企業の現実

企業の目的は「顧客の創造」であり、そのために必要な機能は、マーケティングとイノベーションです。そして、その目的の達成度を測る尺度としての成果は、市場で顧客が与える評価であり、顧客が支払う報酬です。

企業が実際に成果をあげていくためには、企業の成果や資源と活動に関するいくつかの現実を受け入れるところから始める必要があります。

そのうえで自社の現状を分析し、適切な戦略に基づいて、資源と活動を集中的に配分しなければなりません。

企業や事業によっては、すべてが当てはまるわけではないでしょうが、事実に基づき分析し、検証しなければなりません。

ただし、基づくべき事実についても、判断を必要とすることを忘れてはいけません。意見の対立を重視し、意見の対立や判断に関わる問題を明確にすること(正しい問い)が重要です。

成果と資源は企業の外にある

企業の成果を決めるのは、企業の外にいる顧客です。企業が提供する財やサービスを購入するかどうかを決めるのは顧客だからです。

企業の内部にはコストしかありません。顧客だけが利益をもたらします。

成果を生み出す経営資源もまた、そのほとんどが企業の外にあります。資金や機械設備などは市場で手に入れることができます。知識も普遍的で社会的な資源であり、特定の企業の中に抱え込めるものではありません。

企業に競争優位性をもたらす唯一の資源は、知識を活用する能力です。知識を活用する能力もまた、いずれ知識として社会で共有されていくことを妨げることはできません。

成果は機会によって得られる

問題解決は、マイナスをゼロに戻すことです。効率であり、成果ではありません。せいぜい成果をあげるための妨げを取り除くだけです。

成果は、機会を最大限に活用できた場合にだけ得ることができます。

問題を解決して現在の仕事を適切に行うことよりも、なすべき重要な仕事を見つけ、資源と活動を集中させることによって、機会を最大化することが必要です。

成果は市場におけるリーダーシップによってもたらされる

成果とは、市場で顧客が与える評価であり、顧客が支払う報酬です。

意味ある分野において、差別化された独自の貢献を行うことによって、顧客の評価が得られます。独自の貢献こそが、顧客がその企業に対価を支払う価値です。

それは、その企業がリーダー的な地位にあることを意味します。

リーダー的な地位とは、会社の規模や技術力などの能力でトップにあることとは違います。特定の分野、特定の顧客ニーズ、技術の特定の応用において実際にリーダーシップを握っているということです。

いくら有能であっても、その能力を効果的な部分に集中して適用しなければ、独自の貢献はできず、リーダーシップを握ることはできません。

リーダーシップは短命である

市場や知識は企業の外にあり、企業のコントロールを超えた変化の中にあるものですから、どのようなリーダーシップもいずれは失われていきます。

したかって、常に変化の中に生じる機会に事業の焦点を合わせ、リーダーシップを作り直さなければなりません。

既存のものは古くなる

現在の事業のほとんどは、過去の意思決定に基づいて行われています。

意思決定を行った時点での前提や期待、価値観によって、現在の仕事が行われています。

ですから、過去の基準が現在の仕事の正常を測る基準になり、変化の兆候を異常として退けてしまいがちです。

未来は予測できず、予測したとおりに起こることはありません。

既存のものは必ず古くなることを前提に、新しい現実をとらえて、すべての前提を変化させなければなりません。

資源は誤って配分されている

人の活動は自然現象と違い、正規分布を示しません。必ず、大きな偏りを生みます。いわゆるパレートの法則です。

パレートの法則は80:20が基本ですが、ドラッカーによると、一方の極の10~20%というごく少数のトップの事象が成果の90%を占め、残りの大多数の事象は成果の10%を占めるにすぎないと言います。

具体的に言うと、少数の顧客によって受注の大半を占め、製品群の中のごく少数の品目によって売上の大半を占めています。また、問題の大半は特定の場所や特定の社員が起こします。

この仮説から、ドラッカーは重要な指摘をしています。

  1. 業績上位10%が 業績の90%を生み、業績下位90%がコストの90%を生む。
    • 業績とコストは関係ない。
    • コストは作業量に比例する。
  2. 資源と活動の大半は、業績にほとんど貢献しない90%の作業に使われる。
    • 資源と活動は、業績ではなく作業量に応じて割り当てられる。
    • 最も高価で生産的な資源が、最も誤って配置される。

利益の流れとコストの流れは同量ではありません。大半の資源や活動は業績をほとんど生まない作業に費やされ、コストの大半を生み出しています。

「コストをかけているから良い仕事につながり、高い利益をもたらしている」という一般的な認識は、現実と異なっています。

ですから、事業全体を見て、資源や活動がどのように製品、市場、顧客、用途、流通に割り当てられているかを調べ、常に、資源や活動の方向づけと配分を比較検討しなければなりません。

業績の鍵は集中である

業績をあげるには、大きな利益を生む少数の製品やサービス、顧客、市場、流通に集中しなければなりません。

コストの改善が業績に大きく影響する数少ない分野、すなわち、わずかな能率向上が大きく業績を改善する分野に仕事と労力を集中させることでもあります。

一律なコスト削減を行う例は多いですが、効果は低いと言わざるを得ません。コストが最も発生している分野に集中する必要があります。コスト削減について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。