既存企業における企業家精神

企業家精神とは、体系的な仕事であり、それを生み出す姿勢と行動です。したがって、企業家精神は生来の資質ではなく、学ぶことができるものです。

トップマネジメントの個性や性格とも直接関係ありません。小企業でトップマネジメントが企業家精神を発揮したとしても、そのトップマネジメントがいなくなれば、企業家精神は維持できません。

企業家精神は、マネジメントすることによって、組織に浸透させ、定着させなければなりません。明確な意思と努力、規律によって、具体的な政策や方針、制度を整備し、実行し続けることが必要です。

企業家精神の条件

企業家精神に関する通説には、「企業家精神は小企業でこそ発揮されるものであり、大企業はイノベーションを生むことができない」というものがあります。

しかしながら、イノベーションに成功し続けている大企業は存在します。ドラッカーは、ジョンソン&ジョンソン、3M、シティバンク、ASEA、ヘキストなどを成功例としてあげています。

大企業がイノベーションを生まないという誤解には、イノベーションに対する根本的な誤りがあると言います。イノベーションと企業家精神は、自然の衝動、自然の創造、自然の行動であり、大組織の官僚的・保守的体質が、その自然を抑えてしまうという考え方です。

企業家精神は仕事

イノベーションや企業家精神は、自然のものではなく、創造でもありません。それはなすべき仕事です。体系的な仕事であり、それを生み出す姿勢と行動です。

トップマネジメントの個性や姿勢が問題にされることもよくあります。確かに、トップマネジメントが社内の企業家精神を殺したり、やる気をそぐことは簡単です。だからといって、トップマネジメントの個性や姿勢が、企業家的な事業を生み出すことに直接つながるわけではありません。

たとえイノベーションで成功した創業者であっても、その後、企業家としてマネジメントしなければ、すぐに企業家精神は失われます。

意識的な努力や継続的な学びが必要です。企業家精神の発揮を組織の一人ひとりの責務とし、そのための規律を課すことが必要です。

企業家精神の障害は既存事業

大組織が官僚的・保守的体質を生むという考えも正しくありません。そのような体質は中小企業においても存在し、規模が小さいほど問題となります。

官僚的・保守的体質を生むものは、組織の大きさではなく、既存の事業です。特に成功している事業です。成功した事業に合わせて組織の仕組みは最適化され、固定的なものとされ、標準とされるからです。

現在健全であること自体が、それを守り、変化を脅威とする姿勢をつくりがちです。既存事業は常に優先されます。既存事業で生じる問題の処理が、最大の優先事項になりがちです。

新事業は、業績において既存事業に及びません。常に小さく、取るに足りず、将来性は不確実です。成功するイノベーションは、小さく、シンプルにスタートし、リードタイムも長くなります。

多くの企業では、10年後には、売上の90%は新製品からもたらされるという意見もありますが、ドラッカーは、誇張にすぎないと言います。

現在成功している製品等をもっている企業は、10年後も収益の3/4をそれらの製品等、あるいはその延長線上の製品等から得ている可能性が大きいと言います。

なぜなら、既存の製品等は、改善され、手直しされ、市場と最終用途が拡大されることによって収益が継続しますが、新製品はリードタイムが長く、簡単には収益をもたらさないからです。

そもそも、既存の製品等が継続的に収益をあげてくれなければ、イノベーションに必要な投資もできなくなります。

4つの条件

既存企業は、どうしても既存の事業を優先し、日常の危機の解決や、既存製品の改良による若干の収益増へ、生産資源を振り向けてしまいがちです。

ですから、既存の事業を障害とすることなくイノベーションに成功するためには、特別の努力が必要になります。

  1. イノベーションを受け入れ、変化を脅威でなく機会とみなす組織をつくること(企業家的な環境を整えるための経営政策と具体的な方策)
  2. イノベーションの成果を体系的に測定し、あるいは評価すること
  3. 組織、人事、報酬について、既存事業とは異なる特別の措置を講じること
  4. いくつかのタブーを理解すること

経営政策

組織のすべての人々が、イノベーションを当たり前のこととし、それを望み、その実現のために働くようにするための経営政策が必要です。

  • イノベーションを異質のものとせず、日常的な仕事の一つととらえられるようにする。
  • イノベーションを既存の事業よりも魅力的かつ有益なものととらえられるようにする。
  • イノベーションこそ、組織を維持・発展させるための最高の手段であり、一人ひとりの成功にとって最も確実な基盤であることを周知させる。
  • イノベーションの必要度を明らかにし、具体的な目標のもとに計画を立てる。

企業家精神のための経営政策は、4つの段階からなります。

第1段階:廃棄の制度化

すでに活力を失ったもの、陳腐化したもの、生産的でなくなったものの廃棄を制度化します。あらゆる製品やサービス、活動、技術、市場、流通チャネルについて、3年以内ごとに判定します。

  • もし今、手がけていなかったとして、今から手がけるか。
  • 手がけないとすれば、どうやって手を引くか。

手を引く方法として、ドラッカーは次の3つを提案しています。

  1. 新たな努力は一切やめ、利益を生む間だけ維持する(キャッシュカウ)。
  2. 新しい製品や方法、新しい市場に展開するための踏み台として利用する。
  3. 廃棄する。

大事なことは、イノベーションのためにエネルギーを解放することです。有能な人材、稀少な資源を自由にすることです。

廃棄を原則とすることによって、誰もが進んで新しいものを求め、企業家精神をかき立て、自ら企業家となる必要を受け入れることができるようになります。

廃棄の判断をしなかったり、曖昧にしたりすれば、必ず、既存事業が優先され、いつまでも存続し続けます。ですから、廃棄の制度化が真っ先に必要です。

第2段階:事業の分析

製品、サービス、市場、流通チャネル、工程、技術にはいずれもライフサイクルがあることを前提として現状を把握します。

これらを、業績上の寄与、特性、寿命によって分類します。これによって、今も有望な既存の事業が、新しい事業の犠牲にならないようにします。既存の事業とイノベーションの資源配分のバランスをとれるようになります。

イノベーションを重視するあまり、既存の事業を見境なく廃棄しようとしてはいけません。イノベーションは失敗の可能性が高く、収益化にも時間がかかります。だからこそ、既存の事業の収益が十分でなければ、イノベーションに積極的に取り組むことができません。

大切なことは、破棄すべきもの、資源を制限すべきもの、資源を増やすべきもの、イノベーションの機会を体系的に見極め、分類することです。そのために分析が必要になります。

ただし、分析から得られるものは診断にすぎません。正しい問いを知るための道具であって、答えを得ることはできません。知識、経験による判断、すなわちリスクを伴う意思決定が必要です。

第3段階:イノベーションの必要度の把握

どのようなイノベーションを、どのような領域で、いつまでに行う必要があるかを明らかにします。

先に、製品、サービス、市場、流通チャネルを列挙し、それぞれがライフサイクルのどこに位置しているかを分析しましたので、それをもとに、次の点を検討します。

  • あとどれだけの期間、成長するか。
  • あとどれだけの期間、市場にあり続けるか。
  • いつ成熟し、衰退していくか。
  • どれくらいの速さで陳腐化するか。

次に、既存の事業にのみ限定して最善を尽くしていった場合、企業全体がやがてどのような状態になるかを明らかにします。

さらに、売上、市場シェア、収益性について、現実に起こるであろうものと目標とのギャップを明らかにします。最後に、既存事業が陳腐化する前に、イノベーションでギャップを埋めるべく検討します。

イノベーションは不確実です。失敗の可能性は大きく、最後の段階になって必ず問題や遅れが出ます。ですから、ドラッカーは、必要な規模の3倍以上の成果目標を設定すべきと言います。

なお、既存事業が陳腐化する前にイノベーションでギャップを埋めようとする点が大切です。イノベーションによって既存事業の陳腐化が加速されることがありますが、陳腐化することが分かっているのなら、競争相手によってではなく、自ら陳腐化させるべきです。競争相手の製品やサービスに置き換えられてしまったら、市場シェアを落としてしうからです。

第4段階:計画の策定

廃棄の制度化、既存事業の分析、イノベーションの必要度の把握に基づいて、次の内容に関する計画を立てます。

  • イノベーションの目標
  • 実績のある人材の配置
  • 必要な道具、資金、情報の明確化
  • 明確な期限

具体的方策

機会に集中

マネジメントの目を機会に集中させることが必要です。

ほとんどのマネジメントは、常に既存事業の問題が提示され、その対策に大半の時間をとられています。提示される業務報告の第1ページには、業績が計画を下回った分野、不足した分野、問題のある分野が示されます。機会を目にすることはほとんどありません。

ですから、ドラッカーは、マネジメントへの業務報告には、第1ページを2つ付けるべきであると提案します。1つは問題を列挙したものですが、もう1つは業績が期待や計画を上回った分野を列挙したものです。予期せぬ成功の情報です。予期せぬ成功が、最も優先度の高いイノベーションの機会の兆候だからです。

ところが、予期せぬ成功は、成功であるために議論するのは時間の無駄だと考えられがちです。その結果、競合に難なく機会を奪われることになります。

ドラッカーは、予期せぬ成功が十分に議論されるよう、2つの会議を開くことを提案しています。問題に集中する会議と機会に集中する会議です。それぞれの会議の日を分けて、例えば月に1回ずつ開催する方法があります。

機会に集中する会議では、実際に機会を見つけることができますが、より重要なことは、機会を探す癖が企業家的な姿勢を育てることにつながるという点であると言います。

優れた独自の仕事ができる人や部門を常に探し、脚光を当てることが大切です。

  • 何をして成功したか。
  • 他の人がしていない何をしたか。
  • 他の人がしている何をしなかったか。

を問います。

ドラッカーは、ある企業で実践されている半年に1回の戦略会議を紹介しています。成功事例に関して、次の点を担当マネジメントに報告させていると言います。

  • 何を行ったか。
  • どのようにして機会を見つけたか。
  • 何を学んだか。
  • 現在、どのようなイノベーションの計画を持っているか。

実際の成功事例を学ぶことはもとより、参加者の姿勢や価値観に与える影響の方が大きいと言います。

若手との会合

トップマネジメント自らが、研究開発、エンジニアリング、製造、マーケティング、会計などの部門の若手と定期的に会うことが必要です。そこでは聞くことに徹します。

  • この会社のどこにチャンスがあるか。
  • この会社のどこに問題があるか。
  • 新事業、新製品、新市場についてどう考えるか。
  • わが社、わが社の方針、業界や技術や市場におけるわが社の地位について、聞きたいことはあるか。

トップマネジメント一人につき、年2~3回も実施すればよいと言います。

この効果は大きく、若手が狭い専門分野から離れ、企業全体を見る機会を得ることができます。トップマネジメントが何に関心をもち、それがなぜであるかを理解できるようになります。

トップの側も、若手の価値観、ビジョン、関心を理解できるようになります。

何より、会社全体に企業家的なものの見方を浸透させることができます。

ただし、これを実行する場合に、ドラッカーは1つのルールを提示しています。製品やプロセス、市場やサービスについて何か新しいこと、新しい仕事の仕方を提案した者には、提案の具体化について責任をもたせるというルールです。期日を定め、会合を主宰したトップと参加者全員に対し、提案の具体化について報告させます。

  • その提案を実施すると何が起こるか。
  • 提案が意味を持つためには何をしなければならないか。
  • 顧客や市場について何を前提としているか。
  • どれだけの資金と人材が必要か。
  • どれだけの時間が必要か。
  • どのような成果を期待できるか。

このルールによって、組織全体に企業家的なものの見方、イノベーションへの受容性、新しいものへの貪欲さを浸透させることができます。

業績評価

業績評価にイノベーションの成果についての評価を組み込むことが不可欠です。企業家的な成果を評価して初めて、企業家的な行動がもたらされます。人も組織も、期待に沿って行動するからです。

ただし、評価測定の方法については、既存の事業とは異なる方法にしなければなりません。イノベーションの収益パターンは、既存事業と異なるからです。

成果を期待にフィードバック

一つひとつのプロジェクトについて、成果を期待にフィードバックします。そのために、プロジェクトに着手するときは、次の点を考えておくことが必要です。

  • いかなる成果を期待するか。
  • いつまでに期待するか。
  • いつ進捗状況を評価すべきか。

期待を成果にフィードバックすることによって、自らの計画能力と実行能力の質と信頼性、すなわち得意や苦手を知ることができます。

苦手の例としては、次のようなものがあります。

  • 必要な時間を過小評価したり、過大評価したりする傾向
  • 開発研究の規模を過大評価する一方で、製品やプロセスにつなげるうえで必要な資源を過小評価する傾向
  • マーケティングや販売促進の手を抜く傾向

さらに重要なこととして、イノベーションの様々な兆候を知ることができるようになります。

  • 再検討が必要になることを示す兆候は何か。
  • 問題が起こりそうであっても、実際にはうまく行くことを示す兆候は何か。
  • 予想よりも時間がかかることを示す兆候は何か。

イノベーションは不確実性が高いため、これらの兆候はフィードバックによる経験でしか得ることができない貴重な知識です。

成果を期待にフィードバックする経験を繰り返すことによって、イノベーションを評価測定し、判定し、コントロールするために不可欠な知識を得ることができます。

  1. イノベーションのための期間の見積もり
    • 資源の投入のタイミングは、いつが適切か。
    • 最初から人材と資金を大量に投入すべきか、それとも、最初は担当者は1名とし、1~2人の助手を付けるだけにすべきか。
    • いつ規模を拡大するか。
    • いつ、開発段階から利益をあげる事業に発展させるべきか。
  2. 新しい事業を担当する部門と、その管理者の仕事ぶり評価
  3. 推進すべき活動、見直すべき活動、廃棄すべき活動の決定

イノベーションの判定基準に標準解はありませんが、ドラッカーは、いくつかの例を紹介しています。

ある銀行では、海外子会社の設立に関し、次の判断基準を持っています。

  • 少なくとも3年は投資を続ける。
  • 4年目で単年度の収支を合わせる。
  • 6年目の中頃までに投資した資金をすべて回収する。
  • 6年経っても投資を続けなければならないようでは失敗であり、撤退すべきである。

P&Gでは、新製品の投入について、次の判断基準を持っています。

  • 新製品は、開発に着手して2~3年後には市場で売れるようにする。
  • その1年半後にはリーダー的な製品とする。

IBMの新製品投入の基準は、次のようなものです。

  • 新製品は5年で市場に出す。
  • 発売後1年で急成長する。
  • 2年目のかなり早い時期には、市場トップの地位を得て利益をあげる。
  • 3年目の早い時期には資金を回収する。
  • 5年目には売上のピークに達する。
  • 以降はその水準を維持するが、その頃には次の新製品がそれを陳腐化させ始める。

活動全体の定期点検

イノベーションに関わる活動について、個別ではなく全体を定期的に点検していくことも必要です。数年ごとに評価します。

  • どのイノベーションに力を入れ、推進するか。
  • どのイノベーションが新しい機会をもたらすか。
  • どのイノベーションが期待どおりに進んでいないか。
  • それらをどうするか。諦めるか、それとも期限付きでさらに努力するか。

自社だけでなく、競争相手のイノベーションについても点検することが効果的です。

成果全体の関連評価

イノベーションの成果全体を、イノベーションに関わる目標、市場における地位、企業全体の業績との関連において評価します。

  • 主な部門のすべてについて、この5年間、わが社を変えるようないかなる貢献を行ったか。
  • 主な部門のすべてについて、これからの5年間、どのような貢献を行うつもりか。
  • イノベーションにおいてリーダーシップをとっているか、維持しているか。

評価に当たっては定量的な測定が望ましいですが、定量化が困難な場合もあります。そのような場合、測定はできませんが、判断は必要です。

なお、イノベーションにおけるリーダーシップとは、基準の設定者として認められていることです。従わされているのではなく、先頭に立っていることです。

組織構造

トップマネジメントだけに企業家精神があるだけでは、イノベーションはうまくいきません。組織で働く一人ひとりが企業家になれる構造が必要です。報酬、報奨、人事を企業家精神に報いるものにします。

既存の事業から分離して組織化

既存の事業は、それに責任をもつ人たちから膨大な時間とエネルギーを奪います。

一方、新事業は、既存の事業と比べるならば、さして期待の持てないつまらないものに見えますから、既存事業に責任をもつ人たちは、イノベーションに関わる活動をすべて手遅れになるほど先延ばしにしてしまいます。

既存事業を担当する人たちは、それらの事業の拡大、修正、調整しかできないということが分かっています。能力の問題ではなく、誰もがそうなってしまいます。

ですから、新事業は必ず既存の事業から分離して組織します。できれば、初めから独立した事業としてスタートさせます。

新事業の核となる人はかなり高い地位にあること

トップマネジメントの一人が責任を負うべきです。特定のイノベーションに専任である必要はなく、複数のイノベーションをすべて担当してもよいと言います。技術や市場や製品が異なっていてもよいと言います。直面する問題や必要な意思決定は、同類と見てよいからです。

ただし、明確に仕事として定めることが必要です。通常、上に述べた経営政策、具体的方策、評価についても担当します。

当然、イノベーションの実行に必要な権限と権威をもつことが必要です。研究、生産、財務、マーケティングの専門家を必要なときに必要なだけ動員できなければなりません。実行した結果、見込みがなければ中止させる権限も必要です。

途中の段階までではなく、全面的に責任をもつことも必要です。目標を達成し事業として一本立ちするか、中止になるまでです。

複数のイノベーションを兼任することはできますが、既存の事業に責任をもってはいけません。必ず、既存の事業が優先されるからです。

独自のシステム、ルール、評価基準

既存の事業に適用している会計、人事、報告のシステムとは異なるシステム、ルール、評価基準が必要です。

通常、既存の事業に適用される投資収益率に連動させた報酬システムは有害でさえあります。イノベーションはリードタイムが長く、失敗の確率が高いため、イノベーションの意欲は削がれます。当初の報酬は、新事業を担当する直前の水準に合わせておくことが無難です。

その代わり、将来の利益の一端に直接あずからせるようにします。例えば、成功して事業として発展させたら、担当副社長や事業部長に任命し、相応の地位やボーナスあるいはストックオプションを与える方法があります。新事業の利益の一部を担当者に直接与える方法もあります。

元々失敗の可能性が高い仕事ですから、失敗したことを褒める必要はなくても、失敗を罰してはいけません。たとえ失敗しても、元の仕事、元の報酬に戻れることを保証しておきます。決して、挑戦に罰が伴ってはいけません。挑戦そのものが行われなくなり、企業家精神を醸成することは不可能になります。

人事

人事に当たっては、イノベーションと企業家精神の原理と方法論は学ぶことができるということを大前提としておかなければなりません。

ドラッカーによれば、他の仕事で成果をあげた者は、企業家としての仕事も立派にこなすと言います。既存の事業をマネジメントすることができる者は、イノベーションも行うことができると言います。

個性や性格は関係ありません。あらゆる性格と経歴の人たちが同じように良い仕事をしていると言います。問題は個性ではなく、行動、原理、方法です。学び続け、粘り強く働き、自らを律し、適応する意思です。

新しいものを始めることに興味があっても、その後のマネジメントはしたくないという人も存在します。そのような人は既存の企業に来ることはありませんし、既存の企業で成功することもできません。そのような人を外部から招へいしたとしても、既存の企業の中ではうまく行きません。自社の中で成果を実証済みの人を選ぶ方が先決です。人間関係もうまく行きます。

結局のところ、誰にイノベーションのための部門を担当させるか、彼らが成功した後の処遇をどうするかという問題は、あくまで人物本位で決めるべきです。これは、あらゆる人事にあてはまることです。

  1. 大勢の候補をあげる。
  2. 一人ひとりの実績を調べる。
  3. 一人ひとりについて、一緒に働いたことのある者からヒアリングをする。

やってはいけないこと

上に述べたことと繰り返しになる点もありますが、改めてやってはいけないことを整理します。

企業家的な部門を既存の管理的な部門のもとに置いてはならない

既存事業が優先されることを防ぐためです。

大企業がベンチャーと合弁事業を組もうとてはならない

ベンチャーの企業家は、官僚的、形式的、保守的な大企業の原則、ルール、文化に息を詰まらせてしまいます。

一方、大企業の人は、ベンチャーの企業家の行うことが理解できません。彼らが規律に欠け、粗野で、夢想家に見えてしまいます。

大企業が成功するのは、多くの場合、自らの人材によって新しい事業を手がけたときです。互いに理解し、信頼し合える人たち、仕事の進め方を知っている人たち、パートナーを組める人たちと仕事をしたときです。

ただし、企業全体に企業家精神が浸透していることが前提になります。企業全体がイノベーションを望み、イノベーションに手を伸ばし、イノベーションを必然の機会として見ていることが前提です。

得意分野以外でイノベーションを行おうとしてはならない

イノベーションは多角化であってはいけません。理解していない分野で新しい試みを行うのは難しいからです。

市場や技術について卓越した能力を持つ分野でしかイノベーションはできません。新しいものは必ず問題に直面するため、その事業の分野に精通していなければなりません。

ベンチャーの買収で企業家的になろうとしてはならない

自ら企業家的でない企業がベンチャーを買収してもうまく行きません。

買収先の企業にかなり早い段階でマネジメントを送り込まない限り成功しません。買収された側のトップマネジメントが長くとどまることはほとんどないからです。

買収されたベンチャー側のマネジメントは、新しく親会社となった企業の人たちとは一緒にやっていけないことをすぐに理解します。その逆も同じです。