マネジメント・チームの必要性

ドラッカーは、大企業の事例を基に、マネジメント・チームの必要性を論じています。

成長する企業は、ある時点で機能不全に陥り、管理不能な状態になります。その復活には「マネジメント・チーム」の存在がありました。

機能不全は企業に質的な変化を求めていることの徴候です。質的な変化は自然にできるものではありません。考え方を転換し、具体的な行動を起こすことによって、組織を生まれかわらせなければなりません。

ドラッカーは、その質的な変化の前を「昆虫」に、変化の後を「脊椎動物」に喩えています。

大企業の失敗

ドラッカーは、次の4つの大企業の事例をあげて、マネジメント・チームを持つことの必要性を指摘しています。

  • フォード
  • ジーメンス
  • 三菱
  • GM

GMを除き、創業者が小さな会社からスタートし、成長させましたが、ある時点で機能不全に陥りました。

経営者の性格や資質は様々でしたが、共通していた考え方は、「オーナー兼企業家とその助手で十分と信じていた」ことでした。オーナー兼企業家以外、権限を持つ者は必要ないと信じていました。

しかし、いつしか方向性を失い、管理不能状態に陥ったのです。

復活したのは、次の代に至ってからでした。共通していたことは、「マネジメント・チーム」を導入したことです。

GMは少し成り立ちが違っていました。フォードとの競争に負けた小さな自動車会社が合併してできた会社でした。旧オーナーたちによる完全な自治が許されており、自己流で勝手にマネジメントしている状態だったのです。

GMの社長は、アルフレッド・P・スローン・ジュニアでした。彼は、事業は何か、組織構造はいかなるものでなければならないかを考え、一つのトップマネジメント・チームを組織しました。

質的な変化

それまで順調に成長してきた企業が、ある時期を境に突然機能不全に陥りました。その時点で「質の変化」が生じたからだと、ドラッカーは指摘します。

変化が生じる前の状態(フォードが運営した企業)と、質的な変化が生じてそれに対応した状態(スローンが設計した企業)を、ドラッカーは昆虫と脊椎動物に喩えます。

フォードが運営した企業、すなわち変化が生じる前の状態は、いわば硬い丈夫な皮膚で支えられた昆虫です。「オーナー兼企業家」という硬い皮膚に覆われていますが、ある一定の大きさと複雑さ以上には成長できません。

スローンが設計した企業、すなわち質的な変化に対応した状態は、「マネジメント・チーム」という骨格で支えられた脊椎動物に喩えられます。骨と関節のつなぎ合わせによって、大きい状態に対応することができます。

マネジメント・チームは自然発生しない

皮膚と骨格は、発生源の異なる異質の器官であり、皮膚が骨格に進化することはありません。

要するに、小さな企業が成長する過程で、自然にマネジメント・チームが形づくられることはありません。自然な改善ではなく、質的な変化です。考え方を変え、意識的に形作る必要があります。

マネジメントは、初めから複雑な大企業のためのものとして生まれました。ドラッカーによると、始まりはアメリカの鉄道会社だそうです。

小企業から成長した企業に移植されるまでに30〜40年かかりました。小企業からの成長で、マネジメント・チームが自然に生まれるものでないことは明らかです。

マネジメント・チームを生み出す発想

企業の中に答えはありません。小企業が成長する過程で、企業の中を探しても分かりません。企業の外から見る必要があります。スローンの発想が必要です。

コンセプト、原理、ビジョンを変えない限り、起こしようのない変化です。顧客の欲求を起点に「事業が何か」を問い、それに必要な組織構造を考える必要があるのです。

質の変化が起こるとき

ドラッカーは、従業員規模でいうと「300〜1000人の間のどこか」で質の変化が起こると言います。ただし、重要なのは規模ではなく「複雑さ」であるとも言います。

つまり、複数の人間が協力して、意志を疎通させつつ多様な課題を同時に遂行する必要が出てきたときに、組織はマネジメント・チームを必要とすると言います。

このような状態になったときにマネジメント・チームを欠くと、組織は管理不能となり、計画は実行に移されなくなります。

最悪の場合、計画の各部分が、それぞれ勝手なときに、勝手な速度で、勝手な目的と目標のもとに遂行されるようになってしまいます。