悪い戦略の特徴 − ルメルトの戦略論②

リチャード・ルメルト(Richard P. Rumelt)は、戦略論と経営理論の世界的権威で、ストラテジストの中のストラテジストと評されています。

この記事では、『良い戦略、悪い戦略』(GOOD STRATEGY, BAD STRATEGY)および『戦略の要諦』(The Crux: How Leaders Become Strategists)を基に、ルメルトの戦略論を概説します。

悪い戦略をもたらすのは、誤った発想とリーダーシップの欠如です。

目標が多過ぎる一方で、行動に結びつく方針が少なすぎるか、全くありません。多くの経営者は、目標を掲げることだけが自分の仕事だと考え、矛盾する目標や実行不可能な目標を発表しがちです。そのうえ、実行は下に丸投げしてしまうのです。

ルメルトが掲げる悪い戦略の特徴は、次のとおりです。

空虚である

華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与えるものの、内容はありません。

本物の専門知識や知見の特徴は、複雑なことを分かりやすく説明できることにあります。

重大な問題に取り組まない

重大な問題を見ないふりするか、軽度あるいは一時的といった誤った定義をします。

戦略は、本来、困難な課題を克服し、障害物を乗り越えるためのものですから、重大な問題に取り組まない戦略に意味はありません。

目標を戦略と取り違えている

困難な問題を乗り越える筋道を示さずに、単に願望や希望的観測を語っているだけのものが少なくありません。

その多くは財務的な業績目標(売上や利益の目標)であり、予算編成とセットで戦略が自動的に出来上がると誤解しています。

毎年繰り返される計画策定プロセスは、戦略プランニングではありません。財務目標と予算編成では、より上を目指す道筋をつけることはできないからです。

より上を目指すためには、機会を見極めたうえで前進を阻む障害物を見抜き、乗り越える方法を考え、どの道を選ぶのが最も実り多いかを判断し、自社の知識、資源、エネルギーをそこに集中的に投入する方法を設計すること、すなわち戦略の策定が必要です。

機会も、障害物も、変化も、年一回セットになってやってくるわけではありませんから、戦略策定はときに応じて必要になるものです。毎年機械的に行うものではありません。

間違った戦略目標を掲げる

戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるべきものです。これが重大な問題と無関係であったり、実行不可能であったりしては、良い戦略になりません。

悪い戦略では、いろいろなことを詰め込み過ぎ、ごった煮状態の目標が掲げられていることが少なくありません。人も組織もたくさんの野心を持っているものなのです。

悪い戦略では、現実的でない目標も見られます。魔法の杖を振ったように現れる目標は、単なる願望であったり、困難な課題を説明するだけだったりして、その実現または克服の方法が無視されます。

有能なリーダーは場当たり的に目標を追いかけたりせず、優先すべきものを決めます。前に進むために、組織が今実際に直面している状況をじっくり見つめ、たくさんの野心のうちいくつかをふるい落とさなければなりません。そのうえで、社内の各部署が追求すべき下位の目標を設定します。

リーダーになるということは、「誰かが自分の目標を決めてくれる」ポジションから、「組織の目標を自分で決める」ポジションに移ることを意味します。

リーダーは、組織としての理想や価値観や期待を表す「努力目標」あるいは「最終目標」と、戦略実行のための「戦略目標」を明確に区別できなければなりません。

最終目標はある種の枠組みであり、目標から逸脱した行動を排除するという意味で、ゲームのルールのような役割を果たします。リーダーは、最終目標に即して戦略目標を絶えず微調整します。

同時に目指す戦略目標は一つか二つに絞り込み、確実に実現させるために戦略を立てます。一つの目標を達成すると新たな機会が視野に入ってきますので、より高い目標を立てることで前進を続けます。

困難な課題の場合、実現可能な目標に分解し、一度に達成できる目標に限定して段階的に取り組んでいくことになります。