製品の類型による分析

事業において業績をもたらす領域について、利益、コスト、資源の分析を行ったら、その結果をもとに分類します。

ここでも製品を例に分類しますが、同様の分類方法が、業績をもたらすあらゆる領域に適用できます。

分類の意義は、診断や処方が類型化できることです。詳細な対応は個別具体的にならざるを得ませんが、少なくとも暫定的な診断と処方を知ることができます。

ただし、製品は必ず陳腐化しますから、分類するだけでなく、その変化の兆候を知ることが更に重要になります。

製品の11分類

ドラッカーによると、製品は11種類に分類できます(『創造する経営者』)。

最初の5つは、診断も容易で処方も簡単な製品です。残りの6つは問題製品であり、対処が難しくなります。

今日の主力製品

現在ピークにあり、またはピークに近い製品です。

売上と利益が大きく、コストは最大でも製品別売上総利益以下です。貢献利益係数はきわめて大きいと言えます。

デザイン、価格、販売促進、販売方法、アフターサービスなどの改善で成長の余地は残っていますが、もはや限界に来ています。

資源の投入による支援については、支援すれば成長させられるはずであるとの希望的観測がまだ支配しているため、合理性の範囲を超えています。現在の貢献利益と貢献利益係数が正当化するよりも少なくしなければなりません。

すでに昨日の主力製品になっているにもかかわらず、今日の主力製品とみなしてしまう傾向がありますので、注意深く評価することが必要です。

明日の主力製品

既に利益のある大きな市場を持ち、市場から受け入れられています。改善しなくても、大きな成長が期待できます。

貢献利益と貢献利益係数は、必要以上に高くなっています。そのため、支援の必要がないと思われてしまいがちです。

追加資源による支援の見返りは最も大きいですが、支援が必要ないと思われやすいため、投入済みの必要な資源が、昨日の主力製品や独善的製品に振り替えられられてしまうこともあります。下手をすると、餓死させられます。

生産的特殊製品

限定された特殊な市場を持つ製品です。量産品の副産物的な存在ですが、真の機能を持ち市場でリーダーシップを持ちます。

製品別純利益はかなり大きく、コストはかなり低いことが特徴です。

資源はあまり投入されていません。

開発製品

市場に導入中の製品で、開発中(導入前)ということではありません。見通しは分かりませんが、潜在成長力は期待されます。

マネジメントの独善的製品にならないように注意することが必要です。

支援としては、マネジメント、技術、販売・サービスの各分野で最高の人材を割り当てる必要があります。人数はごく少数にする必要がありますが、現在あげている利益によって正当化されるよりは多くの人材を割り当てても構いません。

失敗製品

診断や処置を必要としないような、明らかな問題製品です。痛みは大きく、危険ではありますが、独善的製品でなければ、はっきりと失敗だと分かりますので、速やかに回復できます。

昨日の主力製品

ピークをすでに過ぎ、陳腐化しつつある製品です。

売上は大きいことが多いですが、利益には貢献できなくなっています。売上に比べて利益が小さく、生き延びさせるために必要な作業量が増加しています。

企業を支えてきた製品であり、皆に愛されているがゆえに、支援のための資源が集中して投入されています。

価格の引き下げ、強力な広告宣伝と営業活動、特に小口の顧客に対する特別サービスなどによって市場に居残っているにすぎませんので、割に合わない膨大なエネルギーが必要となっています。

手直し用製品

もともと間違いのあった製品です。マネジメントが不十分であったため、手直しが必要な欠陥を一つだけ持っています。

手直しによって売上が大きく伸びるなら、大きな利益をもたらす量産品、すなわち主力製品にまでなれる製品です。

手直しが必要な欠陥は、ほとんどの場合、製品以外の領域を分析することで見つけることができます。間違った顧客、間違った流通チャネルなどです。

手直し用製品であると言えるために、ドラッカーは厳格な要件を示しています。これらすべてを満たすことが必要です。さもないと、独善的製品を生み出すことになりかねません。

  • 手直しが必要な欠陥が明確であり、その欠陥が現実に大きな利益と成長の機会を奪っていること。
  • 手直しがかなり容易であること。
  • かなりの売上高、大きな成長機会、市場における際立ったリーダーシップの可能性、成長した場合の見返りとしての大きな成果が期待できること。
  • 手直しは一度限りとすること(二度のチャンスは独善的製品を生み出すもとになる)。

仮の特殊製品

主力製品として成功するかもしれないのに、特殊製品として扱っている製品です。

顧客や市場の一つのニーズに応えることができる製品が複数あるような場合です。別々の特定の目的のためであるふりをしながら、技術進歩があったとき、その同じ技術を特殊製品すべてに対してそのまま適用できるようであれば、これに当たる可能性があります。通常の量産品となる可能性があるからです。

ただし、売上や利益や成長のための本当の機会があることが前提です。そうでなければ、次の非生産的特殊製品です。

非生産的特殊製品

顧客が代価を払おうと思わないような無意味な差別化を行っている製品です。利益があがらず、利益流失の原因にさえなります。

その証拠は、売れないことです。売れても顧客の気に入らないため、苦情が多く、アフターサービスのための訪問が多くなっています。

社内の弁解が多いことも特徴です。「この製品がなければ量産品の注文が来ない」などと言われがちですが、もしそうであれば、独立した製品ではなく、セットものの販促品でしかありません。

通常、弁解の根拠はなく、押し売りしているだけの可能性があります。現に、量産品を買っている顧客のほとんどは、その製品を買っていません。

不相応に資源を使って支援されていることがほとんどです。新製品のふりをしなければ生き残れないため、常に改善とモデル変更が必要になっています。

独善的製品

当然成功すべきと期待されているにもかかわらず、成功していない製品です。明日には成功すると信じられていますが、実現しません。

企業のあらゆる分析が期待を裏付けているように見えていますが、売れないということ自体が顧客の答えです。

多額の投資をしてきたため、マネジメントが現実を直視できなくなっていることが原因です。資源を投入すれば見通しがよくなるという幻想に取りつかれ、期待に応えてくれないほど、さらに資源を注ぎ込むという状態になっています。

「一度で成功しなければ何度でもやり直せ」という格言が一般化していますが、ドラッカーの格言は「一度で成功しなければ、一度だけやり直せ。次はほかのことをせよ」です。成功の確率は、回数を重ねる度に小さくなるからです。

独善的製品に共通の傾向としては、

  • この製品こそ成功に相応しく、適正な価格をつけられるに相応しいというマネジメントの考え
  • 特に新製品の場合には、最高の品質だから成功間違いなしという考え

があることを、ドラッカーは指摘しています。

新製品が成功する確率は20%であり、大成功を収める確率が1%、ままあの成功を収める確率が19%であると言います。

失敗する確率も同様に20%であり、目を見張る失敗をする確率が1%、通常の失敗確率が19%であると言います。

問題は、残り60%を占めるどちらとも言えない製品です。これが独善的製品になりやすいため、常に廃棄していかなければならないと言います。

新製品が独善的製品にならないようにするためには、厳格な方針が必要です。

  • あらゆる新製品について、期待に応えるべき時限を設定すること
  • 時限は、大きな前進があった場合にのみ延長できるものとすること
  • 時限の延長後、期待に応えられなければ、再度の延長は行わないこと

シンデレラ製品あるいは睡眠製品

チャンスを与えればうまく行くかもしれない製品です。

資源の投入による支援を欠いているのに、予想以上の業績をあげていることが兆候です。支援の強化、特に配属すべき人材の質を上げることが必要です。

チャンスが与えられていない理由は、利益率と利益が同一視されていることです。利益率が低いために軽視されていますが、数多く売れるなら利益は大きくなることが忘れられています。

正しい利益、コストの算出が必要です。

マネジメントお気に入りの主力製品と競合しているために冷たくされていることもあります。最悪の場合、競合がその製品を拾い上げて成功し、当の会社の主力商品を駆逐してしまうことになります。

変化を知るための原則

分類することによって、暫定的な診断や対処ができますが、それだけでは不十分です。製品は必ず陳腐化しますので、変化の兆候を知ることが、更に重要になります。

新製品の期待の記録

新製品に対しては、事前の期待を必ず書き留めておくことが必要です。人の記憶は都合の良いように変わるからです。後付けで勝手に解釈したり、自分に都合の良いように解釈したりします。

期待と業績の比較

分類に従って、衰退に向かっての変化を見極めます。

  • 明日の主力製品から今日の主力製品への変化
  • 今日の主力製品から昨日の主力製品への変化
  • 開発製品の独善的製品への変化

期待に比べて低い業績を把握することによって、独善的製品や非生産的特殊製品を見極めます。

逆に、期待を超えた業績を把握することによって、シンデレラ製品や睡眠製品を見極めます。

予期したものと違う結果が出るようになったら類型が変化している兆候ですから、必ず分析しなければなりません。

増分分析

ここで言う増分分析は、成長のために要する追加コストの増分を分析することです。

製品の寿命は千差万別ですが、ライフサイクルは共通です。投入の増分から得られる算出の増分がどのように変化するかを把握して、製品ライフサイクルの観点から類型の変化を見極めます。

幼児期(導入期)には、大量の資源を必要とし、見返りはありません。

青年期(成長期)では、投入資源の数倍の見返りを受けます。

成熟期には、資源の追加投入に対する見返りは急速に減少します。今日の主力製品に入ります。今日の主力商品になったことを知る目安は、

「投入の増分から得られる算出の増分が減少を始めた時点」

です。ここが最適点になりますので、投入の増加をやめ、同量の投入をし続けます。

この目安は、製品にかかわらず、企業全体や産業全体にとっても最初の最も重大な危険信号です。

成長のためのコスト増分が、得られる利益の増分と同額になり、さらに超過するようになると、昨日の主力製品です。老年期に当たります。

独善的製品の場合は、幼年期から老年期に直行します。

ドラッカーによれば、増分分析はマネジメントにとって応用範囲が広く、非常に重要な分析手法です。企業についての暫定的な診断は、昨日の評価から、明日の予測と予防のための手段へと変わると言います。