組織の専門化 − バーナードの組織論⑨

「分業」、「専門化」、「職能化」という似たような意味を持つ言葉があります。

「分業」というと、事業(業務)を分担するという意味で、「分業構造」や「国際分業」といった言葉もあるとおり、社会機構や大きな経済制度のイメージを伴います。

「職能化」というと、大規模組織の中で、有機的に一体化した事業活動の一機能を強調するときに用いられます。「機能別組織」という場合も職能化に相当すると思われます。

「専門化」というと、人間あるいは人間の集団に重点が置かれる印象があります。

人々が専門化されると、各人の仕事は職能化されます。仕事が職能化されると、同時に仕事が分割され、部門が分かれ、労働が分業されることにもなります。

生産技術が発達すると、「専門化」は作業方法の差異をも意味するようになりました。専門化の基礎のうちの「技能」と「経験」の効果が、方法や過程の差異に関わるためです。

この傾向によって、専門化の重要な基礎である「場所」と「時間」が認識されないようになりました。しかし、「場所」と「時間」は専門化や分業の基礎であることに変わりありません。

特に組織との関係において、場所と時間は重要です。時間と場所の双方によって補助組織を分けることが一般的だからです。

組織のあるところ「社会結合の専門化」があります。これは、協働において、人間同士の相互調節が反復的に行われることを意味します。

専門化の基礎

組織を専門化するに当たっては、基礎となる重要な要因がいくつかあります。

場所による専門化

組織の専門化の基礎は、まず、作業の「場所」あるいは「空間」です。「場所」は単に物理的な意味よりも、組織の活動を促進し、または制約するという意味で、地理的条件であり環境です。有効な場所で活動が行われるように専門化される必要があります。

協働体系あるいは単位組織は、物理的位置をもつ個人の努力の体系です。これは通常場所的な体系であり、実際上の問題が少なからず起こるのも場所においてです。

同種の作業をやっている2つの組織の有効性、あるいは能率を比較する場合、結果の違いを説明するのが、多くの場合、条件の違いです。同種の作業でも、行う場所が異なれば内容が異なります。

地理的専門化は、通常、機能や過程の専門化に先行する基本的なものです。もし多数の人々が同じタイプの作業をして複合組織に貢献するものとすれば、異なる場所にある組織単位において機能せざるを得ず、努力の調整は第一義的には地理的調整となります。

その場所での協働的努力を一層促進しようとする場合、取るべき方策の一つは、物理的要因を意識的に変更することです。様々な道具、機械、設備、施設などを作り、物理的環境を適したものにします。

時間による専門化

組織の専門化の2つめの基礎は、作業の行われる「時間」です。季節、昼、夜などは、作業専門化の基礎です。人間の耐久力の限界も「時間」に関わります。

協働における2人以上の人々の活動の調整は、努力の同時性(2人以上が一斉に力を合わせる)の原則、努力の連続性(2人以上が交代で努力を継続する)の原則のどちらかに基づいて行われます。

両者の原則に共通するのは、時間が優先的な要因となっていることです。前者は、各人が何を行うかは別として、同時に努力することが重要です。後者は、時間的に継続した努力の序列が重要です。

個人の行為に着目すると、いずれの場合も、時間的な序列(何をどのような順序で行うか)が重要な要因であり、活動は時間に関して専門化されていると言うことができます。協働行為の正しい順序を発見し、あるいは工夫することが重要です。

時間によって組織を専門化することは、時間に応じた交替勤務という分業も含みます。勤務時間割を守ろうとする能力あるいは性向は、人々の選考に当たって最も重要な要素です。時間を守ることが、組織が継続的に機能するという「信頼性」を与えます。

人間による専門化

組織の専門化の3つめの基礎は、作業を共にする「人間」です。組織は、調整の要求に進んで服従する意思を持ち、適切に伝達する能力を持つ、特殊な一団の人々に依存します。

人間関係によってつくられる組織自体の専門化であり、バーナードは「社会結合の専門化」と呼びます。組織における人々の恒常的な関係が特有なものになるという意味に理解されます。

「社会的結合の専門化」が有効に機能するためには、人々にとって協働への参加の誘因(インセンティブ)となる魅力的な社会的状況を作り出すことが必要です。その社会的状況は、協働体系における伝達を促進するものでなければなりません。

単位組織が安定して永続的に機能するということは、互いによく理解し合い、人間関係が調和しているということです。これは非公式組織の一側面でもあります。

対象物による専門化

組織の専門化の4つめの基礎は、「作業の対象物」です。作業目的や努力目標を掲げることが、専門化に当たるという意味です。

物的生産物が努力対象であるときは、使用される素材も専門化の要因になり得ます。

一般的には、目的があって手段が決まると考えます。つまり、まず特定の目的があり、それに応じて、手段として3つの要因(時間、場所、社会的結合)が専門化されると考えられます。

ある特定目的を達成するために、3つの要因の専門化の適当な組み合わせが実現できないのであれば、その目的は一般に拒否されるはずです。

完遂されるべき目的に重点が置かれ、それに伴う方法も当然のごとく差異が生まれる場合、「専門化」の代わりに「職能化」という言葉が使われることもあります。

方法または過程による専門化

組織の専門化の5つめの基礎は、作業の「方法」または「過程」です。同性質の結果をもたらすいくつかの方法が考えられるときに、特に強調されます。

この専門化は、技能や知識の要求によって特定の作業方法や過程が決まるような場合です。その部門に配属される人間が持つ技能、特定の作業方法や過程を反復継続することによって増大する技能、研究や経験によって増加する知識に依存します。

なお、目的が、専門化した過程の発見、発明、あるいは技能や知識や経験に依存することもあります。

また、目的が、人材の選択、反復的実行などに影響を与えることによって、特殊の過程や技能を発展させることもあります。

時間的、空間的、社会結合的な調整の精妙さと精密さが、特別の過程や方法に影響を与えることもあります。

専門化と組織

専門化の基礎となる各要因は、ある状態では、それぞれに独立しているとみなすことができますが、一般には相互に不可分な要素であり、相互依存的です。

協働の初期の段階では、専門化は、人々の多様性や物的環境の状況、組織の技術(組織化のための誘因や選考などの戦術)に依存しています。

この段階を超えると、人や物的環境や組織技術は、組織の中で様々な作用や反作用を繰り返し、変化を受け、組織の専門化を一層精緻化するようになります。

したがって、専門化の重要な具体的段階は、専門化した個人よりもむしろ「単位組織」です。「単位組織」とは、最も基本的で単純な構造の組織であり、同時に貢献する人々の数が平均10人以上にはならない大きさです。

各単位組織は、特定の目的や場所的特徴や時間的計画を持ち、個々の貢献者の選択を規定する特定の社会結合上の状況を包含しています。

以上のように、「組織」そのものが「専門化」と同義語であると言うこともできます。協働の目的は、専門化なしには成就されません。

組織の機能は、目的を成し遂げることができるように、個人の努力を協働状況全体の諸条件に相関させることです。

この相関を成し遂げる方法は、目的を分析し、諸部分ないし細部諸目的に分解することであり、それらを適当な順序で達成すれば最終目的達成が可能になるようにすることです。

また、全体状況を分析し、諸部分に分解することであり、それらは組織活動によって細部諸目的と特定的に調整されることになります。

複合組織における単位組織は一つの専門化です。複合組織を統合する要素は目的です。複合組織の一般目的は、組織の各単位に対する特定目的に分割されます。

単位組織の維持に効果があるのは、この細部目的です。複合体を構成する諸単位が存在し得るためには、この目的が各単位においてまず受け入れられなければなりません。

しかし、各単位が、複合体の一般目的を理解し、受容することは、望ましいことに違いありません。全体目的を理解することによって、諸単位の目的の達成に全体の運命がかかっていると身をもって感じるならば、その行動の強さは増大します。

ただし、バーナードによれば、主として重要なのは、目的の知的理解よりも、むしろ行動根拠に対する信念です。理解は、ただそれだけでは、むしろ麻痺させ分裂させる要素であるといいます。