われわれの計画は何か

ドラッカーが提言する5つの重要な質問は、自己評価プロセスを通じて、最後に計画としてまとめられます。

計画は、目標の設定とその活動の具体化としての行動計画に至り、誰が、いつまでに何をするのかを決定して初めて、実行に移すことができます。

計画は未来をつくるためのものですから、確定したものでも完全なものでもありません。現実に応じて調整できるよう柔軟でなければなりません。

実行の過程でのモニタリング、評価、調整を計画に盛り込んでおきます。いつ、どこで、誰がモニタリングし、評価し、調整するのかの責任も明らかにしておかなければなりません。

目標や行動計画は、通常短期的ですから、非営利組織のように多様な支援顧客をもつ場合、すべての人たちの利害を調整することは困難です。そのため、ドラッカーは、基本的で長期的な意味合いをもつ少数の「ゴール」を設定するよう提案しています。長期的な観点ですべての支援顧客の満足を盛り込み、個々の目標を統合して方向づけるものです。

計画の策定に当たり、ドラッカーは、次のとおり、5つの重要な要素があることを指摘しています。

  1. 廃棄
  2. 集中
  3. イノベーション
  4. リスク負担
  5. 分析

自己評価プロセスは計画にまとまる

5つの最も重要な質問により構成される自己評価プロセスは、最後の質問によって、組織の目的や未来の方向を簡潔に要約する計画にまとめられます。

計画は、未来をつくるために今日なすべきことを定めるものです。未来は予期することができないので、いかに良き意図をもっていたとしても、それ自体が実現を約束するものではありません。未来を決定できる事実というものはなく、未来を予言できる科学も存在しません。

未来のための計画は、判断でありリーダーシップです。現在利用できる知識や経験を基に分析を行い、最後は、直感と勇気で意思決定しなければなりません。それはテクニックではなく、責任の問題です。実行へのコミットメントであり、モニタリングと軌道修正の責任も含みます。

計画は使命に始まり、ビジョン、ゴール、目標、行動計画、予算、評価(モニタリング)を含みます。使命は維持される場合も、変更しなければならない場合もあります。

行動計画では、誰がいつまでに何を行うかを決定します。実行に関わる人々は、行動計画の設定の段階に参画し、意見を述べることができなければなりません。自ら設定に関わるからこそ、計画を理解し、自らのものとすることができます。策定に時間がかかるように見えますが、決定したら実行はスムーズです。

予算は、計画を実行するために必要な資源の配分を約束します。

包括的で少数のゴール

成果は組織の外部において達成されるものですから、成果を組織の具体的な活動として設定し、計画としてつくり上げなければ実行できません。

計画では、通常、目標を設定し、個々の活動の担当と期限を割り振りますが、ドラッカーは、それに加えて、ゴールを設定すべきとしています。

ゴールとは、目標の特別なもので、組織の基本的で長期的な方向を定めます。特に支援顧客が多く存在する非営利組織において重要です。利益によって報いることができない複数の立場の人たちの短期的な利害を乗り越え、みなの関心を統合し、協力を得るために、長期的な目標が役に立ちます。

短期的な個々の目標にすべての支援顧客の満足を反映させることは困難ですが、目標の全体として、長期間の中で、すべての支援顧客の満足を盛り込んでいこうとするものです。ゴールが個々の目標を統合し、方向づけます。

目標は個々の活動に直結しますから、自ずと具体的で数も多くなりがちですが、ゴールは包括的で少数に制限されます。ドラッカーは5つ以下を提案しており、5つを超えたら、ないのと同じであると言っています。統合と方向づけの役割に支障が出ます。

ゴールの条件

ゴールは成果から導き出されます。成果は組織の外において達成されるものですが、それを組織内部の長期的な活動の方向性として翻訳します。

組織が望む未来、行くべき場所の輪郭を描くもので、機会に向け、強みを生かすものでなければなりません。成果のために資源を集中する分野が明白であることも必要です。

ドラッカーは、ビジョン・ステートメントを推奨しています。組織のゴールが達成され、使命が果たされたときの未来ビジョンを表現します。理想的で詩的に表現できれば、強く人々を動機づけると言います。

マネジメントは、常に組織内部の基本的な長期的ゴールを意識して、目標はゴールに向かっているか、脱線させようとしていないか、狙いを見失わせていないかと問うことができます。

ゴールの例

『The Five MOST IMPORTANT Questions』(Jossey-Bass A Wiley Imprint)によると、ある美術館では、次のような使命とビジョンを設定しました。

使命:
芸術と人々との出会いをつくる
ビジョン:
世界の多様な芸術的財産が尊ばれ、地域に住む人々が自らの心と精神を育てるための芸術を見出す都市

これに対し、次の5つのゴールを設定しました。

  1. コレクションを保存し、非凡な作品を共同で探し、獲得することを奨励すること
  2. 人々が、民衆的で学術的な展示会、市民社会教育、出版を通じて、芸術を発見し、楽しみ、理解できるようにすること
  3. 美術館の観客を大きく広げ、新たなメンバーと伝統的なメンバーへの影響力を著しく強めること
  4. 最高水準の設備、科学技術、運営を維持すること
  5. 長期的な財務安全性を高めること

ゴールは組織内部の活動として表現され、長期的な方向性をもったものであることが理解できます。

測定可能な達成水準としての目標

目標は、組織をゴールに向けて動かす短期的な達成水準です。行動計画(アクション・ステップ)を直接導き出すものになります。

責任の分担

ドラッカーは、ガバナンス(統治)とマネジメント(管理、運営)を厳格に区分します。

ガバナンスは、組織の使命や成果、長期的方向性、資源の配分(全体予算)などに関わる意思決定です。組織全体の目的と戦略の意思決定に関わります。実行はマネジメントに委ねますが、進捗と達成の評価はガバナンスの範疇です。ガバナンスを担うのは、会社であれば取締役会、非営利組織であれば理事会です。

マネジメントは、目標、行動計画とその予算など、実行に関わる意思決定を行い、実行に責任を負います。理事会は、目標や計画のレベルに口を出してはいけません。実行の柔軟性は、マネジメントの活力を高めるために必要です。

計画の要素

ドラッカーは、効果的な計画のための重要な要素を5つあげています。

廃棄

計画の策定において最初に行うべき意思決定は、機能していないもの、機能しなかったものを廃棄することです。

あらゆるプログラム、システム、顧客層へのサービスについて、「もし今日これを行っていなかったら、これからこれを行うか」と問います。答えが「No」なら、「どのようにして速やかに撤退できるか」を問います。

集中

真に機能するものを強め、成功を確実なものにするため、資源を集中させます。最上のルールは、成功に努力を集中することです。

集中は、成功するために致命的に重要ですが、高いリスクを伴うことも理解しておかなければなりません。間違ったものへの集中は致命傷になりかねません。

イノベーション

機会、新たな状況、顕在化した問題など、変化を見落とさないようにし、それらは自分たちに適しているかどうかを検討します。

対応は注意深く行う必要があります。まず問うべきは「どのようにするか」ではなく、「それは何を求めているか」です。例えば、顧客が価値ありとするものは何か、何が新しいか、どのように違いや特長が出せるか、力を発揮できるか、成果を出せるかを考え抜きます。

リスク負担

計画は、未来のために今日なすべきことを決めることですから、常にリスクを負担すべき意思決定が伴います。

短期と長期のバランスが重要です。保守的になりすぎると機会を失いますが、多すぎる内容を性急に行おうとすると時間が足りません。

リスクを負担する意思決定に、決まった公式はありません。不確実な中で、企業家的な意思決定を行うしかありません。

分析

計画の段階では、廃棄すべきか、集中すべきか、新たなことを始めるべきか、特定のリスクを追うべきかが分からず、まだ確信できません。

だからこそ、分析が必要です。得意ではないけれども重要な業績分野、起こりつつある課題、形を取り始めている機会などについて体系的な分析を行います。

計画の調整

完璧な計画はありませんから、実行の過程でモニタリングを継続し、目標の達成に向けた必要な調整を行わなければなりません。

状況が変化したり、成果が十分でないとき、予期せぬ成功が起こったとき、顧客が予想と違う行動をとるときなどは、計画を調整すべきときです。

更なる質問

使命を変更すべきか

前の4つの質問から学んだこと、勧められることをあげます。特に、最も重要な教訓とそれが示唆する行動を要約します。責任を負うべき領域だけでなく、未来の方向と活動のための計画の助けになる情報について広く検討します。

次に、努力の焦点をどこに合わせるべきかを考えます。グループ(部門)が焦点を合わせるべきと信じる領域とその理由をあげ、それぞれがどのように使命に適合するかを要約します。

それらを基に、これまでと違うことを行うべきかどうかを判断します。加えるべきプログラムや顧客ニーズがあるか、廃棄すべきものはあるかを検討し、自ら効果的かつ十分に対応できないなら外部委託の可能性も検討します。また、それらの理由についても明らかにします。

成果を達成するための計画は何か

期待される成果をあげることを可能にするゴールを検討します。組織にとって基本的で長期的な方向性を定める3~5つのゴールの組み合わせです。非営利組織であれば、生活を変え、使命をさらに進める助けになるゴールです。

つぎに、ゴール達成のための測定可能な目標、さらに目標達成を可能にする測定可能な行動計画(アクション・ステップ)について検討します。

さらに、ゴール、目標、行動計画を達成するために要求される資源の予算、達成の目標期日、それぞれに責任を負う者、計画を支援するための人員配置、求められる成果の測定・評価方法を検討します。

グループの成果に貢献するための各人の成果は何か

適切な委員会やスタッフチームによって承認が必要なものも含め、各人が決定権をもつ活動項目のリストをつくり、承認と実行の目標期日を設定します。

また、必要とするスタッフの支援を明らかにします。