認識の変化

認識の変化とは、事実そのものの変化ではなく、事実に対する市場や社会の見方の変化です。

認識の変化は個人のレベルでも起こりますが、社会や市場に影響を与えるような大きな変化につながると、製品やサービスの販売動向を大きく変え、新たなニーズや市場を生み出すことにつながります。

ただし、一時的な変化の場合があり、変化の影響を予測することも難しいので、小さく、具体的に始めることが大切です。

認識の変化とは

認識の変化とは、事実に対する市場や社会の見方の変化です。事実そのものの変化ではありません。

ドラッカーは、コップに入った水をたとえに説明しています。コンプの半分の位置まで水が入っている場合に、「半分入っている」という見方と、「半分空である」という見方の違いです。前者は入っている水に着目していますが、後者は空の部分に着目しています。

言い換えると、前者は得られたものに着目しているので満足の感情につながるものですが、後者は足りない部分に着目しているので不満や不安、恐怖の感情と結びつく可能性を持っています。

同じ量の水を説明していながら、受け取り方が全く違うため、社会や市場での人の行動が全く変わってくるというところがポイントです。

認識の変化は個人のレベルでも起こりますが、社会や市場に影響を与えるような大きな変化につながると、製品やサービスの販売動向を大きく変え、新たなニーズや市場を生み出すことにつながります。

ドラッカーは、いくつかの具体例をあげています。

典型的なものは、健康への関心です。先進国では、国民の健康度は著しく高まりました。衛生環境が整備され、医療も進化し、寿命も延びました。ところが、ある時期から、食品の健康への影響、がんの問題など、健康への不安、健康を失う恐怖が増大し始めました。その結果、健康市場が発展しました。

アメリカでの例として、黒人の地位の問題もあげています。大幅に改善されてきたはずですが、中流階級に入れないわずかな者に着目し、逆に怒りが増大していると言います。

消費者の認識の変化として典型的なものとして、自動車があげられます。当初は人の移動手段であり、馬車の代わりでしたが、ある時からステータス・シンボルに変化し、さらにある時からライフスタイルのシンボルに変化しました。

イノベーションの機会

認識の変化は、コップの中の水のたとえのように、量的な事実が変わったわけではなく、それに対する多数の人々の見方が変わったということですから、通常、定量化することはできません。定量化できた時には、イノベーションの時期は過ぎたと言えます。

過去の認識に基づいた企業の報告システムにのぼることもありませんが、製品やサービスの販売に影響が表れることがあります。それは予期せぬ成功や失敗です。これらの背景に、認識の変化が隠れていることがしばしばあると言います。

フォードは、エドセルという車種を中流階級の上位ステータスに位置づけようとして失敗しましたが、その背景にあるライフスタイルへの認識の変化に気づくことができ、速やかに体制を変更して新たな車種で成功しました。

タイミングが重要

認識の変化での問題は、一時的な流行の場合もあり、本当の変化との区別がつきにくいということです。また、変化の影響の結果を予測することもできないと言います。

ただし、理由を説明できなくても、理解や知覚はできます。認識が変化していることを知ることはできます。ですから、認識の変化を利用するイノベーションにはタイミングが重要です。

理由を知ろうとして遅れてはいけませんが、急ぎすぎて一時的な流行に翻弄されてもいけません。そのような場合の方法論は、小さく始めることです。そして、具体的に着手しなければなりません。明確で分かりやすことが大切です。