本来の「戦術」とは何か? − 本来の「戦略」と「戦術」②

「戦術」は、元々軍事用語ですが、その意味は、歴史的に様々な人が様々に定義しています。

ここでは、その才能と努力をもって戦争の本質の解明に終始努力し、それに最も成功していると称されるカール・フォン・クラウゼヴィッツの著書『戦争論』に基づいて、「戦術」とは何かを説明してみたいと思います。

「戦術」の定義

「戦術」とは、戦闘における戦闘力の使用に関する規範であり、個々の戦闘を形づくることです。

戦術の目的は戦闘で勝利することであり、端的には、敵が戦場から撤退することをもって勝利の証とします。

ただし、何をもって勝利とするかは戦闘の目的によって左右され、その目的は戦略によって与えられます。

戦術の手段は、戦闘を遂行するために訓練された戦闘力です。

戦闘

戦闘は、戦争における本来の行動であり、それ自体およびその物質的・精神的な効果が戦争全体を表現します。その他すべては、戦闘を遂行するための手段に過ぎません。

戦闘の構造、すなわち戦闘を構成する様々な要素やその関係は、戦術的な性格を持っています。つまり、戦術が、戦闘の内容を決定し、勝利に導く役割を担います。

戦闘は、敵対する戦闘力同士の闘争であり、その端的な目的は、敵の撃滅または征服です。

ただし、戦争の最終的な政治目的は単純であるとは限りません。たとえ単純であったとしても、各種の行動が多数の条件や配慮と結びついているので、ただ一度の大きな戦闘によってではなく、全体と結びついた大小多数の戦闘によってのみ達成され得ます。

したがって、個々の戦闘は、どれも全体の一部であり、それぞれ特定の目的を持ち、その目的によって全体の目的(最終的な政治目的)と結びつけられます。

なお、戦術行動の方式(戦闘のやり方)には、大きく分けて「攻撃」と「防御」があり、戦闘の中で「攻撃」と「防御」が使い分けられます。

ただし、戦略レベルで、一つの戦闘そのものを「攻撃」または「防御」に位置づける場合もあります。その場合、一般的に、「攻撃」・「防御」の代わりに「攻勢」・「防勢」と呼ばれることが多いようですが、クラウゼヴィッツは「攻撃」・「防御」で通しているようです。

防御

「防御」とは、敵の攻撃を阻止することであり、その特色は、攻撃を待ち受けることにあります。

絶対的な防御は、一方だけが戦争を遂行していることになるので、戦闘とは呼べません。防御とは相対的なものであり、いかなる防御であっても、戦闘である限りにおいては、攻撃的な要素が全くないということはありません。

「待ち受ける」あるいは「阻止する」という特徴が、「防御」という総合的な概念に属しています。つまり、事前に装備を整えたり、自軍にとって有利な戦場を選んだり、事前に陣地を武装したりして、敵軍からの攻撃を待ち受けるということに、利点を見い出します。

待ち受け、阻止することには、当然に攻撃行動が含まれ、攻撃行動によってこそ、陣地または戦場の維持、すなわち防御が成り立ちます。

防御には、大きく2つの利点があります。

一つは、防御の目的である「保持すること」は、獲得することより容易です。攻撃側の無為な時間、例えば、判断の誤り、恐怖や怠慢による攻撃の中断は、すべて防御側の利益となるからです。

防御のもう一つの利点は、地形を利用できることです。

敵に主導権を与え、敵が前線に現れるのを待ち受ける場合、いかなる戦闘も防御的です。敵が出現した瞬間から、2つの利点を失うことなく、あらゆる攻撃的な手段を行使することができます。

ただし、防御は消極的な目的を持ち、弱体のゆえにやむを得ない場合に限って用いられます。積極的な目的を設定できるほどに十分強力になるやいなや、防御は破棄されなければなりません。

防御によって勝利が得られると、相対戦闘力が通常は有利になるので、戦争の自然な経過も攻撃で終わるのが普通です。

このような防御の特徴からクラウゼヴィッツが強調することは、防御は攻撃よりも強力であるということです。防御は、特徴的な利点のゆえに、劣勢である側が用いる方式、劣勢でありながら戦うことができる方式だからです。

歴史的に見ても、劣勢な側が攻撃を行い、優勢な側が防御を行った例はほとんどありません。いかに攻撃を好む指揮官であっても、防御をより強力な方式とみなしていたことは明らかです。

国土の内部への後退

国土の内部への自発的な後退は、一つの独立した間接的な抵抗方式とみなすことができます。この場合、敵は武力によってではなく、自ら招いた困苦によって破滅に至ります。

この場合、会戦が全く生起しないか、あるいは敵の戦力がかなり消耗する時点まで会戦が遅らされることになります。

攻撃のために前進する場合、その戦闘力は、前進そのものによって弱まります。防御側が新鋭の旺盛な戦闘力をもって自発的に後退し、国土のあらゆる地点で不断の整然とした抵抗によって敵を消耗させる場合には、前進は絶えず困難に直面し、戦闘力はますます弱まります。

防御側と攻撃側の間には、食料に関して大きな不均衡があります。攻撃側は食料の不足に苦しみ、防衛側は食料が余っている場合も稀ではありません。

防衛側は、どこにでも補給品を備蓄でき、そこに向かって前進します。一方、攻撃側は、前進を続ける限りすべてを後方から追走しなければならず、常に不足に悩むことになります。

このようなことから、国土が広大で、彼我の戦闘力の格差があまり大きくない場合、防御側は国土の内部に後退することによって、国境付近で決戦を行う場合に比べて、成功の可能性が大きくなることは明らかです。

他方、国土の内部における防御の方式には、大きな2つの欠点があります。

一つは、敵の侵入によってもたらされる国土の損害です。もう一つは、精神的な印象です。国民は犠牲になった地方の運命に同情と不満を感じ、軍隊は指揮官や自分自身への信頼を失いがちです。

国土の内部における防御の方式が有利な条件は、①ほとんど人家のない地域、②忠誠で勇敢な国民、③天候の不良な季節、の3点です。

これらの条件は、攻撃側の軍隊の維持をより困難にします。攻撃側には、大量の輸送、多数の部隊の分派、困難な業務処理が必要になり、様々な病気を誘発します。防御側が攻撃側の側面に対して行う行動を容易にします。

攻撃

防御は完全な受動に終止するものではなく、相対的なものであり、多かれ少なかれ攻撃的な原則に支配されています。逆襲を伴わない防御はなく、逆襲が防御の不可分の構成要素です。

ただし、攻撃そのものは完結した概念であり、それ自体に防御の要素は必要ありません。ただし、攻撃を制約している時間と空間によって、防御がやむを得ない害悪として攻撃に結び付けられます。

なぜなら、攻撃は一連の過程を経て最後まで継続されるものではなく、休止する時間が必要であり、その間に防御の状態を取る必要があるからです。また、前進する攻撃軍の後方は、自らの生存のために必要とする地域であり、防御が必要だからです。

攻撃において防御に移行せざるを得ないことは、攻撃を積極的に弱化させる原則とみなされます。

なお、戦闘力の構成要素は、攻撃と防御に対して異なる効果を持ちます。戦闘力のうち、要塞、国民の支援、同盟関係などは攻撃にほとんど役に立たないので、攻撃における戦闘力の範囲に含めず、防御の本質に関わるものとされます。

攻撃の戦略的目標

戦争の目標は敵の打倒であり、その手段は敵の戦闘力の撃破です。このことは、攻撃と防御の両方に当てはまります。

防御は、敵の戦闘力の撃破によって攻撃に移行しますが、攻撃は、敵の国土の占領に帰結します。したがって、攻撃の戦略的目標は国土の占領にありますが、占領の程度は、政治的な目的によります。

「攻撃の戦略的目標」という言い方をしていますが、「攻撃」そのものが戦略という意味ではありません。

攻撃は戦闘の方式であり戦術的手段ですが、戦略において国土の占領という目標を掲げ、それを達成するために「攻撃」という戦闘方式がとられるという意味です。

国土の占領は、戦略から見ると「目標」(戦略的目標)ですが、「攻撃」という戦闘戦術から見ると「目的」になります。

目標が達成され、攻撃が停止されると、攻撃側は防御に転移します。各種の攻撃の要素、すなわち意図や手段は、しばしば切れ目なく防御へ移行します。

攻撃における戦闘力の減衰

攻撃に伴って戦闘力は減衰するため、行動方針に関する正しい決定ができるかどうかは、これを正しく評価することにかかっています。

不可避的な戦闘力の減衰は、次のような原因で生じます。

  1. 敵の領土を自ら占領しようという攻撃目的
  2. 後方連絡線を確保し、生存するために、後方の地域を攻撃軍が守備しなければならないこと
  3. 戦闘における損耗と疾病
  4. 補給基地との距離
  5. 要塞の包囲と攻撃
  6. 肉体的な困苦と疲労
  7. 同盟国の離反

攻撃の限界点と勝利の限界点

攻撃側は、現に優勢な攻撃力を保有しているからこそ、攻撃を行います。しかし、攻撃力は次第に消耗しますから、優勢は減退します。

攻撃側は、攻撃力が優勢なうちに、講和における交渉のための有利な条件を手に入れようとしますが、その過程でも攻撃力は消耗していきます。講和まで優勢が維持されれば、攻撃の目標は達成されます。

しかし、講和が達成されるまで優勢が維持されることは稀であり、攻撃側が防衛に転移して何とか持ちこたえ、講和を待つだけの戦力にまで至るのが通例です。

ここに至ると、敵の反撃による逆転が起こります。このような反撃の激しさは自軍の攻撃力よりもずっと大きいことが多く、このような点を「攻撃の限界点」と呼びます。

したがって、攻撃において最も重要なことは、この限界点を見極めることです。

攻撃の限界点を戦争全体に当てはめると、「勝利の限界点」という考え方が出てきます。これは戦争の理論にとって非常に重要であるだけでなく、ほとんどすべての戦役計画の中心事項でもあります。

「戦役」は「戦争」と同義に使われることが多いですが、敢えて区別するとすれば、戦争状態にある両軍が行う、相互に関連する一連の軍事行動とされます。

「戦争」は両国関係の状態であり、その状態の中に、ある戦場で一定の戦役が行われ、その戦場を占領し、防衛軍を置いて別の戦場に移動し、再び戦役を行い、ある時点で休戦して交渉する、などの様々な局面が含まれます。

勝利は、通常、物理的・精神的な力の総和が敵よりも優勢であることから生じます。勝利によって優勢は増大することも確かです。そうでなければ、勝利を望み、勝利のために多大の犠牲を払う者はいません。

しかし、この優勢は最後まで続くのではなく、ある一定の時点までしか続きません。

前進の場合、戦闘力を増大させる(敵の戦闘力が減少する)最も重要な要因は、次のようなものです。

  1. 敵軍および敵の倉庫、補給施設、橋梁などに被る被害
  2. わが軍が敵の領土に侵攻することによって、敵の戦闘力の源泉となる地域が失われる場合(自軍にとっては、その地域の資源を獲得する場合)
  3. 敵の内部の統一が失われ、正常な動きが不可能になる場合(ショック効果)
  4. 敵の同盟国が離反し、わが軍の同盟国になる場合
  5. 敵の指揮が低下し、一部は戦意を喪失する場合

戦闘力を減少させる(敵軍の戦闘力が増大する)要因には、次のようなものがあります。

  1. わが軍が敵の要塞を包囲し、攻撃し、あるいは監視下に置かざるを得ない場合(多くの兵が拘束されるため)
  2. わが軍の要塞を包囲し、攻撃し、あるいは監視下に置いていた敵軍が、勝利を諦め、退却に際してその軍を引き揚げて兵力を節約する場合
  3. わが軍が敵の領土に侵攻した場合(戦域の性格が変化し、敵対的なものになる)
  4. わが軍が自らの補給源から遠ざかるのに対して、敵は、彼らの補給源に近づいていく場合(消費した戦闘力の補充の遅延)
  5. 敗北の危機に立った国家に対して、他の大国がその支援に乗り出す場合(その大国の戦闘力が減少することによって、その関係同盟国全体の戦闘力が減少する)
  6. 敵が敗北の瀬戸際で最後の力を振り絞るのに対して、わが軍が勝利を目前にして努力に弛緩が生じる場合

勝利者には、危機が遠ざかったとき、精神的な弛緩が生じることがあります。つまり、勝利の活用あるいは攻勢戦争における前進は、攻勢を開始した当初の、あるいは勝利によって得られた優勢を減少させるものであるということができます。

戦闘力の優勢は、目的ではなく手段です。目的は、敵を打倒するか、少なくとも敵の領土の一部を占領することのいずれかによって、戦争の遂行または講和に際して有利を得るためです。戦闘力の現状を改善すること自体は目的ではありません。

したがって、最後の力を振り絞って勝利を求めなければなりません。勝利者は、勝利を確実にするために、さらに新たな努力を必要とします。

要するに、戦争において保有し、あるいは獲得された優勢は、単なる手段なので、目的のために使用されなければなりません。どこまで優勢が維持できるかの限界点を認識し、それを越えて前進することによって不名誉を招かないようにすることが必要です。

したがって、攻勢から防勢への転換点が、このようなすべての戦役計画の自然な目標となります。