成果中心の組織

成果中心の組織には、連邦分権組織と擬似分権組織があります。両者は補完的ではありません。

機能別組織を使うには組織が大きすぎるけれども、連邦分権組織を使えない場合に、代用品として擬似分権組織が使われます。

ドラッカー曰く、今のところ、連邦分権組織に優る組織構造はありません。独自の市場を持つ事業に分割でき、組織として自立的に運営できる大きさを維持できるなら、連邦分権組織を利用すべきです。

各事業部門の内部は、機能別組織またはチーム型組織、あるいはその両方を利用します。

事業の目的、戦略からスタートします。まず、組織の基幹活動とその位置づけを明らかにする点は同じです。事業部門ごとに、活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析を行います。

連邦分権組織

組織を、いくつかの自立した部門に分割できる場合に利用します。

それぞれの部門が独自のトップマネジメントを持ち、それぞれの部門の業績と、部門を束ねた組織全体への貢献に責任を持ちます。

今のところ、連邦分権組織に優る組織構造はないとドラッカーは言います。イノベーションの事業にも使える組織構造です。

各部門の内部は機能別組織が利用され、チーム型組織が補完します。両者は仕事中心の組織ですから、中規模以上の大きさになったら欠点が大きくなります。

その場合は、部門内にさらに連邦分権組織を適用し、さらなる分割を検討することになります。機能別組織を使うレベルが下であればあるほど、組織は強固となります。

事業の単位

分割の単位である部門は、自立した部門として成果をあげることができなければなりません。独立した事業に分割できることが必要です。

  • 自部門の損益が出せること
  • 独自の市場を持つこと

ただし、製品や部品の調達は、他の事業部門から行うことを認めます。市場から調達するのと同じ考え方です。どこから調達するかは、各事業部門が自由に選択できる必要があります。

事業部門が決まったら、次は、事業部門の内部にいかなる仕事、課題、活動が必要かを考えます。組織の基本単位を明らかにし、位置づけを決める作業になります。

  • 事業部門によって、内部の組織構造は異なること
  • 成果からスタートすること

が大切です。

機械的に組織構造を適用しようとすると失敗します。同じ会社だからといって、内部構造を部門間で統一化しようとしてはいけません。

常に考えるべきは、「この事業部の事業は何か、何になるか、何でなければならないか」です。そのように考えて初めて、基幹活動とすべきものが何であり、いかに組織すべきかが明らかになります。

利点

上手く行っている機能別組織の利点が、そのまま利点になります。

明晰で分かりやすい組織構造です。経済的でもあります。コミュニケーションが容易で、意思決定も適切なレベルで行われます。理解も容易です。自らや自らの属する事業部門の課題を容易に理解できます。

マネジメントの目と力を直接、事業の業績と成果に向けさせることができます。

安定性と適応性にも優れています。最大の利点は永続性に優れていることです。事業部門のトップマネジメントにつけることによって、明日を担うマネジメントを育成し、テストし、評価することができます。

成立の条件

連邦分権組織は、各事業部門が自立し、自由度が高い組織構造です。だからこそ、厳しい条件を満たす必要があります。

  • 本部のトップマネジメントの仕事が十分に検討され、明確にされていること
    • 事業部門の仕事に煩わされないようにしなければいけません。もちろん、事業部門の仕事を行ってはいけません。
    • 明日のための方向づけ、戦略、目標を定め、意思決定を行うことが仕事です。組織の全体、一体性、未来に関わる意思決定です。
      • 参入すべき技術、市場、製品、事業の決定
      • 廃棄すべき事業の決定
      • 組織としての価値観、信条、原則の決定
      • 資金の調達と配賦
      • 人材配置
  • 本部のトップマネジメントが事業部門から分離されていること
    • 本部のトップマネジメントが事業部門の長を兼ねると、どちらもおろそかになります。特定の事業部門の利益のために、全体の利益が損なわれます。部門ごとの利益の貸し借りが行われることもあります。
  • 本部による方向づけと各部門に共通の評価尺度を定めること
    • これがないと、本部のスタッフ部門が増殖します。評価尺度がないと、人による監督が必要になるからです。
    • その都度の判断がいらなくなるような管理手段が必要になります。
    • 自己目標管理を行うには、目標の達成度を知ることができなければなりません。
  • 事業部門の機能別組織は、小規模が望ましいこと
    • 小規模でなければ、連邦分権組織の利点が活かされません。
    • 部門のトップマネジメントが、要となっている者を組織図、マニュアル、人事ファイルを参照することなしに把握できることが目安です。所属、担当職務、仕事の仕方、経歴、どのような方向に進んでいきそうかを把握できることです。
    • 事業部門内が、中規模以上になったら分割を検討すべきです。
  • 事業部門は、自立できないほど小さすぎないこと
    • 目標設定、計画、チーム作り、仕事の組み立て、評価などを自力で行えるだけの大きさは必要です。
    • 市場、製品、サービス、人材を開発できる余地がなければなりません。それらの機能を、本部のサービススタッフに依存するようではいけません。
    • 自立はできるけれども、機能別組織を維持できるほどの大きさでなければ、チーム型組織を利用します。

連邦分権組織といっても、事業部門は完全に独立した組織ではありません。全体の目標を達成するための手段としての自立組織ですので、空中分解するようであってはいけません。組織全体の一体性を維持するための本部機能は必要です。

資金調達と人材配置の意思決定権は本部が持ちます。人材は組織全体の資源であることを肝に銘じ、優秀な人材を事業部門が抱え込んではいけません。事業部門は関与しても、決定は本部のトップマネジメントが行います。

一体性を維持するための原則は、あくまで共通のものとして明示され、厳格に守られる必要があります。他の部門に影響を与えることについては、画一性が求められます。しかし、原則の一致は、事業部門内の仕事の進め方の多様性によって強化されます。

事業部門のトップマネジメントの役割

事業部門は、本部のトップマネジメントから独立した自治的な存在ですが、全体の業績をあげるための手段です。全体の一員であることの自覚を持たなければいけません。

事業部門のトップマネジメントは、本部のトップマネジメントを強化するために自立していることを理解します。本部のトップマネジメントが、本来の仕事に専念できるようする責任があります。市場、製品、潜在力、機会、問題について、トップマネジメントに何を知らせるかを徹底的に考えます。

本部のトップマネジメントを教育する責任があるということです。

本部の機能

  • トップマネジメントの企画部的機能
    • 全社的な良識活動に関わる機能が必要です。
    • 情報機能とデータ収集機能も必要です。
  • 各事業部門が共用する機能
    • 資金調達、研究開発、法務、広報、労務、業務、購買などです。
    • 社会的なイノベーション、すなわちマーケティングや人事などのイノベーションに関する機能も必要です。
    • 事業部門の現業を直接代替する仕事ではありません。現業部門は、あくまで自立している必要があります。

ドラッカーが特に強調することは、事業部門のマネジメントに助言を行うサービススタッフを持ってはいけないということです。

サービススタッフは自らの職能に関心を持ちます。本部のトップマネジメントにパイプがあるため、事業部門は、成果ではなくサービススタッフの人間の歓心を買うことが重要になってしまいます。

本部がスタッフ部門を持つ場合は、サービスをスタッフ部門から買うか、外部から買うか、事業部門自らの意思で選択できる仕組みにすべきです。

擬似分権組織

事業ごとに分割することはできないけれども、仕事中心の組織とするには大きすぎる場合に利用します。連邦分権組織が利用できない場合の代用品です。

それぞれの部門は、独自の市場を持たないため事業とは言えませんが、事業であるかのように組織します。つまり、可能な限りの自治権を与えます。独自のマネジメントを置き、擬似的な損益責任を負わせます。

問題点

成果に焦点を合わせることが困難です。成果は、市場によってではなく、組織内部の意思決定によって左右されます。内部で定めた価格や費用配賦の仕方に左右され、擬似的な損益で図られます。

自らの仕事の意味を理解することも、組織全体の仕事を理解することも困難です。

意思決定は部門内部の論理に左右されやすく、コニュニケーションについても、部門間の交渉や調整は難しく、時間もかかります。

適用の原則

現業のみに適用すべきです。しかも、連邦分権組織をどうしても適用できない場合の最後の手段として使うべきです。

  • 各部門間の連携が必要でありながら、分離して責任をもたせなければならないとき
  • 市場の論理が技術や生産の論理と一致しないとき
  • 複雑な大組織でありながら、製品やサービスが一種類であるとき

化学産業や材料産業が典型的です。同じ製品が様々な用途で使われるため、開発、生産、市場を、事業として切り分けることが困難です。