闘機械の下に逃れました。戦闘機械の塔からは飛び道具が放たれました。
キュロスが自分の正面の敵を撃退してこの場に到着しました。彼はペルシア兵たちが持ち場から後退しているのを見て悲しみましたが、すかさず部下たちを率いて敵の背後に回り込み、攻撃しました。
敵は大いに混乱し、背後の敵に向かおうと反転したため、敵味方が入り乱れた戦いとなりました。その時、敵兵の一人が倒れてキュロスの馬の下敷きになった際、馬の腹を剣で突き刺したため、馬が棒立ちになってキュロスを振り落としました。そこに部下たちが一斉に集まってキュロスを護り、護衛兵の一人に助けられて馬に乗せられました。
ペルシア軍の騎兵隊もその場に到着し、エジプト軍との戦闘を開始していましたが、キュロスはそれを止めさせ、外側から飛び道具で攻撃するように命じました。
キュロスは戦闘機械隊に到着すると塔に登り、戦場を見渡したところ、エジプト軍の一部のみが踏みとどまって戦っているだけでした。これらの兵士たちは円形に固まって盾の下に潜り込み、防戦一方の状態でした。
キュロスは彼らエジプト兵たちを称賛し、勇敢な彼らの死を望まなかったので、攻撃を止めさせました。キュロスは使者を送り、彼らを見捨てた者たちのために死ぬのではなく、救われて勇敢な兵士となること、すなわち、武器を引き渡し、キュロスの味方になることを勧めました。
サルディスへの追撃
戦闘を終えたキュロス軍は食事を済まし、就寝しましたが、クロイソスは直ちに軍隊を率いてサルディスへ逃走しました。他の種族の軍隊もそれぞれ夜のうちに故郷への道をできるだけ遠くへと退却していきました。
夜が明けるや否や、キュロス軍はサルディスに向かいました。城壁に到着すると機械を組み立て、梯子を用意して、城壁を攻撃するかのように見せました。しかし、その夜には、保塁の最も険しい箇所をペルシア兵たちとカルダイオイ兵たちに上らせ、堡塁をそれぞれ占拠、守備させました。
保塁が占拠させたのが明らかになると、城壁を守っていたリュディア兵のすべては都城に逃げ込みました。
キュロスは夜が明けると都城に入り、誰も部署を離れないように命じ、保塁を見回りに行きました。すると、ペルシア兵たちは規律正しく保塁を守備していましたが、カルダイオイ兵たちは保塁を守備せず、都城内に駆け下り、家屋の財貨を略奪していました。
キュロスは直ちにカルダイオイ兵の指揮官たちを呼び集め、規律を守らずに利益を求める者たちを見るのは我慢できないからできるだけ早く軍隊を去るように言いました。ただし、去っていくときには自分より強力な者に出会っても驚くなとも言いました。
カルダイオイ兵たちは恐れ、キュロスに怒りを沈めて欲しいと懇願し、奪った財貨を返還すると申し出ました。キュロスは、奪った物をすべて堡塁を警備している兵士たちに渡すように言いました。兵士たちに、規律を守るほうが利益を得ることを知らしめるためでした。カルダイオイ兵たちは、キュロスの命じたとおりにしました。
キュロスは都城に逃げ込んでいたクロイソスを連れてくるように命じました。クロイソスはキュロスに対して恭順の意志を示し、臣下の礼をとりました。そして、キュロスのためになることを何か見つけたいと述べました。
キュロスは、兵士たちが多くの苦難に耐え、多くの危険を冒してきた後、バビュロンに次ぐ裕福な都城を占拠したのだから、兵士たちは報われて当然であると言いました。労苦の成果を得られなければ、兵士たちを長期に渡って服従させることはできないからです。
しかし、都城の略奪を兵士たちに許すつもりはないとも述べました。略奪によって都城は破壊され、略奪では最も悪い者たちが最も多くの物を得ることになるからです。
クロイソスは、キュロスからそのような言葉があったことをリュディア人たちに告げ、サルディスにある素晴らしい財宝のすべてをリュディア人たちが自発的に渡すことを約束しました。
キュロスは、クロイソスがアポロンをこのうえなく尊崇し、アポロンの意に従ってすべてを行ったと言われていたことを知っていたので、デルポイの神託がどのように成就されたのかを話して欲しいと頼みました。
クロイソスは、神託のとおりにしようと思っていたものの、初めからいきなりすべての点でアポロンのご意思に反した行動をとることになったことを告白しました。彼はアポロンを試したからです。
クロイソスは、自分が息子を得られるかどうかを問う神託使を派遣しましたが、答えは得られませんでした。そこで、多くの金銀の捧げ物や犠牲を献上し、再び同じことを問うと、息子が得られるという答えを得ましたが、息子の一人は唖のままであり、もう一人は優れた人物であったものの最盛期にこの世を去りました。
クロイソスは再び神託使を送り、自分の残りの人生を最も幸せに送るために何をすべきかを尋ねたところ、「自分を知れば、クロイソスよ、降伏に暮らせるだろう」という答えを得ました。それは実に容易く実行できることだと考え、現にしばらくは平穏な人生であったといいます。
クロイソスは、アッシリア王にキュロスへの攻撃を説得されたことで最大の危機に瀕したものの、自分にキュロスと戦う能力がないことを認識したことによって、神託どおり無事に帰ってくることができたと考えました。
しかし、再び指導者に担ぎ上げられ、贈り物と諂いによって傲慢にされたため、再び自分を見誤ることになり、現在の有様に至ったと考えました。
クロイソスは、今、キュロスに降伏し、自分自身を認識する者となりましたが、依然としてアポロンの神託が真実であるかどうかをキュロスに尋ねました。キュロスは、クロイソスに、妻や娘、友人や召使いたちを直ぐにでも返すが、戦争と戦闘をクロイソスから奪うつもりであると言いました。
これを聞いたクロイソスは、それこそが自分にとって最も幸せな人生であると言いました。キュロスは、クロイソスの優れた心情に感嘆し、自分の行く所へ彼を連れて行くことにしました。
アブラダタスの戦死と妻パンテイアの自害
翌日、キュロスは、アブラダタスが戦死したことを知り、妻パンテイアが彼を葬ろうとしている場所に向かいました。
キュロスは横たわるアブラダタスを見て嘆き悲しむも、アブラダタスを大いに称賛し、これからいろいろと名誉を受けることを伝えて、パンテイアを慰めました。
キュロスがその場を去ると、パンテイアは懐剣を抜いて自害しました。彼女に使えていた宦官たちがそれを知ると、その場で自分たちも懐剣を抜いて自害したのでした。
キュロスはパンテイアの行動に驚きましたが、悲しみながらも彼女を讃え、この夫婦にあらゆる栄誉を得られるように配慮したといいます。
バビュロンの陥落
キュロスは、多数の歩兵守備隊をサルディスに残し、クロイソスを連れてバビュロンに向かいました。その過程で、大プリュギアのプリュギア人たちとカッパドキア人たちを征服し、アラビア人たちを支配下に置きました。
バビュロンに到着すると、都城を全軍で包囲しました。キュロスは友人や同盟軍の主要指揮官たちを従えて都城を駆け巡り、一旦撤退して陣営の天幕に戻りました。
キュロスは主要指揮官たちを集め、作戦会議をしました。敵の都城は堅固で高い城壁を持つため、これを攻撃して奪取することは困難でした。そこで、敵が外に打って出ないのなら兵糧攻めによるべきであると、キュロスは主張しました。
クリュサンタスが、都城内の中央を深く広い川が流れていることを指摘しました。そのことを聞いたキュロスは、川で分断された城壁の両側に巨大な堀を掘り、掘り出した土を自分たちの側に積み上げました。そして、川の近くに塔を建てました。その他の場所にも、できるだけ多くの監視所を設置するために多くの塔を建てました。
バビュロンでは、すべての人が夜通し飲んで乱痴気騒ぎをする祭りがありましたので、その日の夜が更けると、キュロスは直ちに多数の兵を率い、堀を切り開いて川とつなぎました。すると、川の水は夜の間に堀に流れ込み、都城内を流れる川の底は人間が通行できるようになりました。
キュロスは軍隊を率いて川底を通り、城壁内に侵入しました。ゴブリュアスとガダタスおよび彼らの部下たちは王宮に向かいましたが、入口が閉まっていました。しかし、衛兵たちは酒を飲んでいたため、すかさずその衛兵たちを攻撃しました。
王宮内で外の騒ぎを耳にした者たちが入口を開いて外に走り出てきたため、ガダタスの部下たちが襲いかかり、王のところまで辿り着き、王を倒しました。
キュロスは騎兵中隊を外に出し、戸外で出会った敵は攻撃せよと命じました。しかし、屋内にいる者たちには、外に出て捕らえられると殺されるから家の中に留まっているように告知させました。
夜が明けると、都城内の保塁を守備していた敵兵たちは、都城が制圧され、王がすでに殺害されたのを見て、保塁を明け渡しました。
キュロスは、死者の埋葬を許す一方、すべてのバビュロニア兵に武器を渡すこと、もし屋内で武器を見つけた場合はその家の者すべてを殺害することを告知させました。
キュロスはまず、いつものように神々のために戦利品のうちもっとも優れた物と神域を選ばせました。次に、達成した勝利に貢献したとみなした者たちに個人の家と公共の建物を分け与えました。他の者と比べて得た物が少ないと思う者は、申し出て説明できるようにもしました。
バビュロニア人たちには、土地を耕し、貢税を納め、割り当てられた兵士たちに仕えよと布告しました。キュロスのもとに留まることを選ぶ兵士たちには、彼らに割り当てられたバビュロニア人たちに主人として話をするようにと告げました。
キュロス自身は、王に相応しい振る舞いをしたいと考え、夜が明けると適当な場所に立ち、自分と話したい者に会い、答えを与えて送り返すことにしました。すると、夥しい数の人々がキュロスのもとに押しかけました。
キュロスの友人たちが、キュロスと話すことを望んでやってきましたが、会うことができず、翌朝会うことにせざるを得ませんでした。
ところが、翌朝キュロスが同じ場所にやってくると、前日よりも遥かに多くの人々が彼に会いたいと願って彼を取り巻きました。友人たちがやってくる前にそうなってしまったので、友人たちおよびペルシア軍と同盟軍の指揮官たち以外は誰も立ち入りを許さないように命じました。
友人たちや指揮官たちが集まると、今回の騒動について話しました。
偉大な事業を完成することが自分の閑暇を持てなくし、友人と楽しむこともできなくするのなら、このような幸福に別れを告げる。
今、自分の知らない多くの者たちが、友人たちよりも早く望む物を得ようとしているが、自分に何かを求めるのなら、友人たちに仕えて後に紹介を頼むのが筋である。
戦争では司令官たる者は必要なものを見たり、時機を失せず行動したりするために背後にいてはいけないと理解していた。
戦争も終わった今、自分もある程度の安息を得てもよいと考えているものの、自分たちが配慮しなければならない者たちとの関係を良好にするのにどうすべきかが分からないので、助言して欲しい。
まず、メディアのアルタバゾスが発言しました。
自分はキュロスの友人になりたいと切望していたものの、キュロスが自分を必要としないうちは遠慮していた。
しかし、キュロスが、メディアでキュアクサレス王の許可を得て兵を集めようとしていたとき、協力を求められたので積極的に援助したことで、キュロスと親しくなれた。
その後は同盟軍も増えていき、戦いも行われたため、キュロスと親しくする時間がとれなくなった。これはやむを得ないことであったと思う。
今、大戦争に勝利し、すべてを征圧したので、最大の功績をあげた自分たちが、キュロスと最も長く一緒にいられるように取り決めて欲しい。
次に、ギリシア貴族のクリュサンタスが発言しました。
民衆たちができるだけ喜んで自分らと共に苦労し、危険を冒すのを望むようにするには、あらゆる方法で彼らの好意を獲得する必要があるので、キュロスがその姿を民衆に示すことは当然のことである。
ただ、今や他の方法で彼らの心を把握できるので、キュロスももう家庭を持つべきである。
キュロスが戸外で苦労に耐えているのを見ていながら、自分たちは屋内にいて楽をしていると思われては恥ずかしい気持ちにさせられる。
クリュサンタスの意見には、多くの者が賛同しました。
キュロスは、同盟軍になった各軍隊を自由意志で故郷へ送り返しましたが、その際、多くの物を与え、指揮官たちをも兵士たちをも満足させて送り返しました。キュロスのもとに住むことを望んだ者たちには土地と住居を与えました。
自分の直属の兵士たちにも、サルディスで手に入れた財貨を分け与えました。連隊長たちや自分の従者たちにも功績に応じて各人に選り抜きの物を与え、残りは分配しました。
各連隊長に分け前を与える際に、彼自身が彼らに分配したように、それを配下の者たちに分配するよう指示しました。