事業の未来を築く

企業は常に変化の中にあります。市場は変化し、事業に必要な知識も変化し続けています。

私たちが未来について知っていることは、次の2つであると、ドラッカーは言います。

  • 未来を知ることができない。
  • 未来は、今日存在するものとも、今日予測するものとも違う。

未来を知り得ないとすれば、企業はいかに変化すればよいのでしょうか。

未来が現在とは違い、しかも現在予測できるものとも違うとすれば、現状維持も選択できません。未来への不適合であり、衰退することを意味するからです。

未来において企業が存続し、発展していくための体系的な取り組みが必要です。

ドラッカーは指摘します。

未来は知り得ないが、未来を築くことはできる。

なすべきことは未来の予測ではなく、すでに発生した出来事が未来にどのような影響を与えるかを見通すことです。影響の中に、わが社の強みを生かせる機会を見出し、企業の新たな未来ビジョンを築いていくことです。

リスクを有する不確実な未来が富を生む

未来は予測することができませんが、予測できないことを起こすことはできます。

それにはリスクが伴いますが、何も変わらないという居心地のよい仮定に安住したり、ほぼ間違いなく起こることについての予測に従ったりすることに伴うリスクよりは低いと言えます。

未来そのものが不確実でリスクを伴うものですから、自ら何も行動しないというリスクは、対処できない最も大きなリスクです。

変化の中にあってリスクを恐れ、誰もが知ることのできる現実に基づいて事業を行うならば、そこには衰退しかありません。現実を知り、意思決定を行い、事業を計画し、投資を行い、行動する際には、すでに意思決定が陳腐化しているからです。

予測できないことを起こすとは、予測できない未来に賭けることではなく、自ら未来を築くことを意味します。

「entrepreneur」(アントレプレナー=企業家)という言葉を生み出したフランスの経済学者J.B.セイは、

企業家とは、非生産的な過去のものに固定された資本を使って、今日とは違う未来をつくるというリスクにかける者

と定義しています。

未知なる未来のために現在の資源を使うことこそ、企業家に特有の機能です。明日何をなすかを決めることではなく、明日をつくるために今日何をなすかを決めることです。

リスクや不確実性を受け入れ、未来に今、資源を投資してこそ、経済的成果を生み出すことができます。

企業家としてなすべきことは、適切なリスクを探し、時にはつくり出し、不確実性を利用することです。そのための体系的なアプローチが必要です。

  • 経済や社会の不連続性の発生と、それがもたらす影響との間の時間的な差を発見し、利用すること
  • 来るべきものについて形を与えるためのビジョンを実現すること

すなわち、すでに起こった不可逆的な変化(すでに起こった未来)を素早く発見し、理解し、その影響を予測します。その中に機会を見出し、わが社として実現すべき未来ビジョンを描き、その実現を目指すということです。

すでに起こった未来とは

社会的、経済的、文化的な出来事が起こった後、その影響が現れるまでには、通常タイムラグがあります。

例えば、基本的な知識の登場が役に立つようになるには、10~15年の歳月が必要です。

そのような出来事は、必ず機会をもたらします。影響が現れるまでは、潜在的な機会です。企業や産業の外部にあります。

注目すべき出来事とは、社会、知識、文化、産業、経済構造における変化です。可逆的な変化ではなく、不可逆的な変化です。

つまり、一つの傾向の中にある小さな変動ではなく、変化そのものです。一定のパターンの内部における変動ではなく、パターンそのものの断絶です。

そのように、すでに起こっている不可逆的な変化であって、まだその影響が現れていないものを、ドラッカーは「すでに起こった未来」と呼んでいます。

もちろん、すでに発生した変化がもたらす影響を予期し、資源を投じることには、リスクと不確実性が伴います。

しかし、そのリスクは限られています。なぜなら、影響がいつ現れるかを正確に知ることはできませんが、すでに発生した変化ですから、影響が現れることの確信は持てるからです。影響を役に立つ程度に描くこともできるからです。

すでに起こった未来を調べるべき領域

人口構造

労働力、市場、社会的圧力、経済的機会にとって最も基本となる動きを示します。逆転することはなく、影響も早いと言えます。

人口構造の変化が、わが社にとっていかなる意味をもつかを調べる必要があります。

  • 雇用と労働に関して、いかなる意味をもつか。
  • 新しい市場に関して、いかなる意味をもつか。市場の基本的な構造をどのように変えるか。
  • わが社の顧客や製品にとって、いかなる意味をもつか。
  • わが社の事業全体に、いかなる意味をもつか。

知識

自社の事業に関わる知識に限定してはいけません。その知識が影響を与える未来には、自社そのものが今と違うものになっていると考えるべきだからです。

むしろ企業は、その卓越性の基礎とすべき知識の領域においてこそ、今とは違うものにならなければなりません。知識の変化こそ、企業を根本的に変化させる領域です。

あらゆる知識の領域において、すでに起こった未来を探さなければなりません。

大きな影響がまだ現れていない基本的な知識の変化がすでに起こっていることを見つけたら、「期待すべき機会は存在するか」を検討しなければなりません。

他の産業、国、市場

他の産業や国、市場を変える可能性のあることが起こっていないかを調べます。

自社が属している産業、国、市場においても同様の変化を起こせる可能性があるからです。大きな機会が存在します。

産業構造

典型的なものは、素材革命です。

以前は、素材によって最終用途が決まり、最終用途によって素材が決まっていました。素材と生産工程、最終用途はすべて一本につながり、独立していました。

今日、素材の流れは始点も終点も多様化しています。異なる物質が同一目的のために使われたり、同じ物質が異なる目的に使われたりしています。生産工程にも独自性はありません。

ですから、一つの素材をもって自らを定義する企業は、すでに陳腐化していると言えます。

そのような基本的な変化は、常に自らの事業や経済の外で起こっていることを認識しておく必要があります。

企業の内部

企業の内部で生じる摩擦です。何か新たな活動を導入したり、新たな部門を設置したりする場合に生じるものです。

変化に対応しようとする新たな動きと、目的を達成した事業や活動あるいは陳腐化しつつある事業や活動にしがみつこうとする大勢の動きとの摩擦です。

すでに起こった未来を見る

未来がすでに起こっていても、それを見ることができなければ、利用することもできません。

まず新しい事態を認識しなければなりません。やるべきことは、そのあと見つけることができます。

もし予測されているものがあるとすれば、それはいつ起こるかを問います。

  • 今後起こるものか。
  • すでに起こっているものか。

ほとんどの人は、まだ起こっていないものは想像すらできません。何らかの予測や想像がなされ、それが一般に受け入れられているものであれば、すでに見てしまったものの報告であることがほとんどです。

  • われわれ自身は、社会と経済、市場と顧客、知識と技術をどう見ているか、それは今も有効か。

すでに起こった未来をみつけ、その影響を見ることによって、新しい知覚がもたらされます。新しい現実を見ることができます。

ここにおいて起こりやすい大きな間違いは、起こるべきであると信じることを、実際に起こっていることとして見てしまうことです。

ですから、内部が一致して歓迎するものは、常に疑ってかからなければなりません。単なる願望の表明であることがほとんどだからです。

すでに起こった未来は、ほとんどの場合、内部に大きな抵抗を生みます。内部に深く染みついた考え方や仕事の仕方、習慣に疑問を投げかけ、ひっくり返そうとするからです。変革のための意思決定を余儀なくさせるものだからです。

だからこそ有効であると言えます。

ビジョンの実現

すでに起こった未来に機会を見出し、その上に、強みを生かした企業の未来ビジョンを描きます。

それは、将来どのような製品やプロセスが必要になるかを予測することではありません。

実現すべきビジョンを自ら描き、その上に新たな事業を築くこと、すなわち必要な製品やプロセスを具体化することに意味があります。

企業家的なビジョンは、集中が原則です。一つの狭い領域についてのビジョンであることが活力の源泉になります。

偉大なイノベーションは、理論上の仮説を現実の事業に転換することによって実現されてきました。他の国や産業でうまくいっているものを真似するだけのこともあります。

つまり、必要なものは創造性ではなく、仕事であるということです。想像力に富むビジョンの方が成功率が高いという証拠はありません。むしろ、平凡なビジョンがしばしば成功しています。

必要なのは、才能ではなく勇気です。進んで新しいことを行うことです。今日とはまったく違う何かが起こることを本当に望んでいるかです。

最初の動きは小さなもので構いません。投入する人材は少しで構いません。しかし、最高の人材を投入しなければなりません。そうしなければ、うまく行くものもうまく行きません。

ドラッカーによると、アイデアは利用できる以上に存在していると言います。ただし、ビジョンを成功に導く製品とプロセスは、現在の事業と関係のない研究から出てくることが多いため、発見することも利用することも難しいのです。

なお、企業の未来ビジョンとは、新しい事業をつくり出すことです。実用的な知識、顧客・市場・最終用途が存在する製品やプロセスやサービスを生み出すことです。富を生む機会や能力についてのビジョンであり、経済的な成果につながるものであることが必要です。

ビジョンは不確実であり、リスクを伴いますから、今日までの成果と明日の見通しを考慮し、続けるべきか否かを決めるための定期的な検討が必要になります。