仕事中心の組織には、機能別組織とチーム型組織があります。両者の違いは、次表のとおりです。
機能別組織 | チーム型組織 | |
---|---|---|
特 徴 | 段階や技能の間を仕事が移動 | 仕事は動かず、異なる技能や道具を持つ人たちが移動 |
利 点 | 明快 安定 課題の理解が容易 上手く行っているときは、高度の経済性を発揮 | チーム全体の仕事、自分の責任が明確 新しい方法、アイデア、事態の変化に適応 |
欠 点 | 全体の目的を理解し、各人の職務に結びつけることが困難 硬直的 明日のリーダーを育てるのが困難 ある程度の規模や複雑さに達すると、機能間の摩擦が増大 調整役の増加で、非効率化 意思決定がトップに集中 意思決定の理解、実施が困難 | 内部管理に絶えず気を配る必要 少人数にのみ適応 |
適用範囲 | 現業の仕事に限定 | トップマネジメントの仕事やイノベーションのための仕事に最適 知識労働の領域で活用 |
どのような組織であっても、仕事を中心に組織をつくることは必要です。機能別組織とチーム型組織のいずれか、または両方が必要になります。
組織をつくる以上、これら2つの組織構造を理解することは必須です。利点、欠点、限界、適用範囲の違いを十分理解する必要があります。
仕事を中心に組織をつくる方法
仕事を中心に組織をつくる方法には、3つあります。
段階別に組織する方法
仕事の段階ごとに組織する方法です。
ドラッカーは、家を立てる例で説明しています。家は、基礎を作り、骨組みを作り、屋根を作り、内装を施すという段階があります。
製造業では、製品を設計し、材料を調達し、製造し、販売するという段階ごとに組織されていると言えます。
各段階に存在するスキルや能力は多様です。
技能別に組織する方法
金属加工業では、例えば、切断加工、切削加工、板金加工、溶接、塗装などの技能ごとに組織されます。
仕事は動かさず、チームが動く方法
チーム型組織のことです。
機能別組織
仕事の段階や技能の間を仕事が動く組織です。人は、段階や技能を表す部門に固定的に所属し、動きません。仕事の方が各部門を動いていきます。
製造やマーケティングという機能は、段階を表します。どちらの段階も、相互に関係のない各種の技能を含みます。
人事、経理、エンジニアリングという機能は、段階ではありません。
成果ではなく活動を中心に部門を分けていることが、利点と欠点双方の要因になります。優れた仕事をしようとする利点の一方で、自らの機能のみを重視するという欠点が生じます。
利点
明晰さにおいて優れています。分かりやすい組織構造です。安定性にも優れています。働く人びとに、よるべき家があります。なすべきこと、課題を理解することが容易です。
上手く行っているときには、高度の経済性を発揮します。それぞれが自らの職務に専念することで、効率的に仕事が回っていきます。
欠点
組織全体の目的を理解し、各人の職務に結びつけることが困難です。したがって、自分の技能が目的になりがちです。硬直的になりやすく、適応性に欠けます。
永続性の面で、明日のリーダーを育て、訓練し、テストすることも困難です。成果より技能に重点があるからです。優れた技能を持つほど、マネジメントの意味を軽視しがちです。
自己革新の面でも、組織全体として新しいアイデアや新しい方法を進んで受け入れる気風に欠けます。技能を高めることが中心になり、どちらかというと改善に力を注ぎます。
経済性の面で、ある程度の規模や複雑さに達すると、摩擦が随所に見られるようになります。各機能部門が大きくなり、機能間のコミュニケーションが行われなくなってきます。組織中が専門の度を深め、それぞれの狭い世界にのみ関心をもつようになるからです。機能間では、誤解と反目が支配するようになります。
この問題を解決するために、調整役や委員会、会議などが増えていきます。その結果、仕事の効率が著しく損なわれるようになります。
意思決定の面では、全体を見渡せるのはトップだけです。トップが正しい意思決定をしたとしても、満足に実施されることはありません。部門内に持ち込まれた途端、自部門の論理で間違って解釈されがちです。
「何が正しいか」より、「誰が正しいか」が重視されます。
段階別部門と技能別部門の混在に関わる問題
段階別部門に技能別部門(経理、エンジニアリングなど)が混在すると、対立が生じやすくなります。
例えば、経理部門には少なくと3つの異なる機能があります。
- 情報提供機能(他部門の目標管理に活用)
- 財務機能
- 記録と保管、政府への報告の機能
同じデータを使っているという理由だけで一部門になっていますが、これらの機能に関わる原理や考え方はすべて異なっています。
エンジニアリング部門にも、工学的な道具を使っているという理由だけで一部門にまとめられている場合がありますが、用途は一様ではなく、研究、設計、サービス、マーケティング、イノベーション、固定資産管理などが混在します。
これらの例は、一部門に異なる原理の仕事が混在しており、管理不能に陥ります。他部門との摩擦だけでなく、部門内に対立を起こします。
道具の論理ではなく仕事の論理、すなわち目的(用途)によって分割させることが望ましいと言えます。
適用範囲
現業の仕事に限定して適用すべきです。
トップマネジメントの仕事は機能の仕事ではありません。組織全体の仕事です。
イノベーションの仕事にも使えません。イノベーションは、新しい仕事です。誰も知らないことをします。専門的な技能は必要ですが、いつ、どんな技能が必要かを予測することはできません。ですから、機能別部門を固定的に準備できません。
機能別部門はできるだけ小さな規模にし、階層を少なくする必要があります。機能別部門の長は、トップマネジメントの直属とすべきです。機能別部門がセクト主義に陥らず、組織全体の目標に貢献できるようにするためです。
機能別部門の長は、会社または事業部全体の目標設定に参画し、その目標に合わせて自部門の目標を設定しなければなりません。
機能別部門の階層はせいぜい2つまでにすべきです。ドラッカーによれば、階層が3つ以上になると、機能別部門の経営管理者の仕事が著しく滞ると言います。会社または事業全体の目標を直接反映した目標を設定できなくなるからです。
チーム型組織
仕事が固定され、異なる技能、知識、背景を持つ人が集まります。異なる機能部門に本拠を持ちながら、特定の目的を果たすために共に働く人の集まりです。
通常は、少人数です。ドラッカーによれば、5~6人を限度とし、一般的に3~4人が最もよく機能すると言います。
チームの目的、ミッションは不変ですが、プロセスが進むに従って、各人が行う職務の具体的な中身は変化していきます。メンバーの入れ替わりが起きることもあります。
リーダーの役割
リーダーはいますが、上司や指揮者ではありません。チームには上司や部下という立場は存在しません。
チームにおけるリーダーの役割は重要です。目標、メンバー全員の役割を明瞭にするのが仕事であり、チームが機能するための不可欠の仕事です。
リーダーは、通常、交代しません。仕事の段階ごとに意思決定する権限を持ちます。指揮命令権を持つ者が誰であるのかを決める権限も持ちます。仕事の段階や要求よって、誰を指揮者にするのかを決めます。ですから、リーダーは変わらなくても、指揮者は変わっていきます。
責任の主体
チームの最終的な意思決定者はリーダーです。
責任の主体はチーム全体です。メンバーは、チーム全体の成果に責任を持たなければなりません。そのために、明確な目標を共有し、共通の課題への理解が必要です。全員が互いの仕事についての知識を持つ必要もあります。
チーム型組織は自由度が高いと言えます。チーム全体の成果に責任を持つために、臨機応変な対応が求められるという意味での自由度です。決められた仕事をやればそれ以上の責任は負わないという意味の自由はありません。
自己規律を必要とする難しい組織です。チーム全体とメンバー一人ひとりに、目標と現実のフィードバックをし、自己目標管理を徹底しなければなりません。
利点
理解の容易さの面で、全員が、チーム全体の仕事、自分の責任を知っています。
適応性にも優れています。新しい方法やアイデアを容易に受け入れられ、事態の変化にも容易に適応できます。
方向づけの面で、機能間の縄張り争いや島国根性が生じることはありません。
欠点
経済性に欠けます。人間関係、仕事の割当、説明会、会議、コミュニケーションなど、チームの内部管理に絶えず気を配る必要があります。
エネルギーの相当部分が、単に仕事を進めることに費やされます。他のメンバーの仕事に関心を持ちすぎる者や、自分の仕事にあまり注意を払わない者が出ることがあるからです。その意味で、明晰さや安定性にかけるとも言えます。
少人数でなければ、機能できません。規模が大きくなると、利点が急速に減少し、欠点が致命的なほど増大します。
適用範囲
トップマネジメントの仕事やイノベーションのための仕事に最適です。
機能別組織を有効に動かすための補完的な組織構造として併用すべきです。一時的かつ便宜的な組織ではなく、恒常的に利用すべきです。
フレキシブル大量生産、プロセス生産、オートメーションを導入している工場では、全体がシステム化されいてるため、機能別組織は適用できません。様々な機能によって組織されたチーム型組織(タスクフォース)が必要です。
ドラッカーは、特に、知識労働の領域において、機能別組織とチーム型組織の併用が重要であることを強調します。人間の拠点、よるべき家としての機能別組織と、仕事の場としてのチームの必要性です。
知識が進むと専門分化します。結果として、それだけでは何ら用をなさない断片になってしまうことを意味します。ですから、他の人の知識と結合するとき、初めて生産的になります。高度の知識が成果に結びつくのは、チーム型組織が最適です。
なお、チーム型組織にもいくつかの種類があります。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。