利益の意味

利益は企業の目的ではありません。

ドラッカーによると、そもそも利益なるものは存在しないと言います。利益には手段としての明確な役割があります。

すなわち、企業会計上、利益として報告されているものは、事実上のコストであるということです。ドラッカーは、コストととしての役割を含め、利益には3つの役割があると言います。

また、利益は事実上のコストであるからこそ、利益計画から始める経営計画を策定することの意義が明らかになります。

利益が事実上のコストである以上、資本主義に特有のものではありません。企業に特有のものでもありません。

利益の役割

判定基準

企業の目的は「顧客を創造すること」です。「顧客」は企業が提供する財やサービスに対する支払いをしてくれる人ですから、顧客を創造した結果、得られるものが利益です。

言い換えると、企業の意思決定や活動が、妥当であったかを判定するための基準であるとも言えます。顧客から見て、支払いに値するものであったかどうかです。

将来のコスト

最も重要なこととして、利益は、企業がその目的を果たし続けるために必要な条件です。高い利益を上げて初めて、社会貢献を果たすことができるからです。結局のところ、利益とは「将来のコスト」の別名であるということができます。

この意味で、企業が存続し、社会的、経済的責任を果たし続けるためには、適正な利益をあげつづけなければなりません。

利益は、企業が将来にわたって富の創出能力を最大化していくために必要なコストなのです。

資金のコスト

資金は、人的資源(労働)や物理的資源(土地、建物、設備など)と並んで、経営活動に必要な資源です。

無料の資源はありません。資源には必ずコストがかかります。資金も例外ではありません。

借入金のコストは利息です。出資金のコストは配当です。利益がその原資になります。

不確定性というリスクに対する保険

企業活動は、現在の経営資源を不確定な未来のために投資することです。不確実な未来には、大きく3つの面があります。

第一に、製品やサービス、生産工程、設備などの陳腐化です。第二に、市場販売網、消費者の価値観などの変化です。第三に、経済、技術、社会の変化です。

このような不確実な環境のなかで、投資したすべての事業が成功することはありません。失敗する事業の方が多いため、十分な保険をかける必要があります。

機械や設備、建物などに対しては、故障、火災などの損害のリスクに備えて保険に入ります。為替の変動に対してもリスクヘッジします。

失敗した場合に被る損害、社会に与える可能性がある影響への対処など、様々なリスクを洗い出し、保険としてリスクヘッジしておかなければなりません。

これらの保険は、不確実な未来に対する不可欠のコストであり、現在の利益から賄わなければなりません。これらの保険を賄えない程度の利益であれば、事業としては不適格であり、企業を危険にさらすものです。

よりよい労働環境を生むための原資(人件費、雇用保険など)

企業は社会の経済的な発展に貢献しなければなりません。よりよい雇用、よりよい仕事、よりよい生活、将来の年金を生み出すことに貢献する必要があります。

より豊かな社会をつくるための原資が、企業の生み出す利益です。

医療、国防、教育、オペラなど社会的なサービスと満足をもたらす原資(税金、寄付など)

これらの社会的な満足も、企業活動が生み出す経済的余剰によって賄われます。安心、安全、快適な社会をつくるために必要不可欠なコストです。

国家の経済発展への貢献

企業は、国家全体の経済発展にも貢献することが大切です。

経済発展とは、より大きく複雑な危険を負うことのできる能力の向上を意味します。それはまた、技能と知識によって肉体労働を代替することであり、未来におけるより多くのよりよい職場の創出を意味します。

したがって、経済発展には、前提として資本形成の能力が不可欠です。過去と現在の費用を賄ったうえで、どれだけの余剰を生み出せるかにかかっています。そこに、企業の利益創出能力が問われます。

さらに、経済発展には、資本投下の能力も必要です。知識を必要とする職場ほど多額の資金を必要とします。設備や機械に対する巨額の資金、教育投資が必要です。

確実な資金調達

利益は、直接的には社内留保による自己金融の道を開きます。間接的には、事業に適した形での外部資金を呼び込むための誘因となります。

経営計画の重要性

経営計画を策定するに当たっては、利益計画から始めることが必要であると言われます。しかし、将来生み出すことができる利益を予測することなど不可能です。

しかし、将来の事業継続または事業発展のために最低限必要な経費がいくらになるかは、算定することが可能です。それはまさに経営者の意思であり、目標であるからです。

人件費など必要最低限の経費のほか、資金の費用、事業継続に必要な最低限の設備投資、教育訓練、研究開発などを賄わなければなりません。

その将来に必要な費用に充てられるものこそが「利益」です。その必要利益を確保するために、いかに事業を運営していくのかを決めるものが経営計画です。

まず、不必要なコストを削減して、資金を自由にしなければなりません。そのためには、既存の製品やサービスの廃棄、事業そのものの廃棄を検討しなければなりません。

次に、既存の製品で賄うことができないらば、新製品を開発しなければなりません。既存事業によって賄うことができないならば、新規事業を開発しなければなりません。

将来の利益と考えると、「いくら儲けることができるか」という発想になり、達成できそうな無難な目標になったり、さもなくば単なる夢物語になったりしがちです。

しかし、事業継続または事業発展のために必要な費用と考えると、「絶対に確保しなければならない」ものになります。確保しなければならないから、経営計画を立てなければなりません。

ですから、経営計画は達成しなければならないものです。将来の必要な費用である「利益」を達成するために、誰が、何を、いつまでになすべきかを決めるものなのです。