組織文化

組織文化とは、組織を構成する人々の間で共有された価値や信念、習慣となった行動が絡み合って醸し出されたシステムです(有斐閣アルマ『組織論』桑田耕太郎・田尾雅夫)。

組織が様々な状況や問題に対処する過程でつくり上げられていくものですが、組織が置かれている客観的・物理的な環境そのものではなく、その環境に関する組織の認知や解釈が重要な形成要因となるため、同じ環境に置かれていても、組織によって違った文化が形成されます。

組織文化は、目に見えず、具体的な形をもたないことが特徴です。メンバーの内面に取り入れられて同一化され、無意識に準拠して行動するようになっていきます。

ですから、外部の者が組織文化を読み取ることは簡単ではありません。組織内部のメンバーでさえ、無意識に準拠していることが多いため、改めて意識したり、言葉として表現したりすることが難しい場合も多いと言えます。

組織が置かれている社会環境は変化するため、組織も変革しなければなりません。組織変革とは、通常、組織文化の変革ととらえられており、その手段が組織開発です。

組織文化は、メンバーの内面に同一化され、無意識化しているため、組織文化の変更は非常に難しいのが現実です。

組織風土

組織は、様々な状況や問題に遭遇し、その都度試行錯誤しながら対処していく過程で、暗黙的に様々な規範やルール、慣習、価値観などを形成していきます。そして、次第にメンバーの判断や行動に影響を与え、制約を課すようになっていきます。

それらの暗黙的なものが形成されていく過程では、レビンによると、物理的な世界そのものではなく、各メンバーが物理的世界をどのように認知し、評価したかが重要であると言います。認知、評価されたものは、複合的に再構成されて主観的な世界をつくります。レビンは、この主観的な世界を「生活空間」と呼びました。

「生活空間」は、客観的・物理的な環境とは似て非なるものです。メンバーが認知したその場の全体的な気分のようなものです。その場にいないと感じ取ることができない独特の雰囲気を持ちます。

「生活空間」は主観的であるため、組織に特有の世界観であるとも言えます。ですから、「生活空間」への対処の過程で生まれてくる規範やルール、慣習、価値観なども、組織に特有のものになります。

その結果、メンバーの判断や行動に与える影響も組織に特有のものとなっていきます。同じ環境や問題に直面しても、組織によって異なる課題が設定され、異なる戦略や行動が導き出されるのはそのためです。

リットビンとストリンガーは、「生活空間」への対処から生まれ、組織のメンバーに影響を与える組織に特有のものを「組織風土」と呼びました。組織や職場集団、仕事に対する各メンバーの見方です。

各メンバーの捉え方や見方が同じであるとは限りませんが、違い小さくなればなるほど、組織風土は共通化され、明瞭な形で認識できるようになってきます。その結果、それぞれの判断や行動に影響を及ぼし始め、さらには制約するような力を持つようになります。

組織文化

アシュフォースによれば、組織風土は知覚のレベルが共有されたものですが、それが仮説として共有されるようになると、「組織文化」と呼ぶべきものになります。

「知覚」とは、感覚器官を通して,外界の事物や事象を把握することです。単なる「感覚」との違いは,事物や事象が同じか違うかなどの区別,個々の関係、事物や事象を全体としてとらえるという意味が含まれることです。

「仮説」とは、ある現象の観察や実験の事例から,現象を説明できるような法則などを見出すために設定される仮定のことです。様々な「知覚」を複合して吟味したり、推論したりして、組み立てられます。

組織文化は、何が重要であり何が重要でないかについて、メンバーの経験に共通の意味を与えることで、判断や行動を枠づけ、方向づけます。

特定の方向づけが明確に打ち出されるようになると、単なる知覚から仮説にまでなり、メンバーの行動を制約するようになります。もはや規範と呼ぶべきものになり、規範への準拠の度合いが、組織文化が強いか弱いかを決めます。

組織文化を改めて定義すると、組織を構成する人々の間で共有された価値や信念、習慣となった行動が絡み合って醸し出されたシステムです。

組織文化を創造する基本的な条件は、メンバーが、そこにいて見るもの、聞くもの、触れるものを共有し合って、組織へのアイデンティティを強くもつことです。

組織文化を読み取る手がかり

組織文化は、通常、成文化されていません。目に見えず、具体的な形をもたないことが特徴です。メンバーの内面に取り入れられて同一化され、無意識に準拠して行動するようになっていきます。ですから、外部の者が読み取ることは簡単ではありません。

しかし、組織文化を読み取る手がかりとなるものはいくつかあります。

  • 儀式、セレモニー
  • シンボル、表象(社旗、制服、バッジ、創立者の語録など)
  • 言葉(隠語を含む。)
  • 物語や伝承(創業に関するエピソード)
  • 組織図

などの中に、組織文化が表れています。これらの手がかりが、逆に組織のメンバーに組織文化を伝え、強化するための手段ともなっています。

最後の「組織図」については、シャインによると、人間関係や指揮系統など、組織の「構造」と考えられている関連事項をまとめたものです。

組織図は、組織がそれまでに学習してきたことを反映した暗黙の仮定や想定に基づいてつくられています。組織において物事がいかになされるべきかについての前提を意味しており、組織文化の不変的な要素であると言います。

組織文化の学習過程

強い組織文化が成り立つためには、メンバー相互の暗黙の合意、あるいは価値や信念の共有が不可欠です。シャインによれば、組織文化には、それを認識し、採用し、学習する過程があると言います。

価値観を同じものとして認識し、採用することで、同じように考え、行動するようになります。目標について合意がなりやすく、何をどのようにすればよいかも一致しやすくなります。すなわち学習がなされることになります。

学習を促進するために、組織では、同じような考えや見方を育むような機会を提供しようとします。社宅や寮、運動会や趣味の会、QCサークル活動などです。

同じような見方や考え方を持つようになるための要因には、次のようなものがあります。

  • 近接性(メンバーが物理的に近接していること)
  • 同質性(性や年齢、学歴、職位などの特性、興味や関心が似通っていること)
  • 相互依存性(相互依存関係が強く、協力し、連絡調整が必要な仕事)
  • コミュニケーション・ネットワーク(双方向で全体的な情報の流れ、マルチチャネル型)
  • 帰属意識の高揚(研修、社是・社訓、小集団活動など)

組織文化の働き

組織文化は、メンバーの考え方や行動を制約する働きをします。組織の凝集性(互いに魅き合う程度)が高いほど、斉一性への圧力が高くなります。

その場合の弊害は、ソーシャル・リアリティ(社会的事実)の発達です。客観的な事実ではなく、多数のメンバーが信じるべきであるものを事実としてしまうことです。元々仮説であったものが、検証されないままに、前提となってしまうことです。

斉一性への圧力から逃れようとする者は制裁を受けることがあり、最悪の場合は追放されることもあります。

組織文化の変革

組織が置かれている社会環境は変化するため、組織も変革しなければなりません。組織の変革とは、通常、組織文化の変革ととらえられています。

文化とは様々な下位文化の複合でもありますので、一つの文化を変革するだけで組織全体の変革につながることはないと言われています。

組織文化の変革を総合的に行うのが、組織変革であり組織開発です。組織構造を構成する要因である、規模、技術、機能、部門、階層、職務分担、各種制度などの外形的なものを効果的に変更しながら、それらの背景にある文化をつくり変えていきます。

変革の過程には、主要な2つの段階があります。一つは「導入」であり、知識の喚起、変革に向けての態度の形成、決定からなります。もう一つは「実行」であり、初期的実行(試みによる実行)とその持続的実行(フィードバック・ループ)です。

変化のためには、支持をできるだけ多く集めること、抵抗を除去するための方策を立てることが必要です。しかし、現実には、組織文化の変更は非常に難しいと言われており、妥協は避けられません。