「営利企業」という害毒

ドラッカーによると、「利益」という言葉は社会の大きな反感を作り出しました。「営利目的」という企業の定義も、企業に対する不信感や反感とつながっています。

企業が営利を目的とする限り、社員や社会との対立は解消できません。

企業の目的をどう定義するかは、単なる言葉の綾では済みません。企業の価値観を規定し、メンバーの行動を支配することにもなります。

「顧客の創造」という企業の目的は、利害の対立を緩和するうえでも重要です。

利害対立緩和のポイントは「仕事」です。仕事そのものに焦点を合わせることが、企業と社員の利害対立を調和に導くために必要なことです。

目的が行動を規定する

「企業は『営利』(利益を図ること、金儲け)、『利潤追求』あるいは『利潤の最大化』を目的ととする」という定義を相変わらず使っている例を見かけます。

どれほどの厳格な意味を持たせているのか、それとも、深い意味なく使っているのか、よく分かりません。

ドラッカーによると、「利益」という言葉は社会の大きな反感を作り出しました。「営利目的」という企業の定義も、企業に対する不信感や反感とつながっています。

企業の目的を「営利」であると定義したときに生じる認識を、決して軽んじてはいけません。言葉は独り歩きします。言葉の綾では済みません。

表明された企業の「目的」は、企業の価値観、進むべき方向を規定しますから、メンバーの行動を規定し、企業に対する社会の認識も規定します。

「営利目的」が導く不信感と対立

「営利」を目的とすると、その他のものはすべて手段になります。「目的」は目指すものであり、「手段」は目的を果たすために利用するものです。

企業がある商品を顧客に販売しているとすれば、営利を目的にして、手段として商品の販売をしていることになります。企業から見ると、顧客は企業の営利の手段です。

企業と社員の埋めがたい利害対立

社員の目的は、主に、生計のための給与の獲得、仕事を通じた自己実現と言えましょう。

一方、会社の側は、自社の営利のために社員を雇用し、仕事を与えることになります。

社員と企業は常に利害が対立します。企業は自社の利益を最大化することを目的にして行動しているという認識ですから、社員にとっては、その利益をいかに多く自分の側に配分させるかが争点になります。

企業からいくらの額が提示されようとも、社員にとっては「不十分ではないか」という印象をなくすことはできません。

不信感を基盤にしたパイの奪い合いという闘争に終わりがありません。営利目的そのものが利害対立を必然的なものにしているため、調和を見出すことは困難です。

会社に対する社員の忠誠心など、期待する余地があるのでしょうか?

社会の不信感

社会にとっても不信感をつくり出します。

企業は、社会にばれて糾弾されない限り、利益を最大化するために手段を選ばないと理解されかねません。今でもそのような認識は根強くあるはずです。

産地の偽装、賞味期限の改ざん、産廃の不法投棄、有害物質の垂れ流しなど、枚挙にいとまがありません。

そのような企業の経営者は、営利目的に規定された判断や行動をとっていると見て間違いありません。

そのような企業では、社員も同様の思考になってしまうでしょう。営利目的は、少ないコストで多くの売上をあげること自体が目的ですから、少ない労力で、時には際どく、時には明らかに違法な方法で、楽して売上を増やすインセンティブが働いても仕方がありません。

道義や正義を口にしたら、「甘っちょろい」、「青い」などと言われるでしょう。そんな経験をした人は、決して少なくないはずです。筆者自身も、しばしばそのようなことを言われてきました。

「顧客の創造」が導く調和の可能性

企業の目的が「顧客の創造」であるなら、利害対立はどうなるでしょうか?

企業は存続・発展を目指し、社員も経済的な豊かさを求める以上、利益をいかに配分するかに関して、利害対立を完全になくすことは困難です。

しかし、それを調和させる方向に向けさせることはできるはずです。

企業と社員がコントロールできる唯一のものは仕事

社員にとって給与は重要ですが、それと同等かそれ以上に重要なのは「仕事」そのものです。

一日の時間の多くを費やす仕事にやりがいを求め、自己実現を期待することは自然なことです。多少給与が少なくても、やりがいのある仕事の方を選ぶ人は少なくないはずです。

実際のところ、社員が直接に所有し、コントロールを及ぼせるのは、自分の仕事しかありません。

企業にとっても、それは同じです。

「顧客の創造」が企業の目的ですが、企業が提供する財やサービスに価値を見出し、経済的対価を支払うかどうかを決めるのは、企業の外にある顧客です。

企業は、顧客に価値を提供するために、人、物、情報などを組み立てて、プロセスとしての仕事を組織します。

結局のところ、企業が唯一所有し、コントロールできるのも「仕事」以外にありません。

仕事がうまく機能し、顧客の創造が実現すれば、企業は顧客から対価として利益を獲得できます。利益によって、社員に給与を払いつつ教育し、設備を更新し、より生産的な仕事を社員に与えることができます。

顧客を創造できなければ利益はなく、社員に与える仕事も、雇用すらも継続することはできません。

「顧客の創造」という目的を果たし続けるため、企業は利益という手段を必要とするのです。

仕事に焦点を合わせる

「顧客の創造」という企業目的から直接導かれるのは「仕事」です。企業と社員が唯一共有し、協働できるものでもあります。

「仕事をより生産的なものにする」ことに焦点を合わせることによって、利益は、会社と社員にとって共通の手段となります。

利害対立を調整し、調和の方向へと導かれます。