成長のマネジメント

大衆としての資本市場と人材市場の出現によって、企業には成長が求められます。

しかし、成長は自動的には起こりません。事業規模の成長が企業の成長にはなりません。企業の成長は、組織や資源が単に大きくなることではありません。

急速な成長は組織を脆弱化させ、マネジメントを不可能にします。

多くのことを行えるようになる一方、行う必要のない多くのことも行うようになります。急激に多くの人材を抱えるため、訓練し、方向付けし、監督し、マネジメントすることが間に合わなくなります。

成長することはリスクでもあるのです。

成長とは不連続な変化です。質的な変化ですから、準備が必要です。自然に任せるのではなく、なりたいと思うことに焦点を合わせた行動が必要になります。

トップの意思が、何よりも必要です。

大きくなること自体に価値があるのではなく、戦略に基づく適切なマネジメントの結果としての成長でなければなりません。

成長の問題

企業の成長は、組織や資源が単に大きくなることではありません。質的な変化を伴わなければ、成長は組織を脆弱化させ、マネジメントを不可能にします。

時代に応じて、成長の基盤自体も変化します。ですから、企業は、自らの成長機会がどこにあるかを検討し、資源を、成果の期待できない分野から成長機会に移さなければなりません。

質的に変化しなければ成長することはできず、また、成長することに企業の存続がかかっているとさえ言えます。

企業が質的に変化するには、何よりもマネジメントの姿勢の変化が不可欠です。マネジメントが自らの姿勢と行動を大胆に、本質的に変える覚悟と能力が必要です。

創業者は、規模がどれほど大きくなっても、もはや小さな町工場をマネジメントしているわけではないという事実をなかなか認識しようとしません。事故や大きなトラブルでも起こらない限り、認識することができません。

認識できたとしても、実際に姿勢と行動を変えることはさらに難しいことです。

難しいのは創業者だけではありません。ミドルマネジメントや現業のマネジメントも同じです。その結果、部下を抑圧したり、挫折させたりすることが起こります。

成長は質的な変化ですから、マネジメントに対して新しい能力を要求します。

特にトップマネジメントは、長い将来を考えた行動が求められます。目標の実現段階よりも、目標の設定そのものにより多くの関心と時間を割くことが必要になります。

コミュニケーションの方向も変わります。上から下へのコミュニケーションが主体であったのが、下から上へのコミュニケーションの確立が不可欠になります。

トップマネジメントは、明確なビジョン、組織構造、目標の設定といった経営の原理原則の理解と適用を重視しなければなりません。行き当たりばったり、思いつきの経営では成長に適応できません。

マネジメントの各階層に対しても、責任の明確化が必要です。

生存の条件としての成長

経済の成長期には、企業は流れに押されて成長することも可能です。しかし、経済が成長期でなくなったとき、変化は突然となり急激となります。

このようなときこそ、成長を意図し、マネジメントするための戦略が必要です。そのための準備が必要です。

また、有能で才能ある人材を惹きつけ、動機づけし、留める力のない企業は生き残ることはできません。

これからの時代、惹きつけるべき人材は知識労働者です。彼らは、仕事のプロとして自ら一流たることを求めます。成長が要求されるのです。

必要な成長とは何か

成長自体は目的になりません。根拠に基づく目標を掲げ、それを達成するためのマネジメントを行った結果、成長が実現されます。

ですから、いかに成長をマネジメントするかを知っておく必要があります。

必要とされる成長の最小点を検討しておく

組織の生命を維持していけるだけの地位を確保する必要があります。組織が存続できないような限界的存在になってはいけません。

市場が拡大しつつあるならば、組織もその生命力を維持するために成長していかなければなりません。そこで現状維持を選択すれば、競合の成長によって自社は自ずと縮小に転じ、いずれは限界的存在になります。

経済が下降期に入ると、限界的な企業は、縮小がより急激な速度になります。消費者から真っ先に見放されるからです。

成長の最適点について検討しておく

自らの組織が健全に成長しているかどうかを見極める基準は、資源の生産性を評価することです。組織が成長していたとしても、生産性が低下しているならば、健全な成長であるとは言えません。

それ以上成長しようとすると、資源の生産性が犠牲になる点はどこかを検討しておきます。また、収益性を高めようとすると、リスクが急激に増大する点はどこかを検討しておきます。

そこが最適点であり、成長の上限です。リスクと成果のバランスを考えることが必要です。

成果の面での成長

量そのものは成長と関係ありません。事業の分野を広げていくこととは違います。質的な成長であり、成果の面での成長です。成果は、機会に強みを適用することによってもたらされます。成長には集中が必要であるということです。

ですから、まずなすべきことは、業績に貢献しない活動を切り捨てることです。成長戦略の基本は、機会に備えて資源を自由にしておくことだからです。

成長にも戦略が必要です。目標、優先順位、計画が必要です。財務的な操作ではなく、事業、市場、技術の現実に即した目標です。

成長への準備

継続学習の風土

成長は、固有の強みを育て、基盤としなければなりません。

成長を始めるずっと前から、継続学習の風土をつくり始めることが必要です。企業内の全員が、当然のこととして、より大きな責任を負う気持ちになっていることが、成長に入るためには不可欠です。

企業内部の経理上の数字なども重要ですが、 さらに重要なのは、企業外部、特に市場で何が起こっているかを知ることです。

学ぶべきものは常に外にあります。育てるべき固有の強みも、機会に適合し、顧客に価値あるものを提供してこその強みだからです。「何が起こっているかを知るためにはいかなる情報が不足しているか、本当の成果は何であり、コストは何か」を問い続けなければなりません。

財務的な下支えの準備

いつどのくらいの資金が必要になるかを知る必要があります。成長は利益をもたらすと考えられがちですが、成長途上の利益は帳簿上の数字にしかすぎません。

成長は多額の運転資本を要求しますから、あらかじめ資金の手当てをしていなければ、資金繰りが破綻しかねません。

予測よりも多くの資金が必要になることがほとんですから、資金需要が発生してから手当てしようとしても、通常間に合いません。無理に間に合わそうとすると、 高すぎる調達コストという不本意な条件を受け入れざるを得なくなります。

ですから、余裕を持って準備しておく必要があります。ドラッカーは、成長している中小企業は、少なくとも2~3年後の財務構造と資金調達先を予定しておかなければならないと指摘しています。

トップが自らの役割、行動、他者との関係を変える意思と能力を持つ

変化すべき人とは、多くの場合、過去の成功に功績のあった人です。成功をもたらした行動を捨て、習慣を捨てるよう要求されます。

トップマネジメントの準備

トップマネジメント・チームの編成

基幹活動、すなわち事業にとって最も大切な活動を明らかにし、それらの活動に取り組むべきトップマネジメント・チームを編成しておきます。

成長を始めるかなり前からつくり始めなければなりません。ドラッカーは、機能するトップマネジメント・チームをつくり上げるには5年を要すると言っています。

基幹活動には、成長後のレベルを見据えて力を入れておきます。基幹活動以外の活動はすべて無視します。それによってのみ、成長のための資金需要の準備ができます。

トップマネジメント・チームについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

変化すべき兆候に注意

変化すべきときを知るために、方針と行動の変化を要求する兆候に注意します。ドラッカーは、トップマネジメントに変化を要求する確かな兆候を教えてくれます。

トップは部下を自慢にするようになりますが、どの部下も成長の準備ができていないと感じます。部下に大きな責任を与えたり、重要な分野を任せることのできない理由を見つけ出すようになります。

これが兆候です。トップが優秀な部下に任せる準備ができていない証拠です。

このときに、トップが変化できるかどうかが鍵です。

心底変化を望んでいるかを正直に判断

トップが自ら行動を変えることを欲していないなら、身を引くしかありません。さもないと、創業者の時代のフォードやジーメンス、三菱のように機能不全に陥り、失敗することになります。

中小企業の成長危険

中小企業にとって、成長することは望ましいと考えられますが、成長が危機をもたらすことも十分に理解しておかなければなりません。急成長によって管理不能になり、深刻な経営危機に陥ることがとても多いからです。

中小企業において特に注意すべき成長の危険と成長をマネジメントする方法について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。