事業において業績をもたらす3つの領域について、利益、コスト、資源の現状と見通しを分析します。
分析方法は、3つの領域に対して概ね共通に活用することができますので、ここでは製品を題材にして分析方法を説明しています。
具体的には、製品ごとの利益、コスト、資源を算出し、事業全体との関連において比較することにより、事業への貢献度を評価します。さらに、製品ごとの趨勢から見通しを評価します。
重要な2つの意思決定
製品の定義
分析の単位となる製品を定義します。
単体としての製品、他の製品の付属品や販促品、セット商品などがあります。
間接費の配賦基準としての作業の種類の決定
コストは業績と無関係であり、作業量に比例します。
会計上の原価計算基準では、間接費は直接費または売上高に比例して発生するという前提ですから、間接費の正確な配賦には利用できません。
それぞれの製品に必要とされる活動の内容によって、間接費を事実上決定していると考えられる作業の種類を選びます。
なお、ここで言う間接費は、固定費を除くものとします。
具体的な決定方法は定式化されていません。この決定自体が高度のリスクを伴う純粋に事業上の意思決定であり、マネジメントの意思決定です。
意見の違いはむしろ歓迎されます。問題の所在を明らかにするからです。違う尺度で結果が異なるなら、それ自体が重要な情報になります。
作業の決定は、事業分析の一部です。事業は作業のシステムであるとの認識が必要であり、事業そのものの経済的な特性を理解するうえでの大きな一歩となります。
手に入る既存の数字で間に合わそうとしてはいけません。ましてや、経理の都合などで決めてはいけません。
具体例をあげると、メーカーであれば、製品の送り状の数、出荷件数(送り状に複数の製品が記載されている場合)などが考えられます。
百貨店なら来店客数、情報システム開発であれば注文に至るまでの見積書の数などが考えられます。
作業がいくつかの大きな単位としてまとまっている事業については、それらの作業コストを全体として計上します。例えば、一隻の船は、満載であるかどうかにかかわらず、全体を運行させなければなりません。パルプや化学品などのプロセス生産のラインも、全体を稼働させるか停止させるかのいずれかです。
なお、作業に着目したコスト計算には、現在、ABC(Activity Based Costing = 活動基準原価計算)が確立されていますので、これをもとに、さらに詳細な分析を行うことが可能です。
付加価値の利用
製品別の純利益やコストの計算には、付加価値(総売上高や総コストから外部調達の原材料費と部品費を引いた数字)を使います。外部購入費(変動費)の比率は製品によって異なるからです。
先に述べたとおり、固定費も除外します。ただし、固定費が高率の場合は、別途、ABCによるコスト配分が必要です。
利益は、利益率だけで評価することはできません。回転率(製造単位数、販売単位数)も考慮する必要があります。製造や販売は無限にできるわけではなく、設備や原材料などの都合で、製品によって違った制約がかかる場合があるからです。
当然のことのようですが、回転率は意外と忘れられやすく、利益率だけが考慮されやすいので注意を要します。
指標の定義
分析に用いる指標を定義しておきます。ドラッカーが『創造する経営者』で用いている指標です。これらの指標を比較して、製品ごとの業績貢献度を評価します。
- 純売上高=総売上高-原材料費
- 総企業利益(処分可能利益)=純売上高-固定費
- 製品別売上総利益=総企業利益×(製品別純売上高÷純売上高)
- 製品別配分コスト=(総コスト-原材料費-固定費)×(製品別作業量÷企業全体作業量)
- 製品別貢献利益=製品別売上総利益-製品別配分コスト
- 製品別貢献利益割合=製品別貢献利益÷全社法人税控除前純利益
- 製品別貢献利益係数=製品別売上総利益100万ドルあたりの製品別貢献利益割合
部品の購入や外注がある場合は、「原材料費」に含めるべきでしょう。
最後の指標は、ある製品の売上が増加したときの業績全体への影響を知るための簡易的な指標です。「100万ドル」の部分は、自社の売上規模に応じて異なる数字に置き換えます。
市場における製品のリーダーシップ
製品のリーダーシップとは、市場や顧客のニーズに最も適合しているということを意味します。顧客が喜んで対価を支払ってくれるということです。
市場シェアによる判断は間違いです。市場シェアの優位によって、あらゆる領域において事業を行おうとする意識が働き、利益よりコストをもたらしがちだからです。
小さな特化した企業だけが、時として、自らのあらゆる製品とサービス、あらゆる市場と最終用途、あらゆる顧客と流通チャネルに関して、リーダーシップを握ることができます。
市場が大きくなると、経済学的には、競合の多数乱立による自由競争が促進されると言われますが、実態は、少数による寡占に至ります。なぜなら、市場が大きくなると、国内全域を対象として販売しなければならなくなるため、巨額資本が必要になり、参入障壁になるからです。
競合が増え、ブランドが乱立すると、次のような弊害が出るため、流通チャネルにおいてもブランド数を制限しようとします。
- 消費者が混乱し、購入意欲を落とす。
- 在庫が増える。
- 修理のサービスを難しくする。
- キャンペーン費用が増え、効果が上がらなくなる。
流通チャネルは、人気のないブランドに努力の上乗せを求めるようになります。値引き、融資、販促費、中古品の下取りなどの要求が強くなります。
景気が後退すると、流通チャネルは、人気のないブランドから先に切り始めます。
結局、特色ある差別化された製品がリーダーシップを握ります。市場が小さいときに差別化商品が力を持つことはありませんが、市場が拡大し、商品が広く出回ることによって、商品差別化の機会が生まれます。
リーダーシップの分析では、他の製品に優先して、あるいは少なくとも同程度に求められて購入されているかを問います。顧客に購入させるには、特別のアフターサービスを提供しなければならないかもしれません。
顧客からの代価として最小限必要な平均的な利益を得ていること、製品の特性に見合う代価を受けていることも必要です。
知らないリーダーシップや特性が隠されていることもあります。
際立った特性がなく、市場でリーダーシップを握っているという確証がないなら、売上や利益が順調なうちに手を打たなければなりません。
製品の将来性の評価
製品の現状ととともに、趨勢を分析し、将来の見通しを評価します。
これもリスクを伴う重大な意思決定となりますから、意見の対立を十分に生かすことが必要です。
基幹的な資源の配分についての分析
基幹的な資源とは、知識と資金です。
知識とは、購買、販売、アフターサービス、技術、マネジメントの人材を意味します。強力な企業と弱体な企業を分けるものです。
帳簿上は同じ額でも、資源の質と用途や目的によって、将来の経済的意味は全く違います。
製品ごとに、これらの資源の配分を分析し、機会(将来性のある製品)と問題(衰退製品)のいずれに使われているか、重要かつ将来性のある機会に対して使われているかを評価します。
特に、比較的短期間に動かせる資源の配分に注意する必要があります。
高額な設備投資など動かしにくい資源には慎重な意思決定が行われますが、動かしやすい資源ほど間違って管理されやすいからです。
知識労働者は動かしやすい資源です。重要な新製品を設計している優秀な技術者を、古い製品の手直しに配置換えしたりします。
運転資金も同様です。うまく行っている新製品の販促費の一部を、陳腐化している古い製品のための特別キャンペーンに振り替えたりします。失敗して売れていない製品に、広告費を重点的に配分することもあります。
いずれも間違った管理であり、事業全体の業績に大きな違いをもたらします。