顧客創造戦略

顧客創造戦略は、他の企業家戦略と違って、イノベーション自体が戦略になります。

他の企業家戦略は、イノベーションの導入の仕方が戦略であり、戦略の実現(目標の達成)にイノベーションを利用するものでした。

しかし、顧客創造戦略は、顧客を創造すること自体が戦略であり、イノベーション自体が顧客を創造するものになります。

製品やサービスは既存のものでも構いません。製品やサービスの効用や価値、経済的な特性を変化させるだけでも顧客を創造するイノベーションになります。

実のところ、この戦略はマーケティングそのものです。顧客にとっての効用、価格、事情、価値からスタートし、それらに対応する戦略だからです。

企業の目的そのものであり、企業にとって当たり前のことでありながら、実行する者があまりに少ないために、いまだ戦略として有効です。

経済学者のデイヴィッド・リカードは、「利益は、賢さの違いからではなく、愚かさの違いから生まれる」と言いました。そこからドラッカーは、

企業家は賢いから成果をあげるのではなく、他の者が何も考えないから、当たり前のことから成果をあげる

と言っています。

効用戦略

効用戦略は、顧客が目的を達成するうえで必要な製品やサービスを提供する戦略です。顧客にとっての真の効用を追求します。

顧客は、自らの欲求やニーズを自由に満足させることができるようになります。

ドラッカーは、例として郵便制度をあげています。当初は、料金受取人払で、距離と重さで計算しており、高額料金であったと言います。その後、距離に関わりなく一律料金とし、前払いで印紙を貼り付ける方式に変わりました。

価格戦略

価格戦略は、供給者が生産するものではなく、顧客が買うものに着目して対価を設定する戦略です。支払いの方法を消費者のニーズと事情に合わせます。顧客にとっての価値に価格を設定すると言い替えることもできます。

例として、ジレットの安全カミソリとゼロックスのコピー機があげられています。いずれも顧客が買っているものに対価を設定しました。ジレットはカミソリではなく髭剃りに、ゼロックスはコピー機ではなくコピーに価格を設定しました。

価格設定には困難を伴いますが、少なくとも、やってはいけない価格設定があることをドラッカーは教えてくれます。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

事情戦略

事情戦略は、顧客の事情に対応する戦略です。顧客にとっての事実を拒否し、変えようとするのではなく、不可避のものとして受け入れます。これはイノベーションの前提です。

企業から見て、時として顧客が合理的に行動しないように見えることがあります。それは企業から見たら不合理であったとしても、顧客にとっては合理的な行動です。顧客の合理性に合わせることが必要です。

例えば、アメリカの電力会社は、政府の決定により、設備の購入はできてもメンテナンス費が払えませんでした。そこで、設備メーカーは設備費にメンテナンス費の分を上乗せした価格設定て販売し、表向きメンテナンス費を無料にしました。

農家が購買力を持たず、収穫機を買えなかったことから、収穫機メーカーは分割払いで購入できるようにしました。今購入資金がなくても、将来の収穫によって支払えるようになりました。

価値戦略

価値戦略とは、企業にとっての製品ではなく、顧客にとっての価値を提供する戦略です。事情戦略の延長に当たります。

例として、機械の潤滑油メーカーは、顧客にとっての価値は潤滑油ではなく機械の稼働であることを発見し、稼働時間の保証を販売することにしました。

椅子メーカーは、顧客が買っているものは椅子ではなく仕事や志気や生産性であることを発見し、椅子の販売からオフィス内設備一式の販売へ、さらに、オフィスレイアウトやオフィス機器に対するアドバイスを販売するようになりました。