組織の「使命」とは、組織の目的であり存在理由です。組織にとっては最上位に位置する理念であり、アイデンティティそのものでもあります。
多くの人が関わる組織では、使命が共通の理解や方向性の拠り所となります。社会の変化が早い時代にあっては、使命の明確化が一層重要です。変化に対応するために、組織は拡張し、分散し、多様性を増していきますが、その中にあって一体性を維持するためには、長期的な視点で定められた使命が不可欠だからです。
変わらざる拠り所をもっているからこそ、何を変えるべきかを知り、迅速かつ柔軟に変化に対応していくことができます。
また、使命は組織の規律であり、なすべきことを教えると同時に、なすべきでないことの拠り所ともなります。有限の資源を機会と強みがマッチしたところに集中させることが、成果をあげるためには不可欠です。
使命を明らかにするためには、長期の視点が必要です。組織の外で起こっている変化を機会ととらえ、影響を予測し、そこから戻って「今日何をするか」を問います。重要なことは使命の表現の美しさではなく、成果であることを忘れてはいけません。
使命とは何か
「使命」とは「mission」(ミッション)の訳ですが、最近ではそのまま「ミッション」と呼ばれることも多くなりました。
組織にとっては最も上位に位置する理念であり、組織のあらゆる活動を規律する基準になるべきものです。すなわち、組織の目的であり存在理由を意味します。
似たような言葉に「Vision」(ビジョン)があります。ビジョンという場合、組織が使命を遂行することによって実現したい社会や顧客の姿、社会や顧客と組織との関係性の姿をイメージとして表現するものです。
使命とビジョンを別々に設定している場合もあれば、ビジョンの形で表現したものを使命と呼んでいる場合もあります。
いずれにしても、組織には使命やビジョンが必要です。それらが組織の共通の理解、一致した方向性と努力をもたらすための拠り所となるからです。
最近は社会の変化も激しいため、使命やビジョンのような長期的なものは意味がないとする意見もあるようですが、決してそんなことはありません。変化に適応できる組織は、何を変えるべきでないかを知っている組織です。指導原理となる確固とした拠り所を持つからこそ、迅速に変化に対応できます。拠り所があるから、他のことは容易に変えていくことができるのです。
使命は、組織が拡張、分散し、グローバル化し、多様性を獲得しながら、一体性を保持する接着剤の役割を果たします。使命が明確でない中で組織が多様化すれば、それは放逸であり、分解です。一つの組織と言い得るアイデンティティはありません。
組織の中核にあるべき使命は、なすべきことだけでなく、なすべきでないことの拠り所にもなります。それが組織の規律であり、ぶれない姿勢です。
使命の条件
使命は、組織行動の理由を説明するものでなければなりません。手段や方法の説明ではありません。手段や方法は変わり得るものであり、その時々に最適なものを選択すべきです。しかし、なぜそうすべきなのかは共通の基準である使命に基づく必要があります。
使命は、短く、はっきりと焦点を絞ったものであることが必要です。組織の誰もが、「私がやっていることはその使命に貢献する」と言えるものでなければなりません。
一方で、広く、永続的なものであることも必要です。現在だけでなく、未来に向かっても、正しいことをするように方向づけることができるものであることが必要です。
人のやる気を鼓舞するものであることも大切です。組織に関わるもの全員が、その使命によって記憶されたいと思えるようなものです。
使命は、組織にとっての理想であり、望ましい姿ではありますが、それが現実に社会のニーズとして存在するものであり、組織にとって相応しいものでなければ実現できません。つまり、機会と能力と責任が厳格に調和していることが重要になります。
使命とは組織の外部における未来の姿
使命とは、組織の外部に存在する社会あるいは顧客のニーズに対応するものですから、使命を考えるには、外部環境から始めることが必要になります。
外部環境は常に変化します。社会環境は変化し、人口動態は変化し、顧客のニーズも変化します。したがって、組織の使命は未来を見据えたものでなければなりません。
未来を確実に予測することはできません。しかし、すでに起こった変化をとらえることはできます。達成された事実、すでに起こったことを探し出し、その影響が及ぶ前にそれを生かすことはできます。すでに起こった変化が、組織にとっての課題と機会を提供するものであると受け止めることが必要です。
組織に求められるリーダーシップは、未来に先んじて未来を形づくることです。すでに起こった事実が影響を及ぼし、自らの組織の活動を制約する前に、その事実を機会とし、強みや能力を生かすことによって、自ら社会のリーダーとなるべく価値を生み出すことができないかを考え抜かなければなりません。
潮流とともに上がることだけを考えていると、潮流とともに落ちることになります。最先端の分野、変化する状況、競合、投資環境を調べ、埋められるべきギャップ、自らの組織能力によって埋めることができるギャップを探します。
変化に適応するためには、既存の計画を変更し、優先順位を変えなければならないかもしれません。全体が不適当になることさえあります。変化に対し、
- 有限の資源で、どこを掘り下げ、特長を出すことができるか
- 新しい成果の基準をどこに置くか
- 何が組織のメンバーのやる気や責任を鼓舞するか
を考え抜きます。
お金に使命を従属させない
使命は、組織にとって中核の価値観であり、基本原則に当たります。組織のアイデンティティそのものになりますから、短期的な利害に負けて使命を蔑ろにしてはいけません。使命は最初に来るべきものであり、組織の最上位に位置すべきものです。
基本原則を汚すことによって失うものは決して小さくありません。組織の外部と内部の者の信頼を失い、組織にとっての致命傷にもなりかねません。
使命を再考するとき
5つの質問は、検討の順番でもありますが、ときに行きつ戻りつ検討すべきものでもあります。中でも、第一の質問である「われわれの使命は何か」は、自己評価プロセスを通して目の前に把持し続けるべき質問です。
課題と機会を分析し、顧客、顧客の価値、成果をすべて考慮して、使命を再考すべきときが来ます。使命でさえ、機会にもはや適合しなくなるときが来ます。
組織にとって重大な意思決定ですから、徹底して考え抜き、議論しなければなりません。
その結果、もはや社会にとって価値を提供できなくなった使命、文字どおり「使命を終えた」使命であると判断されるのでれば、潔く放棄しなければなりません。使命とともに死すべき組織になるよりは、新たな使命を掲げ、引き続き社会の人々のコミュニティの場としても、自己実現の場としても機能を果たしていくことが望ましいと言えます。
長期の視点で始め、そこから戻って「今日何をするか」を問います。重要な試金石は使命の表現の美しさではなく、成果であることを忘れてはいけません。
更なる質問
使命に関する質問は、更に次のような質問によって深めることができます。
現在の使命は何か
現在、何を組織の存在理由と考えており、どのような分野で何を達成しようとしているかを再確認します。組織が現在行っている活動の理由であり、組織自身が考え、認識している使命です。
間違っているかもしれませんし、もはや変化した社会のニーズにそぐわなくなっているかもしれませんが、現状認識として明らかにしておく必要があります。
どのような挑戦(課題)に直面しているか
現在、社会の変化が起こっている場合、組織としては何らかの課題を抱え、挑戦を受けているかもしれません。
例えば、人口動態の変化、立法や規制の変更、新たな技術や競合の出現が起こっているかもしれません。
機会は何か
組織にとって機会となるべき変化が生じていないかを問います。
新たな協力関係や共同関係、最先端の動きや取組、社会的・文化的な傾向の変化などが考えられます。
致命的に重要な問題は何か
組織の存続に関わるような問題が生じていないかを問います。
人手不足、地域に密着した問題、市場占有率の大幅な低下、コストの大幅な上昇、流通チャネルの変化などが考えられます。
使命を見直すべきか
他のあらゆる質問への答えを考慮して、使命を見直すべきかを問うことが必要になります。「最終的に何によって記憶されたいか」という問いでもあります。
使命を見直すべきだと考えるなら、その理由を明確にし、議論を尽くすことが必要になります。新たな使命によってもたらされるベネフィットは何か、なぜそう言えるのかを明らかにします。
逆に、使命を見直すことによって、新たな問題に直面するかもしれません。誰との間でその問題に直面しそうか、その理由は何かをあらかじめ明らかにします。それは組織にとってのリスクになりますので、もたらされるベネフィットと比較し、なおもベネフィットがリスクによる悪影響を上回ることが求められます。
リスクを回避し、あるいは小さくするために、さらには、ベネフィットを大きくするために、何ができ、どのようなステップが必要を検討する必要があります。