マネジメントと経営管理

ドラッカーが使う「management(マネジメント)」という言葉は、日本語訳でも、通常そのまま「マネジメント」と訳されています。

一般的には「経営管理」と訳されることが多いと思いますが、ドラッカーの理論では相応しい訳ではありませんので、そのまま「マネジメント」と訳していると思います。ドラッカーも『マネジメント』の中で、次のように言っています。

マネジメントという言葉は難しい言葉である。完全なアメリカ英語であって、イギリス英語を含めいかなる外国語にも翻訳できない。それは機能であって、かつ人である。社会的な地位であって、ひとつの体系、研究分野である。

マネジメントは組織に特有の機関

ドラッカーは、「マネジメントは組織に特有の機関」であると言っています。「組織が機能するには、マネジメントが成果を上げること」が必要であり、「組織がなければマネジメントもない」、「マネジメントがなければ組織もない」、すなわち組織とマネジメントは一体不可分の関係です。

組織というのはヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源の集合体ですが、その頭脳に当たるのが「マネジメント」と言えでしょう。

マネジメントは「機関」です。「経営管理」というと、「PDCAサイクル」といった「活動」を指すニュアンスが強くなります。「機関」と言うと、「仕組み」や「機能」を指したり、「人(の集まり)」を指したりすることもできます。

『現代の経営』では、「マネジメント」を「機能」の意味で使い、マネジメントを行う人のことは「経営管理者」と訳されているようです。

『マネジメント』では、「機能」と「人」の両方の意味で使われるようになっています。ただし、これは日本語訳の場合であり、原書を読むと、やはり「management」は機能や機関の意味で使われているようです。

人を指す場合、部下をもつなら「manager」、専門職なら「specialist」、知識労働者でありながら肉体を使うことの多い専門技能職(外科医、放射線技師、看護師など)を「technologist」と呼んでいます。いずれも、それぞれに特有の仕事をしながら、「management」の機能も行っていると理解されます。

さらに、他の書籍では、「management」を行う人について、「executive」、「change leader」などの言葉も使っています。本来の「management」は広い意味をもちますので、そのうちの特定の機能に着目して、その機能を果たす人のことをそのように呼んでいるように思います。

はっきり言えることは、

管理職=マネジメント

ではないということです。部下を持つ管理職は、当然にマネジメントでなければなりませんが、上記に挙げたように、スペシャリストやテクノロジストであってもマネジメントの役割を担うべき者です。総称すれば「知識労働者」ということになると思います。

要するに、知識労働者が組織の中で働く場合は、自ずとマネジメントの機能を果たすことが求められると考えているわけです。ただし、ドラッカーの究極の考えは、知識労働者であるかどうかにかかわらず、

誰もがマネジメント

であり、そうであるべきだということです。

「リード」するマネジメント

人事管理に対する従来のアプローチは、次の3つに分類することができました。

  1. 福祉的アプローチ:援助を必要とする者に福利厚生的な施策を講じること
  2. 管理的アプローチ:雇用に関連して起こる雑事の体系的な処理
  3. 処理的アプローチ:潜在的な脅威を見出し、問題の予防と解決を図ること

ドラッカーは、「人事管理を超えなければならない」と言います。人を問題や費用や脅威と見なすのではなく、資源として、機会として見ることが必要です。

「管理」には、「人を支配すること(命令、監視など)」と「自らと自らの仕事を方向づけること」の2つの意味がありますが、人を資源や機会として見るドラッカーのマネジメントでは、後者が中心になります。

第三者である管理監督者が、常時部下の仕事を指揮命令し、監視する方法では駄目だということです。

自ら成果をあげるマネジメント

ドラッカーは、他の人間をマネジメントできるなどということは証明されていないものの、自らをマネジメントすることは常に可能であると断言します。部下や同僚をマネジメントするとすれば、それは模範となることによって行わなければならないのです。

ドラッカーにとって「マネジメント」とは、成果をあげるために自らをマネジメントすることです。とはいえ、成果をあげるために特別の才能や適性など生まれつき必要なものはありません。つまり、成果をあげることは修得できるということです。

目標設定、訓練、計画、フィードバックを通じた自己マネジメント( 自己目標管理)によって、自分で自分を方向づけ、導いていくことが必要です。だから、誰もがマネジメントであることが理想なのです。

組織によるサポート

ただ、組織で働く以上は、組織の目的を無視することはできません。組織の目的や全体目標を理解しながら「自己目標管理」によって成果をあげられるよう、組織やマネジャーによるサポートが必要です。

事業全体または部門全体の目標達成に貢献できる自己目標を立てられるよう調整する必要がありますし、足りない知識やスキルは教育訓練によって学んでもらう必要もあります。何より、その人が強みを最大限に発揮し、弱みをなるべくカバーできるよう、適材適所の配置をする必要があります。

すなわち、「リード」(導き)です。自分で自分をリードするとともに、組織も全体目標に向けて各人をリードしつつサポートする必要があるのです。

マネジャーは、権力を盾に命令によって人を操るのではなく、言葉や数字で人を動機づけ、指導する能力が求められます。

各人も、自らの考えを他の人に理解してもらう能力とともに、他の人が求めていることを知る能力が必要です。