顧客は何を価値あるものとするか

顧客にとっての価値が組織活動の内容を具体的に規定します。

その場合に、そもそも顧客にとっての価値とはどのようなものを指すのかを理解しておくことが重要です。

ドラッカーは、顧客にとっての価値を3つの段階で示しています。きわめて重要で、示唆に富んでいます。

ニーズ(needs):
肉体的・精神的幸福
ウォンツ(wants):
製品やサービスが、いつ、どこで、どのように提供されるか
希望(aspiration):
望ましい長期的成果

ニーズは顧客の心の中で生じるものであり、目的に当たります。

ウォンツはニーズを満たすための手段であり、組織が提供する製品やサービスがこれに当たります。ニーズに適合しなければ役に立ちません。

希望はニーズの延長であり、組織の継続的・長期的な活動の拠り所です。顧客の現在の課題や問題に対応するだけでなく、希望に貢献できるような長期的なサポートをしていくことも視野に入れなければなりません。

これらは、顧客の中にある欲求が起点になりますから、組織が勝手に想像しても正しい答えは出てきません。とにかく顧客のところに行き、顧客に聞くということを徹底しなければなりません。聞いた結果は、理解するだけでなく、現実として、事実として受け止め、あらゆる組織活動の根拠としなければなりません。

顧客にとっての価値

対象とすべき顧客が決まれば、次に、顧客にとっての価値を特定しなければなりません。顧客が価値あるものと認めるものを提供することが組織の役割だからです。

ドラッカーは、顧客にとっての価値を3つの段階で説明しています。

ニーズ

「ニーズ」(needs)とは、顧客が自身の中で得たい、感じたいと思っているものです。ドラッカーは、「肉体的・精神的幸福」であると言っています。

ウォンツ

「ウォンツ」(wants)とは、顧客がニーズを満たすために利用したい、手に入れたいと考えるものです。組織が提供する製品やサービスが、これに当たります。

ドラッカーは、更に加えて、その製品やサービスの提供方法、つまり、「どこで、いつ、どのように提供されるか」も含まれるとしています。

ドラッカーがあげているニーズとウォンツの区別の仕方は重要です。両者は通常、漠然と「ニーズ」という言い方で説明されていることが多いからです。

両者を区別している場合でも、ニーズは「必要性」、ウォンツは「欲しいという気持ち」という理解で、「ニーズはあるけれどもウォンツまで行っていないから、ニーズをウォンツに変えることが大事だ」という説明をしている場合があります。顧客の欲求の程度の違いという理解でしょうか。

この説明自体が間違っているということではなく、マーケティングにおいて意味ある区別であると言うことはできると思います。

しかし、ドラッカーは、ニーズとウォンツはまったく違うものを指していると言っていますので、よく理解しておくことが大切です。

ウォンツは組織が提供する製品やサービスおよびその提供方法を指しており、ニーズは製品やサービースの提供を受けた結果得られる顧客の幸福感を指しています。ニーズは顧客の心の中で生じる幸福であり、目的です。ウォンツは、目的を果たすために外部から手に入れる手段です。

組織は、自分たちの製品やサービスありきで考えがちですが、それが顧客のニーズを満たすものでなければ、顧客は欲しいと思わず、ウォンツとなり得ません。顧客にとって製品やサービスとしての価値がないということです。

スタートは顧客のニーズです。顧客は具体的にどのような幸福感を望んでいるのかをまず知らなければなりません。

次に、そのニーズを満たすために、自分たちに何ができるのかを考えます。その内容が、製品やサービスとして具体化されます。

希望

3つ目にあげているのは「希望」(aspiration)です。「望ましい長期的成果」を意味します。ニーズの延長と言うこともできますが、顧客は長期的に自分がどうなりたいと望んでいるのか、顧客自身の理想的な姿を意味していると言えましょう。

組織としての継続的、長期的な活動の根拠にもなります。顧客が現在抱えている課題や問題への対処として製品やサービスを提供するだけでなく、顧客の幸福を長期的にサポートするために何ができるかを考えるための拠り所を与えます。

とにかく顧客に聞く

顧客のニーズやウォンツ、希望は非常に複雑なので、ドラッカーは、顧客自身によってしか答えることができないと言います。

顧客が感じるものであり、顧客の心の中で起こることを理解する必要がありますから、顧客に聞かなければ分からないのは当然のことですが、多くの組織は「顧客のニーズやウォンツ、希望である」と自分たちが考えているものにしたがって行動しています。自分たちの勝手な思い込みで行動しているのです。

その結果、自分たちの予想どおりに顧客が動かないと、「顧客は不合理である。自分たちの製品やサービスの良さを理解しようとしない。」などと言い始めます。

ドラッカーは「不合理な顧客はいない」と断言します。「顧客はほぼ例外なく、顧客自身の現実と状況において合理的に行動する」と言います。

経済学などが、数理モデルでは説明できない人の行動を「不合理」などと表現する場合がありますが、数理モデルで説明できるような行動をするのは「機械」であり「プログラム」です。

人には、理性や知性のほかに意思や感情があり、それらのトータルな判断で行動している存在です。人によってそれらの使い方は違うので、判断も変わります。

そのような人が機械のように行動しないから「不合理」であるというのは、それこそ「不合理」な意見です。

ですから、顧客の答えを勝手に想像するのではなく、顧客のところに行き、体系的に質問することで答えを得ることが大切です。顧客から何を学ぶ必要があるかをあらじめ考え抜いたうえで、顧客の関心、顧客が長期的に成果とみなすものを理解しようとします。理解するだけでなく、顧客が価値ありとするものを客観的な事実として受け入れなければなりません。

ドラッカーは、特に非営利組織が自分たちの立場でこの質問に答えようとすると言います。自分たちは正しいことをやっていると確信し、動機に専心しているからです。その結果、組織自体を最終目的とみなしがちになり、「それは顧客に価値を届けるか」と問う代わりに、「それは我々のルールに合っているか」と問いやすいと言います。

コトラーも、多くの組織は顧客に届けたい価値を明確にしていると言いますが、顧客の知見に基づく価値を理解しておらず、自分たちの解釈に従って仮定しているだけであると言います。

その意味で、組織自身が顧客の価値だと信じていることを仮説として明確にしておくことは意味があるでしょう。それを、顧客が実際に話していることと比較すれば、違いが分かり、成果を評価する判断材料にできるからです。

顧客の声は、組織にとって、議論と意思決定の一部であると位置づけることが大切です。自己評価プロセスの間だけでなく、常にそうであるべきです。

支援顧客の価値

特に社会セクタの組織は、それぞれに拒否権をもつ多数の支援顧客をもちます。誰もが組織に必要な存在です。

それぞれの支援顧客は立場が異なるため、組織を違ったように見ています。組織の焦点は第一の顧客であり、第一の顧客への価値提供との関わりにおいて、支援顧客の価値をとらえる必要がありますが、それでも、それぞれの支援顧客が自分に必要であると思う価値は異なってきます。

すべての支援顧客の完全な満足は困難であるにしても、それぞれが、少なくとも組織の代表者を首にしたり、ストライキしたり、妨害したりすることがないようなレベルで満足できるようにしなければなりません。

ですから、それぞれの支援顧客が価値あるとするものを聞き、学び、議論し、組織の計画に統合しなければなりません。

更なる質問

顧客の価値に関する質問は、更に次のような質問によって深めることができます。

われわれは、顧客が何を価値あるものとしていると信じているか

まずは、自分たちが顧客の価値だと信じていることを明らかにします。それぞれの顧客層の立場で、その価値を端的に表現します。

顧客の特定のニーズを満たし、満足を提供し、利益を提供している価値であって、他の組織から受けていないもの、つまり、われわれの組織が独自に提供しているものを特定します。

そのような価値があるとすれば、現在、それをどれほどうまく提供しているかを考えます。

顧客から何を学ぶ必要があるか

まず、第一の顧客のニーズ、ウォンツ、希望を学ばなければなりません。さらに、それらを実現するために、どのような能力が必要かを学ぶ必要もあります。

顧客は、組織の何に最も感謝しているか、逆に、何を変えたいと思っているかを知ることも大切です。

次に、支援顧客についても、ニーズ、ウォンツ、希望、それらを実現するために必要な能力を学ぶ必要があります。さらに、組織に対して最も感謝していること、変えたいと思っていることも学びます。

寄附者であれば、彼らの貢献がコミュニティの問題を解決する助けになっているという認識をもち、そこに価値を感じているかどうかが重要です。寄附者は、社会的貢献者、すなわち責任ある市民、社会に関心をもつ隣人に変わってもらう必要があります。

ボランティアであれば、新たなスキルを学び、新たな友人をつくり、生活を変える手助けをしていると感じているかを知る必要があります。そのために時間を提供したいと思ってくれることが、ボランティアを引きつけるための重要な要素になります。

アメリカでボランティア活動への参加が急増している理由は、社会的ニーズが高まっているからではなく、人々がコミュニティ、参加、社会への貢献を求めているからであると、ドラッカーも指摘しています。

ですから、自らの組織で活動するボランティアにとって「役に立つ」とは何を意味するのかを学び、それをどのように実現できるかを考える必要があります。

第一の顧客の家族は、支援顧客として特に重要です。彼らの期待が何かを知っておく必要があります。

支援顧客が流通業者またはサプライ・チェーンのメンバーであれば、彼らのニーズ、使命、利益、ゴールに関して制約になるものを知っておくことが重要です。

顧客の価値について学んだことは、組織のあらゆる活動に影響を与えます。例えば、製品またはサービス、人材募集、訓練、イノベーション、資金源開発、マーケティングなどの意思決定において、どのように利用できるかを考えます。

どのようにして学べばよいか

顧客から学ぶために利用できる方法、利用できる資源について検討します。顧客から学んだことは、顧客の満足レベルを決めるために利用できなければなりません。

現在の顧客や見込み客のほか、以前の顧客であって現在は顧客でなくなった人たちについても調査する必要があるかどうかを決めなければなりません。

顧客調査の方法には、書面調査、電話インタビュー、訪問インタビュー、グループインタビュー、グループディスカッションなど様々な方法があります。調査結果はデータとして整理して、分析することも必要です。