バランス・スコアカードの構築 - 「バランス・スコアカード」とは何か?⑪

バランス・スコアカードの構築方法として、典型的な例が示されています。

まず、絶対的に不可欠な要素は、経営トップのコミットメントです。最初から、しかも深くコミットする必要があります。

また、構築を開始する時点で、何をどこまで構築するのかを明確な目標として定めておく必要があります。そして、その目標を達成するための実行責任者として、企画設計者を選任し、権限を与えます。

企画設計者のコーディネートのもと、各階層のマネジャーを中心に構築していきますが、実行計画まで整合性をもたせるためには、全員参加を原則としなければなりません。

経営トップのコミットメント

バランス・スコアカードの構築は、ビジョンや戦略を具体的な目標と業績評価指標に落とし込むことですから、経営トップのコミットメントがなければ成功できません。

これまでも、特定の部門長や副部門長が主導してバランス・スコアカードを構築した例はあります。主導者は戦略に深く関わる立場であったため、目標と業績評価指標を適切に表現しているものとして、社内でも受け入れられました。

しかし、最終的に企業のマネジメント・プロセスを変革したり、その一部分になることはできませんでした。経営トップが深くコミットしていなかったからです。スタッフ主導による業績評価システムの改善にとどまるしかありませんでした。

したがって、バランス・スコアカードを構築するには、その初めから経営トップの深いコミットメントがなければなりません。

バランス・スコアカードの構築プログラムの目標設定

バランス・スコアカードの構築の第一ステップは、経営トップからバランス・スコアカードの開発・導入についてコンセンサスと支援を得ることです。

前提として、バランス・スコアカードに落とし込む戦略を明確にし、コンセンサスを得ておかなければなりません。そして、構築プロジェクトの開始において、経営トップ・チームがその主要目的を明らかにし、同意していなければなりません。

明らかにすべき主要目的とは、次のようなことです。

  • 目標と業績評価指標を作成すること
  • プロジェクトの参加者の同意を得ること
  • バランス・スコアカードを実施するためのフレームワークとマネジメント・プロセスを明らかにすること

企業が複数の戦略的ビジネス・ユニットを有している場合は、経営トップ・チームにおいて、標準形あるいは雛形として、全社的なバランス・スコアカードを構築することもあります。この構築作業には、各戦略的ビジネス・ユニットのトップも参加します。

このような全社的バランス・スコアカードの構築プロセスは、戦略的ビジネス・ユニットのトップに全社的な視点をもたせるなどの能力開発の効果を発揮します。

企画設計者の選任

バランス・スコアカードの構築プロセスを適切に維持するためには、バランス・スコアカードを企画し、プロジェクトのリーダーを努める企画設計者を選任する必要があります。経営トップ・チームは常に構築プロセスにコミットしますが、実務的なリーダーが別途必要です。

企画設計者は、バランス・スコアカードの構築プロセスを指揮し、会議やインタビューの日程を監督し、プロジェクト・チームが十分な資料を確保し、背景を推測し、市場や競争に関する情報を入手できるようにして、構築プロセスを計画どおりに進行させなければなりません。

企画設計者には、戦略を具体的に測定可能な目標や業績評価指標に置き換える分析力が必要です。同時に、コンフリクトを解消してチームワークを維持できるだけの人間力も求められます。

企画設計者には、経営企画部門、品質管理部門、財務部門など本社スタッフ部門の上級管理者(副部門長クラス)が選ばれることが多いようです。

バランス・スコアカード構築の対象組織

バランス・スコアカードを本格的に構築する中心組織は、戦略的ビジネス・ユニットです。

戦略的ビジネス・ユニットとは、独立した戦略をもつことができる組織の最小単位であり、単独でイノベーション、オペレーション、マーケティング、販売、アフターサービスといった全バリュー・チェーンを有している組織単位です。

戦略的ビジネス・ユニットは、通常、独自の製品と顧客、市場と物流チャネル、生産設備をもっているため、4つの視点における目標と業績評価指標を独立して設定できるはずです。

戦略的ビジネス・ユニット内部の特定の部門については、通常、独立してバランス・スコアカードを構築するのではなく、戦略的ビジネス・ユニット全体のバランス・スコアカードの一部を担うことになります。

ただし、本社スタッフ部門が、アウトソーシング可能な業務であり、外部の独立企業と競合し得るような場合は、独自の戦略をもち、企業内のライン部門を顧客とみなして、独自のバランス・スコアカードを構築することもあります。

バランス・スコアカードの構築

企画設計者は、戦略的ビジネス・ユニットのバラアンス・スコアカードが全社的なビジョンや戦略や方針から逸脱したり、戦略的ビジネス・ユニット間での齟齬が生じないようにしなければなりません。

具体的には、戦略的ビジネス・ユニットの財務的目標、優先的な全社的テーマ、他の戦略的ビジネス・ユニットとの連携などについて、あらかじめ、本社の経営トップや主要な戦略的ビジネス・ユニットのトップからヒアリングをしておく必要があります。

そのために、企画設計者は、まず、本社や戦略的ビジネス・ユニットのビジョン、ミッション、戦略などに関する内部資料、バランス・スコアカードに関する各種資料を準備し、各ビジネス・ユニットの上級マネジャーに提供しておきます。

さらに、市場規模や成長率、競合他社とその製品、顧客嗜好、技術進歩などに関する傾向、戦略的ビジネス・ユニットの業界と競争環境に関する情報を入手しておきます。

それから一人ずつインタビューを行い、全社的な戦略目標と4つの視点に関わるバランス・スコアカードの業績評価指標の設定に必要なインプット情報を入手します。通常は、企画設計者を含めた複数名でインタビューします。

企画設計者を含む設計チームは、インタビューの結果に基づいて議論し、目標と業績評価指標の叩き台を作成します。また、バランス・スコアカードの導入によって発生するマネジメント・プロセスの変化に対して、生じる可能性のある組織内の抵抗について議論します。

そして、経営トップによる会合を設定し、議論し、コンセンサスを得ます。必要に応じて、4つの視点ごとにサブ・グループを設けて議論を深めます。サブ・グループのメンバーには、下位の階層のマネジャーも含めます。

設定される業績評価指標は、成果に関わるものとパフォーマンス・ドライバーを含み、因果関係によってつながっていなければなりません。また、各業績評価指標について、所属部署を明らかにしなければなりません。

サブ・グループの成果は、再び経営トップによる会合に戻され、議論されます。併せて、全社的に周知させるための概要資料も作成します。

実行計画の作成

再びサブ・グループにおいて、バランス・スコアカードの実行計画を立案します。この場合の検討メンバーには、必要に応じて、更に下位の階層から参加します。

ここでは、業績評価指標が、実際のデータベースや情報システムとどのようにリンクし得るかなども含め、現場の業務に到るまでリンクする仕組みをつくります。新たな情報システムの開発・導入が必要であれば、その内容も明らかにします。

そして、経営トップの会合を再び開き、戦略的ビジネス・ユニットの戦略、バランス・スコアカード、新たな情報システムの開発・導入等について最終的なコンセンサスを得ます。

バランス・スコアカードは、企業のマネジメントシステムに統合されることをもって実行計画が完成したことになります。