技術の変化が速い時代にあって、企業はいかにして生き残って行けばよいのでしょうか。
変化に対応することは必要です。しかし、ただ対応するだけであっては、それは翻弄されているだけにしか過ぎません。自分を見失い、疲弊し、大切なことを忘れ、気づいたら何も残っていないかも知れません。
変化の激しい時代だからこそ、変わらざるもの、すなわち「基本と原則」を知ることが必要です。ドラッカー理論こそ、経営の基本と原則です。
変化に対して、基本と原則を適用することによって、変化に対応することができます。
あなたの企業も、変化の只中にあって多くの問題を抱えているかもしれません。でも、あなたが抱えている問題というのは、本当の問題でしょうか。
本当の問題が分からなければ、本当の答えも分かりません。
真実は企業の中にはありません。企業の外にあります。
真実を知るには「企業の目的」に還ることです。そして、顧客の声を聴くことです。それらによって、本当の問題を知り、本当の答えを導き出すことができます。
「目的」を知ることが、答えに至る道の入り口であり、基本と原則を適用するための出発点でもあります。
技術の進化が速い時代に、あなたの会社はなくなってしまうのか?
現代は、とても変化が速い時代です。次々と新しい技術が生まれています。情報技術の進展もそうですが、IoTやAIなど、ただでさえ難しそうな技術がますます高度に進化しているようです。
AIの進化によって、どんどんなくなっていく仕事が増えていくのだとか。わが社の仕事もAIに取って代わられるのではないかと、心配するむきもあるかもしれません。
そんな話は何十年も前から言われていました。
- 工場がオートメーション化され、単純労働者は用済みになる。
- 情報技術が進展し、中間管理職はいなくなる。
- AIが進化し、ホワイトカラー専門職の仕事さえなくなっていく。
機械化と情報化の過程では、いつも同じようなことが言われてきました。本当にそのとおりになっているでしょうか?
確かに、工場の機械化は進みました。単純労働がロボットに置き換わったりしたことは事実でしょう。でも、その代わりに、新しい仕事が増えました。というより、単純労働をしていた人たちの作業内容の質が変わっていったと言えるかもしれません。メンテナンス、ロボットへのティーチング、機械へのプログラミングなどです。
そのような仕事ができるように、自分を変えようと努力した人は、生き残っているでしょう。努力しなかった人は、職を失ったかもしれません。
情報技術は進展しました。職場には、当たり前のようにパソコンが並んでいます。でも、それで仕事は減ったのでしょうか。管理職は減ったでしょうか。
人口ピラミッドが崩れて、リストラされてしまった中間管理職の人はいるかもしれません。でも、それは、中間管理職の仕事が減ったからではなく、それ以上に中高年層が増え、就くべきポストがなくなったからでしょう。
仕事は減るどころか、ますます増え、複雑になっているようには思わないでしょうか。
技術は進展し、普及します。あらゆる分野に普及し、すべての企業が使えるようになります。だから、みんなが同じスタートラインにいつも立つのです。
更には、技術が進展したことで、大企業でなくても、場合によっては個人でも、その高度な技術を使って起業できるようにさえなりました。
結局、これまで以上に、競争が激しくなったのです。ライバルが桁違いに増えているのです。昔は、同業者だけを見ていればよかったのに、今では、全然違うところから、突然ライバルが出現したりします。
ますます目が離せなくなりました。もっともっと情報を収集しなければならなくなりました。おかげで、もっと忙しくなった気がします。そうではありませんか。
昔と同じ仕事をただやり続けたいだけなら、生き残っていくのは難しいこともあるでしょう。仕事の質が変わっていくのですから、自らも変わらざるを得ません。でも、頑張っても頑張っても、疲弊するだけであれば、未来にはあまり希望が持てません。
変化が激しい時代に、どのようにして生き残るのか?
- 変化を捉え、的確に対応していかなければならない。
- ますます情報収集に励み、どんどん学んでいかなければならない。
確かにそのとおりかもしれません。
しかし、自分が学ぶ以上に情報は溢れ、学ぶべきことは増え続け、いくら時間があっても全く足りない...
そうなってはいないでしょうか?
変化に対応することは大切ですが、翻弄されてはいけません。
この変化の時代に生き残るために、何をすべきか?
あえて申し上げます。
変化の時代にあるからこそ、変わらざるもの、すなわち「基本と原則」を知り、それに基づいて判断していくことが大切です。
変化に対応していくことはもちろん大事です。ですが、変化の中には、一過性のものと構造的なもの(トレンドとして元に戻らない変化)があります。
それを見分けることは簡単ではありませんが、見分ける基準があるとすれば、それこそ正に、
変わらざるもの=基本と原則
です。
変化の中で生き残る方法は、「基本と原則」の適用にある。
変化の中にあって変化に対応し、生き残っていく方法とは、
変化に対して「基本と原則」を適用し、変化の本質を知り、自分がなすべきことを知ること
です。基本と原則の「適用」というところに、「変化への対応」の鍵があります。
そこで、次なる問題です。一体、何をもって「基本と原則」とすればよいのでしょうか。
経営の「基本と原則」は、ドラッカーにあり
「基本と原則」の選択には、あなた自身の価値観が大いに関わることでしょう。ご自身で信念を持ってはっきりと選べるものがあれば、それが最も良いことだと思います。
でも、何を選ぶかが難しいという方もいるかもしれません。
そんなあなたには、筆者は自信をもって、ドラッカーをお勧めします。ドラッカーの書籍は、「基本と原則」の宝庫です。その集大成とでも呼べる書籍が、
『マネジメント』
です。
『マネジメント』には、エッセンシャル版と、その元になっているロング版(上・中・下の3巻)があります。エッセンシャル版は、ロング版の要点が凝縮されていますので、それだけを読んでも難しくて理解できないことも多いでしょう。ロング版を読むべきです。要点のみをおさらいしたい時に、エッセンシャル版を読むとよいと思います。
このWebサイトは、筆者が『マネジメント』その他のドラッカーの書籍を読み、自分なりに理解した内容のポイントを整理したものです。
元々は、筆者自身の備忘録として作成し始めたものですが、経営者の方にも参考になるかもしれないと思い、公開することにしました。
でも、このWebサイトだけを見ても意味はありません。是非、書籍を何度も読んでください。書籍を読んで、さらにこのWebサイトを見返していただけると、知識の整理になることと思います。
ドラッカー理論は経営哲学か?
ドラッカーの『マネジメント』を、経営の哲学書と呼ぶ人たちがいます。
「哲学」を正しい意味で使っているのであれば、そのとおりだと思います。『マネジメント』は、基本と原則、変わらざる普遍の法則に満ちているからです。
でも、そうでない使い方をしている人も少なからずいるようです。
- ドラッカーの書籍は、抽象的で分かりにくい。
- ドラッカーの書籍は、具体的でないから、実際の経営では使えない。
などです。
そう感じるとすれば、「基本と原則」を中心に書籍が構成されてているからでしょう。「基本と原則」は、あなたが今求めている「具体的な答え」とは限らないからです。
重要なのは「答え」ではなく、「問題」である。
経営者は「答え」を知りたがります。今、自分が抱えている「その問題の答え」を知りたいと思っています。だから、具体的な答えを書いてありそうな書籍に手が伸びます。巷には、そんな願望に応えてくれそうなタイトルのビジネス書がたくさん並んでいます。
「たった○○日で、劇的に売上が上がるたった1つの方法」
などというタイトルが目に入ると、買わないわけにはいかなくなります。その中には、とても具体的で上手く行きそうなことが書いてあります。
「この方法で私は成功した。あの人も成功した。きっとあなたも成功するだろう。」
何だか希望が湧いてきて、早速やってみたところ...確かに、上手く行くこともあるかもしれません。多くの場合は、そう簡単にうまく行くものではありません。
何故でしょうか。著者が嘘を付いているのでしょうか。そういう場合もないとは言えません。多くの場合、前提条件が違うからです。中でも、いちばん大事なことは、
問題が違う
ということなのです。
著者が抱えていた問題に対しては、その答えで上手く行ったのでしょう。だからといって、あなたの問題に対して、その答えで上手く行く保証は全くないのです。
「具体的な答え」を知りたいと思うかもしれません。でも、他人が上手く行ったと言っている「具体的な答え」は、あくまで「他人の問題に対する具体的な答え」であって、「あなたの問題に対する具体的な答え」ではないことがほとんどなのです。
「あなたの問題」は「あなただけの問題」ですから、あなたが答えを出さなければなりません。
だったら、どうするか?
「基本と原則」が役に立ちます。まず、そもそも本当の「あなたの問題は何か」を問わなければなりません。「あなたの答え」を問うのは、その次です。
その過程で、
「基本と原則」を適用する
のです。
そのような考え方で臨むなら、「他人の答え」も役に立ってきます。そもそも「他人の問題が何だったのか」を知り、「基本と原則」を適用することによって、その「他人の答え」が上手く行った理由を知ります。
いわば、事例研究、模範解答として使えます。その事例に横たわっている「基本と原則」を確認し、その適用方法を学ぶことができるからです。
答えを知るには「目的」を知ること
哲学的な命題に、
物事は、それ自身によって説明することはできない。
というものがあります。ドラッカー経営学の真髄は、ここにあると筆者は考えています。『マネジメント』でも、随所に、この命題が使われています。
『エッセンシャル版 マネジメント』(ダイヤモンド社)から、一例をあげてみます。
企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。
要するに、「企業とは何か」という問いの答えは、企業の中にはありません。企業の外にあります。
企業は社会の機関です。社会にとって必要だから存在しています。その必要性が「目的」です。「目的」を知ることが「企業とは何か」への答えであるということです。
この論法はいたるところに出てきます。「事業は何か」の答えも、外にあります。「顧客の欲求」からスタートします。
企業で何か問題を抱えているとき、えてして企業の中に答えを探そうとします。
企業の中を一生懸命いじりまわすのです。典型的なものが「コスト削減」です。あるいは「組織改革」です。そこに答えがあると思い込んでいます。
でも、実際のところ、企業の中に答えは見つからないことがほとんどです。答えは外にあります。顧客や取引先の声を聴くことが答えを導くヒントになります。
企業のある部門が問題を抱えているなら、その答えは部門の外を探さなければなりません。その部門のアウトプットを活用している他の部門に聴かなければならないのです。
この点を、もう少し詳しく説明してみます。
企業で何か問題を抱えているとしましょう。例えば、
- 顧客からのクレームが増えている。
- 在庫がどんどん溜まっている。
- 欠品が相次いでいる。
などです。
問題自体は企業が抱えているわけですから、企業の中に、それらの原因と答えを探そうとします。
しかし、企業の中を探しても、それに気づくことはできません。仮に気づいたと思っても、単なる問題の裏返しをやってしまうことがほとんどです。
例えば、
- クレームが減るように、検査を強化しよう。
- 在庫が減るように、つくりすぎないようにしよう。
- 欠品しないように、余裕をもって生産計画を組もう。
などです。要するに、本当の問題が分かっていないということのなのです。
では、どうすれば、本当の問題が分かるでしょうか?
問題とは、理想と現実のギャップです(参考:「『問題』と『課題』の違い」)。理想とは、その企業が目指すものであり、企業の「目的」です。「ビジョン」あるいは「使命」と言ってもよいかもしれません。それは企業の外にあります。
「目的」と「現実」のギャップが「問題」ですから、
外にある「目的」から考えなければ、本当の「問題」を知ることはできません。
「そもそも何故、何のためにそれをやろうとしているのか」、「何のために、この会社(部門)は存在しているのか」です。目的を知ることで、そもそもの「なすべきこと」を知ることができます。
ところが、悲しいかな、「目的」や「理想」といったものは忘れ去られやすいものです。だから、いつも手段が目的化します。それでも、自分たちは目的を果たしていると思い込んでいるのです。
ですから、企業のアウトプットを受け取っている人の声を聴くことが重要になります。
顧客や取引先の声の中には、ストレートに問題や答えが現れるとは限りません。でも、自分たちが忘れていたこと、気づいていないことを知ることはできるはずです。
わが社の「目的」と「顧客や取引先の声」を照合することで、本当の問題と答えにたどり着くことができるでしょう。
新しい技術が出てきたり、進化したりしているときも同じです。大抵の場合、「この技術があると、こんなことができる」、「この技術は、こんなことにも使える」などと喧伝されることが多いです。
そんなときには、「わが社の現在の問題に、それが役に立つのか」、「わが社の目的、将来の目標に貢献できるものか」、「貢献できるとすれば、具体的にどのように使えるのか」を考えなければなりません。
「目的」を知ることが、答えに至る道の入り口であり、「基本と原則」を適用するための出発点でもあると考えています。